第5話 ……と恋
意識が途切れる瞬間
屍鬼のひどい喚き声と
隊長があたしの名前を泣きながら呼んでる声がしていた
……気がする、夢か。
辺境近くの王族の別荘。
その客間のフカフカのベッドであたしは目を覚ました。
一週間くらい寝てたらしい。
あたしの目覚めを知って、隊長が誰より早く駆け付けてくれた。
隊長によると、あたしは
隊長が意識を失っているあたしを背負って屋敷から出ると、屋敷の外でも屍人たちが積み重なるように動かなくなっていたという。
屍鬼の種子は無事に持ち帰られて、王女様はしばらくして息を吹き返した。それから、屍人になった者でも、屍人になってからの日が浅く、体に致命傷を負っていなければ、あたしと同じように人に戻ることができたらしい。
「イリィ、イリュウネエラ王女がお前に感謝していた。ルータ、お前は結構な褒賞を貰えそうだぞ」
そんなものいらないな、と思った。
「なんだ、ルータ、褒賞なんていらないって顔してるな」
「……」
あたしは頷いた。
「何か欲しい物はないか? 私が王女に代わって、できることならなんでもしてやるぞ」
ベッドから体を起こして、隊長を見た。隊長は、鎧でなくて勲章の付いた軍服の礼服を着ている。髪は緩く後ろで縛って、絹糸の房のように背中に流している。何を着ても格好いいな、素敵だなあ。素敵格好いい素敵格好いい素敵格好いい好き素敵格好いい素敵格好いい素敵格好いい素敵格好いいホント大好き素敵格好いい素敵格好いい素敵格好いい素敵格好いい一緒にいてほしい素敵格好いい
「ルータ?」
隊長があたしが寝ているベッドに座ったので、あたしはずずっと座ったまま下がって枕に寄り掛かって膝を抱えた。女の子っぽい寝巻がちょっと恥ずかしくて、掛布を自分に引き寄せて隠した。
で、なんにもいらないって答える代わりに首を振る。
これまでみたいに隊長の部隊に置いてもらえれば十分だ。でも、隊長はきっと今度のことで出世するから、部隊は解散になるに違いない。
あたしは顔を膝に埋めた。
「隊長は王女様のことが好きだし、その王女様を救えたんだから、もう隊長は王女様から離れないんだろうな。いいなあたしも隊長とずっと一緒にいたい、一緒にいたい、一緒にいたいんだけどな、でも、あたしなんかただの一兵卒だし。隊長大好き、ずっと一緒にいたいよ、一緒にいたい、いたいいたいいたいいたい、大好き、凄く好き、そばに置いておいてほしい、隊長隊長隊長隊長
「……ルータ。お前。本当はそんなに喋れるんだな」
隊長隊長……!!!???」
え?
え、声、出てた?!
あたしは口を押さえた。
え?屍人から戻ったら、喋れるようになった、とか?
「おい、私のことがなんだって?ルータ。ちゃんとこっちを見て言え」
言えるわけないじゃん。あたしは顔を膝にめり込ませる。グリグリと。ああ、顔が熱い。熱い熱い熱い
「あと、お前、間違ってる」
隊長の手があたしの頭を撫でる感触がした。
「イリィは確かに大切な妹だけど、私はイリィよりもお前がいい」
ギョッとして顔を上げたら、とんでもなく近いところに、隊長の顔があった。
「ルータ、知らなかっただろうが、お前は私のいちばんのお気に入りだ」
!
「そんなお前が、一緒に屍鬼の討伐に真っ先に参加を決めてくれた時の私の嬉しさともどかしさが分かるか?お前が私の身代わりに屍人になって死ぬのかと思った時の私の絶望感が分かるか?」
隊長の水晶のような瞳に吸い込まれそうだ。
「いいな。ルータ、一生、私のそばで私を守れ。私もお前を守る」
あたしは、今まで胸につかえていた思いをありったけ込める。
「……ぃちょ、た、たい、隊長」
「なんだ?」
「…ぁ…だ、っだ、
……す…っ、
大好き!
大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好き大好きもう凄い大好き愛してる大好き大好き大好き大好き!!!」
むっちゃくちゃ頑張ったあたしには、隊長から、「よくできた」ってお褒めの言葉と、抱擁をいただいた。
めでたしめでたし、と。
最後まで読んでくださってありがとうございました。
近況で反省文。
https://kakuyomu.jp/users/ubiubiubi/news/16817330660478464510
うびぞお
恋と、ゾンビとゾンビとゾンビ! うびぞお @ubiubiubi
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