46. 未来を照らしています

「ブロンムーン家に何かされたことがあるのですか?」


 お母様達の様子に違和感を覚えたから、そんな問いかけをする私。

 きっと私の知らないところで、何かされたに違いないと思っっていた。


 そして、その予想は当たっていたらしい。


「結婚する前に私が毒殺されそうになったの」

「毒殺!?」

「そうよ。でも、どういうわけか、証拠は無かった」


 その時の犯人がリリア様のお母様だったらしい。

 なんでも、私のお母様からお父様を奪おうとしていたのだとか。


「だから今も夫人の立場で居られているのですね」

「ああ。だが、それも今日で終わりだ。

 証人が居る今なら、法の裁きを受けさせられる」


 だから、お父様はすぐにでもリリア様のお母様を糾弾するつもりみたいで、書類を用意すると言って屋敷に戻っていった。

 私達も念のためにと窓が無い部屋に避難することになった。


 避難するための部屋にもベッドは用意されているから、眠ることに不自由はしない。

 だから、私達はそのまま夜を明かした。



    ◇



 あの事件から半月が過ぎた。

 この間、色々なことが起きて、貴族の間では噂が絶えなかった。


 起きたことと言えば、リリア様の刑罰が始まったこと。

 それから、ブロンムーン伯爵夫人が殺人の罪で処刑された。


 どうやらブロンムーン家は色々と良くないことをしていたみたいで、余罪が山のように出てきた。

 一緒に悪事を働いていた貴族達も明らかになっていって、そのせいで混乱が広がっているらしい。


 幸いにも、私の家やアドルフ様の家とは関りが無い貴族ばかりだったから、私達は普段通りの生活を送っている。


「今日はどこに行きたい?」

「この前とは反対側の丘から王都を見てみたいですわ」


 毎週のようにアドルフ様とお出かけするようになったから、少し前の普段通りとは違うけれど、これも大切な時間だと思っている。

 それに、いつからか彼と一緒に居る時間が心地よくなっているのよね。


「丘に行くにはまだ早いから、その前にカフェにでも行こう」

「はい」


 頷いてから、アドルフ様の手をとる私。

 昨日は彼から手を繋がれたから、今日は私から。


 決めている訳ではないけれど、この流れに慣れてしまった。




 王都で暮らしているけれど、たくさんの人が集まる場所だから知らないお店もたくさんある。

 アドルフ様は毎回下調べをしているみたいで、一度も外れを引いたことは無いのだけど、最近は少しつまらなく感じている。


 彼はもう味を知っているから、反応が新鮮では無いのよね。

 だから今日は、お互いに一度も行ったことの無いカフェに行くことに決めている。


「空いているな」

「出来たばかりみたいですね」


 そんな言葉を交わしながら中に入ると、早速店員さんが出迎えてくれる。


「テラスのお席と店内のお席がございますが、いかがなさいますか?」

「個室は無いのだな……」

「テラスでお願いしますわ」

「畏まりました」


 たまには外で風にあたりながら楽しむのも良いと思う。

 だから、アドルフ様が迷っている間に、そう口にした。


「ここは高台だったな」

「ええ。だから景色を楽しめると思いましたの」


 席で雑談を交えながら、選んだスイーツが運ばれてくるのを待つ私達。

 少ししてから運ばれてきたスイーツは予想よりも大きくて、少しだけ驚いてしまった。


「この量、食べきれるか心配ですわ」

「とりあえず、食べてみよう」


 戸惑いながらも、少しだけ口にしてみる。

 すると、控え目な甘みが広がった。


 他のお店とは違って味は控えめだけれど、さっぱりしているからいくらでも食べられそうだわ。


「これなら沢山食べられるし、太る心配もしなくて済みますわ」

「そうだな。控えめでも美味しいのは、よく考えられているのだろうな」


 いつもとは少し違う味だけれど美味しいことに変わりはなくて。

 会話をしながらなのに、あっという間になくなってしまった。




 それからは、普段通り他のお店をめぐって、ちょうど良い時間に約束の場所に向かった。

 木々に阻まれて馬車の窓から王都を見ることは出来ないけれど、少しすると開けた場所に出て、王城の頂上が目に入る。


 そして……。


「すごい……」


 馬車を降りると、赤みがかった王都が目に入って、思わず声を漏らしてしまった。


「こんなに綺麗な王都は初めて見た。本当にいい時間だったみたいだ」

「ええ。来れて良かったですわ

 ここからだとアドルフ様のお屋敷がよく見えますね」


 そう口にしながら、お屋敷の方を指差す私。

 陽の光を浴びた婚約指輪が煌めいて、咄嗟に視線を逸らすと、アドルフ様と目が合う。


「何かあったか?」

「いえ、何でもありません」


 少し恥ずかしい。

 でも、風になびく私の髪が視線を遮ってくれた。


 その直後。

 アドルフ様に抱き寄せられたから、私は彼の肩に頬を預けた。


 婚約指のきらめきは、今も消えそうにない。

 きっと私達の未来を明るく照らしている。そんな風に思った。





―――――――――――




 今回で完結です。

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見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい 水空 葵 @Mizusora

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