第2話
「ほら、さっさと中に入れ!」
「いって!クソッ、テメェ覚えてやがれ!」
真っ白なパトカーに不良たちが押し込まれていくのを見ていた髭の生えたガタイの良い白髪の男性は眉間にしわを寄せながら正面顔を向けると、対照的な表情を浮かべている2人に視線をぶつけた。
「……もう一度だけ確認させてもらう。アンタが地下道で魔物討伐の仕事をしてたら連中がその子を追い掛けてやって来た。アンタはその子と自分自身を護る為に連中をぶちのめした……間違いないか。」
「えぇ、大体そんな感じですね。いやぁ、すぐ来てくれて助かりましたよ刑事さん。アイツ等を気絶させたまでは良かったんですけど一人じゃ地上まで運び出すのは大変ですから。」
「ふんっ、軽口を叩きやがって。お前さん、本当に何者だ?」
「何者って、人聞きが悪いですね。俺はただの善良なる一般市民ですよ。」
「一般市民だ?ふざけるな。ただの一般市民が武器を持った不良5人を無傷で倒せる訳ないだろうが。ソレに肩からぶら下げてるバッグに付いてるロゴは」
「まぁまぁ!それぐらいで良いじゃないですかリードさん!ね?」
そう言いながらロスとリードと呼ばれた刑事の間に割り入ってきたのは、ピシッとしたスーツに身を包んだ赤髪の若い女性だった。
「カルラ、そう言う訳にはいかねぇだろ。コイツは自地警団に所属をしている訳でも無いのに基本的に立ち入り禁止になってる地下道に居たんだぞ。」
「えぇ、確かにそうですけど自地警団の事務所で地下に入る為の申請はしていたって確認は取れてるじゃないですか。」
「それは分かってる。俺が気になってるのは、どうして数駅も離れたダルムストンの通りで暮らしているコイツがわざわざこんな場所に来てたのかって事だ。魔物討伐の仕事をしてたらしいが、ソレが本当かどうかも怪しいもんだぜ。」
「ちょっとリードさん!そんな言い方は失礼ですよ!確かにこの人が怪しいって事は間違いないですけど、人助けをした良い人なのは間違いないんですから!」
「……何ともお礼の言いづらい擁護をしてくれてありがとうございます。」
苦笑いを浮かべたロスがお礼を告げるとカルラと呼ばれた女性は満面の笑みを向けながら綺麗な敬礼をしてみせた。
「いえいえ、どういたしまして!さてと、すみませんがこれから署の方まで来て頂く事は可能でしょうか?今回の件についてちょっとお話をお伺いしたので!」
「はい、俺は構いませんよ。」
「わ、私も大丈夫……だと、思います。でも、その前に家の方に連絡しても大丈夫でしょうか?」
「勿論ですよ!出来るならご家族の方に迎えに来てもらうと良いかもしれません!」
「はい、それではちょっと失礼します。」
小さく頭を下げて少女がその場を離れて行くと、そのタイミングを見計らったかの様にしてリードの鋭い眼光がロスに突き刺さった。
「……それで、お前さんは一体何者なんだ?」
「……何者、とは?さっきも言いましたけど俺はただの善良なる」
「一般人ってのは聞き飽きた。そのバッグ、普通に流通している物じゃねぇよな。」
「警察だけじゃなくて有名な傭兵部隊とかにも武器を提供している軍事企業、そこのロゴですよね。」
「ほぅ、お前も気付いてやがったのか。」
「当然、これでも警察ですからね!……で、ついでに言うとバッグの中に入っている物も普通には手に入らない物なんじゃないですか?」
リードとカルラの視線が揃って特徴的なデザインのバッグに向けられる中、ロスは困った様にため息を吐き出した。
「すみません、ご協力したいのは山々なんですが契約上の関係で俺の口からご説明をする事は出来ません。」
「……警察相手にもか?」
「警察相手にも、です。」
「「……………」」
対称的な表情を浮かべたまま睨み合う2人の間近でカルラが一人視線を彷徨わせていると、少女が小走りで3人の所に戻って来た。
「お待たせしてしまってすみません。家族に事情を説明するのに時間が掛かって……あ、あれ?どうかなさったんですか?」
「あ、あー……いえ!大丈夫です!ほら、行きますよリードさん!アナタもこちらにどうぞ!」
「……はい、分かりました。」
「……ふんっ」
「……え、えーっと……」
「ど、どうかお気になさらず!」
慌てた様子で先導を始めたカルラの後に続いて歩き始めたロス達は、停車していたパトカーに乗って警察署へと向かって行った。
それからしばらくした後、一連の騒動についての経緯を説明し終えたロスは少女と顔を合わせる事なくそのまま帰路につくのだった。
果てなき勇者の冒険譚。 祐一 @yuiti0221
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