第28話 夢の下書き

 副都っ子は宵っ張り。

 ってことで、俺はオレガノのおっさんと共に、今夜も『妻は悪魔の化身亭』でくだを巻いていた。

「なあおっさん」

「何だい、若造?」

「楽して金稼げねえかな」

「何時ぞやみたく、お貴族様の仮面パーティ行けばいいじゃねえか」

「んなもんケチンボ、貧乏、犯罪者の貴族様が次から次へとするもんか」

 珍しく酒を注文した俺は軽い酩酊状態であった。

「だったらフェーデで勝ってこいや。お前、対人最強名乗るんだったら騎士でもなれや」

「キシィ? やだよ、もう俺んとこにゃいるんだし」

 そう言った俺がジョッキを取ろうとすると、ひょいと奪われた。

 無粋なことしやがるな、誰だよ? 下らねえ悪戯するなよ! と思っていると、ジャスパーであった。

「およ、ジャスパー? お前、耽美喫茶は?」

「ブ男ばかりだから帰って来た」

「ワオ、ストレート」

「声も酷かった。クリストファのがしみいる」

「マデリン」

 何時の間に。

 ちゃっかり着席したマデリンが俺のサラミをぺろりと平らげる。

 俺がジャスパーのジョッキに手をやろうとすると、横から延びた手がジョッキをひったくった。

「しけてんな、ただのエールかよ」

「おうおうマルシアまで」

 俺がそう言うと、オレガノのおっさんが小突いて来た。

「お前さあ、綺麗処呼ぶのはいいが、大半がお前の御手付きじゃねえか」

「俺、童貞」

「「「クリストファの女じゃない」」」

 見事にハモった女性陣を俺らダメ男どもは怪訝な目で見る。

「なあタバコ吸っていいか?」

「どうぞ」

 オレガノのおっさんがシケモクをプカプカする中、俺は三人に聞いた。

「なんで来たんよ。いや、ジャスパー・マデリンは分かるけどさ」

 俺がそう言うと、マルシアが見事な封蝋……ちょいまてや。

「その劇物を仕舞ってくれ」

「ヤダ、ワーズワースの姫様からだ」

 俺は視界の端に追いやろうとしたが、オッサンが面白がって余分なことをしやがる。

「恋文かもしれんぞ? カァーッ、お前くらい俺も若かったらなあ!」

「あ、おい! クソ親父! ダガーで開けるな!」

 ばさりと広がった手紙は私信ではあった。

 が、読んでいて俺は胃が痛くなってきた。

「なに?」

 マデリンがのぞき込むのを押しながら、俺は答える。

「雑に言えば、俺、出世しろって話らしい。何でもあの、アホンダラが俺を打倒するんだと努力してるらしく……相応の身分を得て迎え撃て、だと」

「それはいいこと。私の主が無位無官って恥だもの」

「あー、クリストファの格が上がるのはいい。マウントが捗る」

「ってと、なじみの馬借も箔が付くな」

 俺はジト目で、オレガノのおっさんを見た。

「なんでえ、やっぱ女か。そいつって結構な、さげ……」

「オッサン、乙女の前では禁句だぜ?」

 俺がそう言うと、オッサンは黙る。

 一方女子陣は楽しそうである。

「クリストファのアレが本領発揮するのは夜会。政治力で準男爵……いや子爵でも」

「それより、手っ取り早く未婚婆と結婚させて爵位取らせようぜ!」

「いやいやいや、フェーデさせて帝国騎士位から始めようよ。クリストファを頭に据えてイケメン傭兵団」

「「いい、それいい。すっごくいい」」

 俺が引きつった顔をする横で、オレガノのおっさんが言う。  

「まあ、癖があるがいい仲間じゃないか」

「俺はおっさんもそうだと思ってるよ」

 俺が言うと、オッサンは苦笑しながら頭を掻いた。


———俺の名前はクリストファ、姓は無い。


 通称、『役者の』クリストファ。

 演劇が得意なだけの、黒髪猫毛の冒険者である。

 けれど最近、一癖も二癖もある仲間たちと夢が見られそうな気がしている。

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芝居が得意な冒険者でどうしろと!〜特定条件だけ最強になれるかもしれない俺の話〜 行徳のり君 @atomsun711

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