8日目
時刻は深夜0時を過ぎていた。黛に指定された場所にタクシーを走らせ私達は向かった。
場所は、神保町の古びた古書店を指定してきた。こんなとこで黛に会えるのか?と思ったが気が気じゃなかった。
古書店は古びた外装で幼稚園児向けの雑誌のラックが置かれていた。何年も置きっぱなしにしていたのか、日焼けしていた部分が黄色くなっていた。自動ドアのようだが、ガラスにヒビが入っていて、ここを通るのは危険そうだった。
「こんなとこにいるのかよ」井川は鴨田に確認した。
「昼会った時と場所が違うんだよ。俺にもわからない」
タクシーの社内で私達はほとんど会話をしなかった。こんな馬鹿げたことを車内で話しても運転手におかしく思われるかもしれない。そんな考え事をしていたら、指定された古書店に到着をした。
「汚いですね‥坂枝さん、どう思います?」小声で私の近くに寄ってきた井川が聞いてきた。
「うん、ちょっと信じられないと思うけど。先日の一連の出来事もあるし、どうだろうか」鴨田にバレないように小声で答えた。
「タクシーの中で調べてみたんですよ。【神風】って組織について、全く情報出てこないですよ。神風特攻隊とかそんなのとかですよ」
古書店の電気が付き、お店の前の自動ドアが悲鳴を上げながら開いた。
「こっちだ。早く来てくれ」
その声は聞き覚えがある声だった。内海と打ち合わせで話をしたことのある人物だった。黛慎太郎本人だった。
「こっちの話も聞かずに場所だけ伝えて切るのはなしですよ」鴨田が半ば怒りながら黛に質問した。
「すまない。鴨田君許してくれ。ただ、そこの二人も危ない状態にあるのは間違いない。早くこの事を伝えるべきだと私は判断した」
驚いた事に黛の顔は凛々しく、逞しさもあった。内海と会ったあの時の弱々しい黛の印象はほとんど残っていなかった。
「とりあえず中に入ってくれないか。全てを話そう」そう言うと、鴨田は私達を迎え入れて、辺りを確認して用心深く自動ドアを閉めた。
店内はホコリだらけだったが、奥へ進むと事務室なのか、中はキレイに整理されていた。丸型のテーブルが部屋の真ん中においてあり、それを囲むように椅子が4脚ほど並べてあった。私達はそこに腰掛けることにした。
「こんな時間に呼びつけてすまなかったね。坂枝さんだったかな、この間はどうも」名刺交換よろしく私も反射的に軽く挨拶をして頭を下げた。井川の事も黛は知らなかったので私から紹介をした。
「単刀直入にどういうことか教えていただけますか?」井川が鋭く切り込んだ。
「正直いうと僕は、まだ信じられないんです。神風とか平和商会とか軍隊を作るとかなんか稚拙だなって思ってしまいます。作り話ではなく本当の事ですか?」井川は内心怒っていたに違いない。
「すまない。巻き込んでしまっているのは重々承知だ。あの掲示板のソースを解読する人が出てくるなんてこちらも思っていなかった。」一呼吸おいて黛は話した。
「恐らく鴨田くんから話を聞いていると思うが、全て本当だ。私は俵先生の秘書をしていたし、リンクはこの国にあってはならないものなんだよ」
そういうと黛は、タブレット端末を出して動画.mp4と記された動画ファイルをタップして私達に見せてきた。
深夜二時ということもあり、古書堂の通りの前は車も殆ど通ることなく、静かだった。
私と井川はまだ信じられないと考えを巡らせて、沈黙していた。
黛は缶コーヒーを人数分用意してこちらに寄越してきた。店の前の自販機で買ってきたようだ。
「さっきの動画が真実だ。リンクはこの国にあってはならない。リンクを潰す事に協力してほしい」あの頼りない黛はどこにもいなく覚悟を決めた男の顔になっていた。
「‥リンクを潰せば、最悪の状態は回避出来るんですか?」井川が強張った表情で確認した。
「出来る。井川君ならリンクの内部にハッキングすることだって問題ないと思うがどうかな」黛は井川に絶大な信頼を寄せているようだが、そこが何故か引っかかった。
「井川君、無理することないさ」ここにきて間の抜けた慰めの言葉が空回りする。
「リーダーやりましょう!と言いたいけど、流石にリンクにハッキングなんて無理ですよ。こんな大規模なサービスを壊すなんて無理っすよ」
鴨田の言う通りだった。そんなことが簡単に出来るわけがない。井川だってその事はわかりきっていたはずだった。
「平和商会のメンバーにもリンクの情報に精通しているメンバーもいるんだ。ここにリンクのソースコードが全て入っている。セキュリティ関係の情報も全てだ」
そう言うと、黛はUSBメモリをこちらに見せてきた。何か必殺のアイテムであるかのように堂々としていた。
「ただ、それが本物かなんてわからないじゃないですか」私は井川の反応を伺いつつ聞いた。
そういうと、黛は手元のノートPCにUSBを刺して画面を見せてきた。
その画面に映し出されていたのは、黒い画面に英数字が羅列されたソースコードだった。テキストファイルではセキュリティ関連の機密情報らしきテキストが、一覧で表示されていた。
「これでも信じてくれるかな?君にこのUSBは渡す。1日眺めていてもらっても構わない。だから私達に力を貸してくれ」
「でもっすよ、なんで平和商会の人がリンクを壊す事をしないんですか?」鴨田が不思議そうに質問した。
「君たちが思うような秘密結社でもないし、大規模な企業でもないんだ。人数も数名といったところでエンジニアなんて居ないんだよ。ただ、情報を収集するだけで、その情報を売っているだけ。井川君ならこれを見てわかると思ったんだが‥」
どういうことか私にはわからなかった。井川が何故リンクのソースを見て理解ができると踏んだのだろうか。
「井川君、何か知っていることとかあるかな?」いつもの感じで質問をしていたが井川は諦めたように話し始めた。
「‥リンクのデモ作ったの僕なんですよね‥。大学の時にサークル仲間とみんなで作ったんです。ネットの中でもリアルのような世界があったらいいなって。その中のひとりが、急に大学中退して、気づいたら起業していたんです。それがモンドなんですよね」
唖然とした。そんな秘密が井川にあるなんて思わなかったからだ。
ただ、腕の立つエンジニアかと思ったが、リンクのデモを作ったことなんて知らなかった。
「友達ネットってサービス名でサークル内で使っていたんですよ。霧島ってやつだったんですけど、急に中退しちゃって‥。友達ネットのソースも全て消されてて、気づいたらリンクなってサービスを作っていたんですよね。絶対に許さない。俺たちが作ったのに。って恨んでいたんです。あの掲示板なんですよ、ソース見ててわかっちゃって」
独白のように井川がすらすらと話はじめた。まるで今回の首謀者のように流暢に話すので若干恐怖を感じた。
「書いてあったんです。殺害方法と標的って言うんですかね、霧島優悟。刺殺丨」
「で、どうだったんだよ」鴨田が訝しげに聞いた。
「死んだんだよ。ガンで。確かニュースにもなったはずなんだ。でも、この掲示板を見ると刺殺って書いてあるし、twitterで霧島の裏垢もあったからさ。見ていたんだよ。追いかけられている、とか殺されるとかそんな書き込みしかなかったんだよ」
「平和商会はそこまで情報は掴んでいた。だから、君に依頼をしたいと考えた。井川真実とどう接触しようかとね」一呼吸黛は置いた。
「ただ、坂枝くん、君たち側から接触してくるとは思わなかった。君たちの会社の事も調べはついていたけどね、ただあの女性の内海さんかな‥?彼女もそこまで調べがついているとはね」コーヒーを一口飲みながら黛は続けた。
「私もシステムワークスという企業に所属はしているが、裏では平和商会の一員だ。頼む。リンクの破壊を手伝って欲しい」
「そうなると、犯罪に手を貸すって事になるんですよね」私は黛に質問した。リンクの破壊というのも簡単かもしれないが、実際にそれは犯罪行為だ。そう考えざるを得なかった。
「俺はやりますよリーダー。やられっぱなしも悔しいし。データを破壊して真実をみんなに教えてやりましょうよ」
「僕もやります。というより、すいません。リンクのソースを見たいという気持ちの方が強いかもですが、やっぱりこれは世間に周知するべきだと思います。霧島も殺されたんです…仇は取ってやりたい」
2人は冷静に私に意思の表明をしてきた。こんな馬鹿げた話信じられないと思ったが、先日の追跡の件もあり、もう片足は突っ込んでいるのだと自覚した。
「リーダー、どうします?」
鴨田が不安げに私を見てきた。この優柔不断な性格は昔から直したいと思ったが、この状況でも私を悩ませる事になっていた。
置いてある缶コーヒーを飲み干して、私は意思表示をし
Middle management @maison_color
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