第3話

 お梅がすやすやと可愛らしい寝息を立てて眠っている。私に散々愛されたから疲れているのだろう、起きる様子はない。喩え己を連れて行こうとする人でないものが近づいていても。



「失せなさい」



 その一言。たった一言でお梅に手を伸ばしたものは焼け焦げたようになる。なんて哀れなのだろう、早く諦めてしまえばいいのに。



「其方からすれば、この人を奪ったのは私なのかしら?」



 呪詛のようなものを吐いているのはわかるけれど、痛くも痒くもない。だって私の愛の方が強いもの。

 見せつけるようにお梅の頬をそっと撫でて見せる。私の手はきっとお梅には働いたことのない無垢な手に見えているに違いないのだろう。

 私からすればお梅の手の方がよほど無垢だ。私は人でないものを跳ね除けて生きてきた。お梅は穢れを知らない。一生そのまま私に守られていればいい。



「お生憎さま、この人はずっと私のものよ。私にとっては其方が泥棒なの。とっとと諦めることね」



 宙に一線、指で引くだけでそれは屋敷の外に弾き飛ばされる。きっとまた懲りもせず来るのだろう、その度に弱ると知りながら。それほどまでにお梅は甘く香るのかしら。



「誰にも渡したりしないわ」



 そう言って私は眠るお梅に口づけた。その唇さえ甘い気がする。

 お前を狙っているものがいるなんて、お前は一生知らないままでいい。だって何があろうとお前は私のものなのだから。

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梅泥棒 蒼キるり @ruri-aoki

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