最終話 赤い石と青い石

 土手に座って彼と一緒に夜空に咲く花を見上げる。まだオレンジ掛かった夜空に咲く花火。だけどどんどん藍色の空が降りて来て、空が藍色と光の粒に満たされた夜空となるまでは、あっという間だった。


 

 その日の星空は、すごくくっきりと星がまたたいていて、心地よい風が花火の煙をぬぐい去って、今まで見たどんな花火よりも美しかった。



 隣にいる彼との距離は、他のカップルみたいに寄り添うほどの距離じゃないけれど、確かに隣に彼がいて。それはすごく心地いい。



 花火の打ち上げが小休憩に入った頃、私は彼に声を掛けた。



「ねぇ、これ、覚えてる? 昔、天野君がくれたキーホルダー。最近クローゼットの中から見つけたんだ」


「うわ、懐かしいな。俺……これ渡す時、実はめちゃめちゃ緊張してたんだ」


「え、そうなの? そんな風には見えなかった」


「いや、そりゃそうだよ。いくら誕生日だからって何の脈略もなくプレゼント渡すとか……告白してるようなもんじゃん。あの後、恥ずかしすぎて眠れなくて、翌日のバスの中、爆睡だった」


 その言葉に、あの時の優星君の寝顔を思い出してドキドキとしてしまう。


 あの寝顔の裏には、そんな事があったんだ。



「実はね、私もあの後、天野君に誕生石のキーホルダー渡そうとしてたんだよ」



 少し照れながら言う。



「え? マジで? ……そか、そーだったんだ。なぁ、知ってる? 笹原の誕生石のルビーと、俺の誕生石のサファイアって、もともとはコランダムっていう同じ石らしいよ」


「え、そーなの?」


「うん。コランダムの中で赤い石がルビー、その他の色の石がサファイア」


「へぇー、知らなかった! 詳しいんだね」


「あ……いや、笹原の誕生石がルビーって知った時に、一緒に知った。なんか、豆知識みたいなミニコラムが一緒に載ってたんだよ。それで……俺と同じ石とか運命じゃんって、浮かれてた……とか、やっぱ言うのやめとくわ」


 照れながら言う彼の顔が可愛くて、思わずくすりと笑った。


「それ、言っちゃってるじゃん」


「いや、当時の俺、小学生だったから!!」


 赤い顔して慌てる優星君が可愛くて仕方ない。



 ああ、やっぱり好きだなー。そう思った。



 いつの間にか上がり始めた花火の光に照らされながら、私たちはそのまま見つめ合っていた。


 花火の赤い光に染まる彼の顔はすごく綺麗で……そして私も、顔を赤く染めながら、彼に言った。



「ねぇ? 天野くんの誕生石のキーホルダー、今更だけど、受け取ってくれる……?」


 すると、彼も赤い顔をしたまま、


「もちろん!」


 そう言った。




“ここのペンションオリジナルの誕生石の入ったキーホルダーね、恋のお守りになるんだって。好きな人と互いに贈り合えたら、その恋は、ずーっと続くらしいよ”



 昔聞いた恋のジンクス。




 この恋が、どうか永遠に、続きますように――






(完)


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【完結】星空と、初恋と、そして―― 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711

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