第052話

 学園から離れた広場にいた冬也達は視界を遮っていた光と爆風が収まると目を開いた。

 上空にいた2人の魔族の姿はすでにそこにはなく、戦闘中だったとは思えないほどの静けさにエクレシーム国内が包まれていた。


「周辺の建物が・・・。」


 広場から重なり合うように見えていた学園周辺の建物の一部が破損や消滅していることに彩奈が気づいた。


「高魔力をそのまま放ったんだ、さっきまで感じていた大きな魔力の気配が消えている。」


「継君やスタリエ学園長達は無事なの?」


「魔術通信が使えなくなっているみたいだけど爆発自体は会場から外れていたはずだから無事なはずだよ。」


 冬也が耳元の魔法陣が消えているのを見せるように彩奈の質問に答える。

 彩奈は冬也が言うようにこの場所から見えた爆発が会場から外れていたように見えたことを思い出すと継達は無事だと自分自身を納得させた。


「霧くん達の事も気になるけど今は彩奈とフィエールに頼みたい事があるんだ。」


「何ですか?」


「ボクの代わりに上空に居た2人の魔族を追ってほしいんだ。あの場所であれだけの規模の爆発が起こったんだ。学園の地面には巨大な大穴が空いているはずだよ。」


「では、2人はその中に?」


 フィエールの言葉にサリエは大きく頷く。


「この国で起こっている全ての戦闘は陽動で、狙いは地下ダンジョンの最奥にある結界の要のエネルギー体だと思う。そうじゃなきゃ、あそこで高魔力を放つ説明がつかない。彩奈とフィエールなら風魔法で大穴を下りる事もダンジョン内で戦うことも十分出来るはず。」


「だけど、あれだけの魔力を扱う相手を私とフィエールだけで倒せるの?」


「大きな魔力の気配が消えている今ならあの魔族は高魔力を扱えないから倒せるはずだよ。」


 確信めいた力強い返事を返すサリエ。


「あの魔族は魔力が足りなかったんだ。最初から高魔力を扱えていたのなら一番混乱している襲撃直後に高魔力を放っていたはずだよ。でも、放たなかった。何らかの方法で必要量の魔力を集めていたからだ。ボクとフィエールが感じた魔力の気配はその最中のモノ。だから、しばらくは高魔力を扱えないはず。倒すなら魔力の気配がない今だよ。」


「わかった、フィエール。」


「えぇ、急ぎましょう。」


 彩奈とフィエールがこの場から離れて学園へと動き出そうとすると今まで沈黙していたデベガとイブラッドが動き出した。


「おいおい、待てよ。」


 ベデガが彩奈とフィエールを呼び止めるとイブラッドと共に魔法と斬撃を放った。


「黙って聞いていたがこのまま行かせると思っているのか?」


「まさか。」


「無理やりにでも行かせてもらうに決まっているじゃないか。」


 彩奈とフィエールの前に冬也とサリエがかばう様に立つとストーンウォールと魔力障壁で放たれた魔法と斬撃を防いだ。


「二人とも早く。」


「わかった。」


 彩奈とフィエールがこの場から居なくなると冬也はイブラッドに視線を向けた。


「イブラッド、君は僕に付き合ってもらうよ。」


 冬也は自分に注意を引かせるためにイブラッドを名指して挑発する。


「状況は気に入らないが良いだろう、お前は俺が全力で叩き潰してやる。」


 挑発されたイブラッドは戦斧を片手で持つ好戦的な構えに切り替えた。

 イブラッドの身体に流れる好戦的なオーガ族の血が掻き立てられて冬也を倒すべき敵から自分の獲物へと認識を改めたからである。


「サリエはもう1人を頼んだよ。」


「そっちも任せてくれても良いんだよ?」


 冗談混じりに答えたサリエがデベガを見据えて杖を構えた。

 デベガはサリエと視線がぶつかるが何も言わずじっとサリエを見返していた。

 現れた時のように砕けた口調で話す訳でもなく、黙っている態度がデベガが戦闘態勢であることを表していた。


「行くぞ、イブラッド!」


「来なよ、デベガ!」


 <加速>を発動させた冬也とデベガが前に出る。

 直進する2人はすれ違いざまに一瞬目が合うが互いに手を出さずに無言で走り抜けるとそれぞれの場所で戦闘が開始された。


 自分の間合いにイブラッドを捉えた冬也は盾を正面に構え、踏み込む足に力を込めてスキルを発動させた。


「<インパルス・シールド>」


 盾を前面に押し出して突撃する冬也をイブラッドは片足を踏み出して身をよじると戦斧を振い正面から受け止めた。

 打ち合った直後、互角の様に見えた2人だったが冬也が発動させた<インパルス・シールド>の衝撃力がイブラッドが振るう戦斧の力を上回りその身体を後退させ始めた。


 スキルに押されて表情が歪んだイブラッドがこれ以上押されまいと声を出して力任せに戦斧を振るい冬也を押し返す。

 押し返された冬也は地面に着地すると片手を前方に突き出して走りながらイブラッドに向かって魔法を放った。


「効くかぁ!」


 イブラッドが魔力を込めた戦斧を前方で回転させ、冬也の魔法を全て防ぎ武器を構えて走り出す。

 2人の距離が近づき互いの間合いが重なり合う。


 先に仕掛けたのはイブラッドだった。

 間合いに入った冬也に構えた戦斧を振り回す。


 冬也はイブラッドが振り回す戦斧を冷静に盾と剣を使って捌いていく。


(ナタルさん達に協力を頼んで良かった。イブラッドの攻撃を捌ける。)


 1年間、冬也はナタルを含む実力ある職員達を複数人相手に戦闘経験を重ね、魔法訓練も受けていた。

 1学生に冒険者ギルドがここまですることは通常無いのだが、冬也がローラさんに相談してスタリエ学園長からの依頼という形で協力許可が下りたのだ。


 さらに、冒険者ギルドが忙しい時には職員から紹介された冒険者と手合わせする事もあったので戦斧を扱う冒険者と剣を交える機会もあった。

 冬也がナタル達職員を修行相手に選んだのもこのような『紹介』による戦闘経験も多く積めるだろうという考えがあったからだった。


 攻撃を捌く中、イブラッドが戦斧を寝かせる動きを見せると冬也が魔法を発動させた。


「プロトアス!」


 冬也の足元から魔法で生み出された石柱が出現する。

 石柱に乗った冬也は中段から払うイブラッドの戦斧を真上に飛んで躱した。


 戦斧の一撃を受けた石柱は中央部から破壊され、破片がイブラッドの身体に飛び散った。

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ワールド・オブ・エンド~異世界移動~ 晴信 @harunobuharunobu

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