第051話

(ゴラム、リッヒ・・・。)


 会話の内容から新たな魔族の名前が確認できた。

 最低でもリーダー格の魔族がまだ2人以上。


 そして、ゴラムはこの襲撃の首謀者なのか別動隊なのか判断がつかないが他のリーダー格とは違い守られているようだった。


 冬也が魔族の会話を整理していると剣を構え直したフィエールが口を開いた。


「あのデベガというガーゴイルはイブラッドというオーガと対等に言葉を交わしていました。二人は同格、それぞれの実力は同じくらいのはずです。」


「わかっています。」


 武器を構え直した冬也達と身体を捻じり両手で持った戦斧を構えるイブラッド。

 対峙する2つの間に僅かな静寂の時が流れるとイブラッドが動いた。


「戦士の意地を見せて見ろ!」


 大かん声を上げたイブラッドが地面に戦斧を打ち付けるとそこから生まれた複数の斬撃が石畳を割き冬也達に激進する。


「その程度!」


 素早く手元に魔力集中させたフィエールが風魔法を放ち斬撃と魔法を相殺させる。

 相殺された斬撃と魔法によって生まれた乱れた風が吹く中で最初と同じ先行する彩奈とその後に続く冬也がイブラッドに仕掛けた。


「来い!」


「てえぇい!」


 一切の避ける動作を見せる事の無いイブラッドは彩奈の剣を両手で握った戦斧の柄で正面から受け止める。


「フン!」


 受け止めた剣をイブラッドが両腕に力を込めて押し返す。

 押し返した直後戦斧の石突で彩奈に突きを放つが彩奈は体を逸らしてそれを躱した。


 石突を躱されたイブラッドは両手で持っていた柄から片手を放すと戦斧を持つもう片方の手で彩奈を薙ぎ払う。


「うっ・・。」


 戦斧を剣で受け止めた彩奈がその重さに押されて後退る。


「オォォォ!」


 後退り体勢を立て直す彩奈に対してイブラッドは距離を詰めながら頭上で回転させた戦斧を上段から振り下ろした。


「選手交代だよ、彩奈。<クロスチェンジ>!」


 彩奈の後ろにいた冬也がイブラッドの刃よりも早くスキルを発動させる。

 冬也がスキル<クロスチェンジ>を発動させたことによって彩奈の位置と冬也の位置が一瞬で入れ替わりイブラッドの戦斧の前に盾を構えた冬也が現れた。


「何!?」


「<リアクション・シールド>!」


 盾が戦斧を弾くと戦斧は宙を舞いイブラッドにスキが出来る。


「はぁぁっ。」


「ぐっ。」


 冬也がイブラッドに向けて剣を振るうとイブラッドが仲間の名を叫んだ。


「デベガ!」


「オラよ!」


 名前を呼ばれたデベガが宙に舞っていた戦斧を掴むとそのまま冬也に向かって突き下ろす。

 冬也が攻撃を中断し戦斧をバックステップで躱すとデベガは拳と蹴りの猛打でさらに追撃をする。


「冬也さん!」


 風魔法で宙を舞ったフィエールが空中で弓を構えてデベガに向けて魔石矢を放つとデベガは翼を羽ばたかせて回避した。

 一進一退せめぎ合いの攻防、そんな戦いの中でサリエは異様な魔力の気配を感じ取っていた。


「なんだろう?この魔力の気配。」


「学園の方からでしょうか?」


 増大していく正体不明の魔力の気配を遅れて感じ取ったフィエールが学園の方向に目を向ける。


「どうしたの2人とも?」


「わかりません、ですが何か大きくなる魔力の気配が・・・。」


 彩奈がフィエールとサリエが感じ取った学園の方を見ると学園の上空に2人の魔族の姿が見えた。

 ゴラムとリッヒである。


「ゴラムの奴、何をする気だ?」


 イブラッド達もまた魔力の気配に気づき攻撃の手を止めてゴラム達が何をしようとしているのか動向を窺うことにした。


 ◇


「魔力ブースター発動。」


 リッヒが腕を組み見守る中でゴラムが腕に装着した魔力ブースターを発動させた。

 発動した魔力ブースターは黄色く光り周囲の魔子をより多く急速に取り込んでいく。


 そして、吸収量が限界に達すると魔力ブースターが赤く光りだし使用者であるゴラムの魔力を何倍にも跳ね上げた。


「こいつはスゲェ、今なら魔王様にも勝てる気がするぜ。」


「口を慎め、ゴラム。不敬だぞ。」


 今までに感じたことない魔力量に口元が緩み万能感に浸るゴラムに対してリッヒは目を鋭くして度が過ぎた口ぶりにあからさまな不快感を表す。


「本気で言っている訳じゃねぇさ。」


 ゴラムとて本気で魔王に勝てるとは思っている訳ではない。

 魔力ブースターに集められた魔力がゴラムに高揚感を与えてそう口にさせているだけである。


 リッヒもそれが分かっているからこそ組んだ腕を解かずに見守っている。

 ゴラムは何倍にも跳ね上がった自身の魔力を正確にコントロールして片腕に集中させていく。


 通常の魔族であれば過剰な魔力量を扱いきれずに魔力暴走を起こして自爆するだけだが数百年単位で生きている悪魔のゴラムにとっては自身の魔力量を超える魔力コントロールは短時間であれば差ほど難しくないことであった。


「待たせたなリッヒ。」


「全くだ、待ちくたびれたぞ。」


 リッヒが飛ばした嫌味を聞き流したゴラムが足元に見えるパルヌス学園に腕を伸ばして高められた魔力を一気に解放させた。

 解放された魔力はゴラムとパルヌス学園の間に一筋の光線を描き降下する。


 昇降口前の野外空間に着弾した魔力は円柱の光を放ち学園周辺の建物の姿と人々の視界を奪うと大爆発を起こした。

 高魔力による爆発によってエクレシーム国の地面が大きく揺れ石畳がカタカタと音を立てる。


 揺れは学園から離れていた冬也達の下にも及び爆風がエクレシームの街並を駆け巡った。

 しばらくして爆風が晴れてくると半壊した学園と大穴が現れた。


 半壊した学園の前には大穴が空いている。

 半壊した学園から正門周辺の建物までの全てのものが爆発によって消滅し大穴が空いていたのだ。


「この下には一体何がある?」


 大穴を見下ろしながらリッヒがゴラムに訊ねる。


「この下にはダンジョンが存在している。そして、その最奥にはこの国を覆う結界に利用されているエネルギー体がある。」


「それがお前の目的か?」


「そうだ、オレはそれを破壊する。エネルギー体を破壊すれば俺達の戦況は大きく変わるからな。お前にとっても邪魔が入らず悪くない場所だろ?」


 ゴラムの問いかけにリッヒは鼻で笑う。


「ここからは好きにさせてもらう。」


 ゴラムとリッヒは会話を終えると大穴へと降りて行った。

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