第12話

 エリーゼ達が魔物の死体の山を見た場所よりももっと奥深く、そこではエリーゼの推測通りファフニルがテイムケインを使って操った魔物たちからエネルギーを根こそぎ奪い取っていた。

 モンスターを制御下に置くことが出来るテイムケイン、いざ使ってみれば驚くほどお手軽にモンスターを操れた。

 この次元にも洗脳や催眠を施すアイテムや魔法は存在するがこれほど簡単に、しかも何のデメリットも無しで操作できる物など長い時は生きるファフニルも知らない。

 もし実在したらそれこそ神器級のアイテムとして伝説に残っていただろう。


 集めたモンスターの生気を奪い、エナジウムクリスタルへと変換させながらファフニルはぼやいていた。


「私は必ず王になってみせるわ。世界の帝王にね」


「ファフニルの姉御。俺たちのボス、グアンザ様は絶大な権力の持ち主。あの方に取って変わることなんか不可能です」


「いやこの世に不可能なんてありはしないわ。誰にだって弱点の一つや二つは必ずあるものよ!そこを突く!」


「でもグアンザ様は違いますよ」


「まぁいいわ。さっさとここら一帯のエネルギーを回収してグアンザに私の凄さを分からせてやろうじゃないのよ」


 そこで話を区切り、エネルギー収集を再開する。モンスターの生命力を根こそぎ奪うことでエネルギー源を獲得するこの作戦はテイムケインの効果のおかげでとても順調に進んでいた。


「あっはっはっは、こりゃあいいわ。面白いようにエネルギーが集まっていくじゃないのよ」


 瞬く間にテイムケインへ蓄積されていくエネルギーの量に思わずファフニルは笑い声をあげる。

 そこへ新たにエネルギーを奪取する魔物を捕獲してきたサングベクが歩いてきた。


「ファフニルの姐さん、俺たちでかいモンスターを取っ捕まえたり逃げようとする魔物を追いかけたりでもうくたくた。これが終わったら大盛りラーメン奢ってくださいよ」


「ラーメンでもちゃんぽんでも何でも食べさせてやるから早く作業を進めるわよ、誰かにここが見つかったら面倒だからね。いい?もし敵がきたら私を援護して敵を叩き潰すのよ」


「了解姉御!姉御が来たら敵を援護して姉御を叩き潰す!」


「逆だバカ!本当に大丈夫でしょうね!」


 こんな森の最深部にわざわざ来る者などほとんどいない筈だが万が一、何者かに見つかれば戦闘は避けられなくなるだろう。

 それを懸念し、ファフニルは早急にエネルギー収集を終わらせようとしていた。

 そして通信機から電子音が鳴り懐から取り出す、グアンザが首尾の状況について聞いてきたようだ。


『作戦経過を報告せよファフニル』


「生体エネルギーの強奪は順調よ、ここら一帯の魔物からは一通りエネルギーを奪い終えたわ」


『そうかよくやったぞファフニル、褒めて遣わす。ではエナジウムクリスタルを持って直ちに引き返せ。転送装置で3人そろって帰還せよ』


「仰せのままに。でもグアンザ、今度の作戦は私の手腕が優れていたからで、ん?」


 そこでファフニルの言葉が途切れる。

 ドラーグスとサングベクが歩いてきた茂みがガサガサと揺れ、3人は怪訝そうな表情を浮かべ視線をその一箇所に向けた。


「新手の魔物かしら?丁度いいわ、帰る前に最後のエネルギーをいただくとしようか!」


 揺れる茂み目掛けてテイムケインを構えるが、ファフニルのその予想はひっくり返ることとなる。


「へいへい!パラリラパラリラ!!」


「そこのけそこのけ!イカレが通る!!」


「バーカーサーのお通りだわよおおおお!!」


 おまる暴走族が草陰から飛び出した!


「わあああああ!?何だあああああああ!?」


 茂みの奥から現れたのは、おまるで爆走しながら突撃してきたオコワ、ノーベル翔、ナル美の馬鹿3匹であった。

 この今まで見たことがない異常な状況にファフニルは驚き叫ぶ。


「オラオラぶっちぎるぜー!!!」


「うわ!何だこの馬鹿は!」


 おまるで突進してきたノーベル翔を慌ててドラーグスは避ける。馬鹿3匹は一通りおまるで暴れ回ると集合しおまるを停車する。

 そして馬鹿3匹に遅れる形で茂みの奥からエリーゼがやって来る。

 エリーゼの視界には先程見た光景と同じようにエネルギーを抜かれた魔物たちが横たわっており、その奥にいる妙な杖を持った竜の特徴を持った女性と2体の人型モンスターが立っていた。


「お、お前は次元神エリーゼ!てことはコイツらは次元パトロールか!!」


「貴方はファフニル!?」


 馬鹿3匹のアレな行動のせいで思考が追いつかず呆けていたファフニルがグアンザから聞いていた次元神エリーゼの姿を見て驚愕し現実に意識を戻す。

 エリーゼの方もファフニルがこの場にいることに驚いている様子だ。


「エリぴっぴ、あの女のこと知ってるのか?それにアイツ俺ちゃんたちのこと次元パトロールって‥‥」


「あの子は魔王ファフニル。この世界の勇者によって倒されたけどグアンザに蘇生されて配下に入った、かつてこの次元の地球を支配しようとした魔王よ」


 オコワに問われたエリーゼが言った説明にファフニルは苦々しく表情を歪める


「この私を勝手にあんな野郎の部下にするんじゃ無いわよ、奴とは一時的に手を組んでやってるに過ぎないわ」


 この女はどうもプライドの高い性格らしい。

 だが敵の事情に深く詮索するつもりは無く、グアンザと手を組んでいるというのなら手下だろうがそうで無かろうがやることは変わらない。


「つまりここに来るまでに転がっていた魔物たちの死体も貴方たちの仕業ってことね?」


「ええ、あの魔物たちのエネルギーは私がありがたく頂戴してやったわ」


 ファフニルはオコワたちを一瞥してから不敵な笑みを浮かべる。


「丁度いい、ここで全員皆殺しにしてやればグアンザの奴も私への態度を改めざるを得ないでしょうね。一人残らず血祭りにあげてあげるわ!」


 エリーゼたちをファフニルはこの場で迎え撃ち屠ろうとする、だが通信の向こうからグアンザが止めるように声を張り上げる。


『ファフニル!何をする気だ!貴様の任務はエネルギーの収集であって次元神どもの討伐では無いのだぞ!エネルギーを回収しさっさと帰還しろ!!』


「せっかくの獲物を前にしてみすみす逃す手は無いわよ!いいから黙ってろ!」


 何を恐る必要があるのだと言わんばかりにグアンザからの通信を切断しファフニルは戦闘態勢に入る。



「ファフニル、一つだけ聞かせてくれないかしら?」


エリーゼはファフニル一人を見据え、彼女に尋ねる。


「この世界は貴方の故郷でもある筈でしょう?それなのに何故グアンザと手を組んでこの世界を襲うの?」


 しかしファフニルは鼻で笑い、怨嗟の想いを込め突き放すように告げてきた。


「故郷?だから何?知らないわよ。そんなもの滅ぼしてやるわ。私の価値を認めなかったこんな世界なんてどうでもいいのよ!あんなクズどもが泣いて苦しむなら大歓迎だわ!アハハハハハ!!」


 交渉は決裂だった。ファフニルの瞳に一点の迷いもないことを見透かしたエリーゼは頷いた。


「なら、この世界のために、貴女を止める!」


「アンタたちみたいなクズどもに私を倒せるわけ無いでしょうが!」


 ファフニルにもファフニルなりの思いがあり、この凶行に及んでいるのだろう。しかし暴虐に加担すると言うのなら止めなくてはならない。

 エリーゼ、そしてバーカーサーたちはファフニルへと向き合った。


「エリーゼと人間は私がやる!ドラーグス、サングベクは残りの2匹を血祭りにあげてしまえ!!」


 命令を下された2体は返事を返してからノーベル翔とナル美へ駆けていき挟み撃ちの形で2人を囲んだ。


「覚悟しやがれってんだ!」


「さて、どうやって痛ぶってあげましょうかねぇ」


 それぞれの武器を片手に2体の怪人は獲物に狙いを定めていた。


「囲まれちゃっただわよ!?」


「ナル美、ここは俺様に任せろ!リーダーから託された究極の武器がある!」


「え、武器?」


 オコワから託されたと言う究極の武器。ノーベル翔は背中のファスナーを開けてその武器を取り出した。


「ひのきの棒!!」


「無理無理無理無理!!」


 それはどこにでもあるような木の棒であった。ナル美は武器と呼べるかどうかすら怪しいもので勝てるビジョンが浮かぶ筈も無く手を横に振りながら絶叫する。


「ちょりゃあ!!」


「投げた!?しかも飛距離短ッ!!」


 変な掛け声とともにひのきの棒を投げたが数歩先までしか届かず無駄に終わった。お疲れ様です。 


「何がしたかったんでしょうか‥‥?」


「さあ?きっと馬鹿なんだぜ」


 特大のブーメランが刺さっているセリフだが、サングベクは知る由も無い。


「こうなったらアタシが呪文であいつらの動きを止めるから、その隙にノーベル翔が攻撃するだわよ!!」


「え!お前呪文なんか使えたのか?」


 彼と付き合いの長いノーベル翔でさえ知らなかったナル美の新たな特技。期待に胸を膨らませると共にある種の不安が渦巻く。


「食らうだわよ!アタシが密かに習得した究極の呪文!!」


 すぅ、と大きく息を吸ってから叫ぶように言い放った。


「家に帰って財布を見たらクレジットカードが無くなっていた!!」


「ぐわあああああああああ!!」


「馬鹿!耳を塞ぐだわよ!!」


 ナル美の呪文を近くで聞いてしまったノーベル翔は頭を抱えて絶叫する。そして肝心の迫り来るドラーグスとサングベクは全く止まる気配は無かった。


「アレェェェェ!?全然効いてねぇぇぇ!!!」


 危うしナル美!

 彼らはクレジットカードが何なのか知らないのだ。そのためナル美の呪文は通じず、ノーベル翔に起こったような効果が無かった。


「オラァァァ!!」


「喰らいなさァァァい!!」


「予定調和って奴ゥ!!!」


 そのままナル美はサングベクとドラーグスのダブル攻撃を喰らいバラバラに四散した。


「ナル美!俺様が仇を取ってやるぜ!!」


 フルパワーフォームに変身してマッチョになったノーベル翔はドラーグスに向かって突貫、ドラーグスも迎え撃つ姿勢を見せる。


「あのマッシブな肉体が攻撃の起点!ならば迎え撃つのは容易です!」


 大地を刳りながら駆けるノーベル翔。

 ドラーグスはドカドカと迫り来るバカ犬の攻撃を予測する。


「カジキマグロ一丁ォォォ!!!」


「ぎゃばぁっ!!?」


「カジキでぶっ叩いたあああああ!?!?」


 ファスナーから取り出したであろうでっかい新鮮なカジキマグロでドラーグスを勢いよくぶん殴った。


「おかわり自由!!」


「ぶげぇっ!!!」


「隙を生じぬ二段構えだわよ!!」


 すかさずサングベクにもカジキマグロを叩きつけ、地面に倒れ伏す二体。


「(な、なんだコイツらは‥‥!言動が私の理解を超えている‥‥!?)」


 バーカーサーの破茶滅茶な攻撃に頭が混乱するドラーグス。その隙を逃さずノーベル翔はとどめの一撃を放とうとする。


「隙だらけだぜ!ナル美!あれをやるぞ!!」


「え!?待って!何する気!?何する気!?」


 困惑するナル美の意思など気にも留めずノーベル翔は必殺技の準備を始める。どこからか取り出したバズーカ砲の銃口にナル美を詰め、二匹の馬鹿の絆が奇跡の武器を生んだ。


「『スライムバスター』!!!」


「アタシが弾になんの!?」


 なお、当然ながらこの武器にナル美の意見は少しも反映されていない。驚愕の叫びをあげるナル美をよそにノーベル翔はバズーカの引き金を引いた。


「オラァァァ!!喰らいやがれェェェ!!」


「「「ぎゃああああああ!!!」」」


 尊い犠牲の果てにノーベル翔は勝利を掴み取った。三人分の断末魔と爆発による轟音が山にやかましく響いた。


 ノーベル翔の繰り出した攻撃でほぼ瀕死の状態になったドラーグスは撤退をする事に決めた。


「サングベク!ここは撤退するためにファフニル殿の元へ戻りますよう!」


「おお!こりゃあ退散するのが利口だぜ!」


 全員でネクロドゥームへ退避するべく戦いを放棄して二体はファフニルの元へ駆け出して行き、逃がすまいとその後をノーベル翔とナル美が追いかけていった

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異次元バーカーサー 鷲星 @AAAltair

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