蛇足3
あの動画を撮って一カ月。
リンからの手紙を読むのが大変だ。
いや、嬉しくないかと言われたら嬉しいんだけど。何だろう。違うんだよな。こう、上から目線になってしまうけど、普通に近所のお兄さん的なポジションから私は相談に乗ってあげて色々話を聞いたり、出来るアドバイスがあるならしたりとそんな感じで考えていた訳なのだが。だから親しみやすいようにリンへの動画は敬語や難しい言葉は避けて、私の思いを伝えた訳なのだが。
気付いたらなんか熱狂的なファンが出来上がってた。うん。そうとしかいえない。
「今日も大作だな……うん……」
リンからの手紙は日に日に文章量が増していき、現在ではノートに書くのが大変だからかスマホのテキストメモに打たれたものを読んでいる状況だ。ノートだと手が疲れるからとのことである。現代っ子だなぁと思うのも束の間、とんでもなく小さくなったスクロールバーに戦慄を覚えたのはそう昔の話ではなく一週間前の話である。文字数をカウントするサイトにコピペして数えてみればその量なんと3000文字オーバー。最早ちょっとした短編小説だ。
リンの手紙は基本的に私の動画に対する感想だ。私の良かった点や面白かったことが九割で、後はみこみーに対するちょっぴりヘイトスピーチが一割。良くは知らないが、リンはみこみーのことが苦手らしくて手紙の結びにはみこみーとのコンビを解消した方が良いとかやんわりと書かれることも多い。リン曰く「美湖沢はのんちゃんのことを狙ってるから気を付けてください」とか「あいつに家バレてるってホントですか。危険なのでのんちゃんセコム導入しましょう。それが無理でも最低防犯カメラは玄関と窓と勝手口にそれぞれ一つずつ設置した方がいいですね。あと催涙スプレーは先行してネットで注文しておいたので届き次第装備してくださいお願いします」とか、あははは。乾いた笑いしか出んわ。
とまあ、リンは私とみこみーの百合営業を本気に捉えている節がある。しかもみこみーのことをヤンデレと考えているみたいだ。
無論私だって手紙でそのことは釈明を試みた。だけどもリンは全く聞き入れる耳を持たなかった。絶対にみこみーは冬川のんを狙っていると強い確信を持っているようだった。うん。もういいか。本物の私とはいえ私達のファンには変わりないし、夢見させておこう。そうして私は匙を投げたのだった。完。
雑に結論を纏めて私は今日もPCを立ち上げる。
一先ずリン自身の問題は解決したとみて良いと思う。厳密に言えばまだまだ不登校だとか家庭環境だとか大きな問題が山積しているけどもそれはちょっと私じゃ解決が難しそうだ。
別にこれは大学時代に鍛えられたゴミみたいな課題先延ばし癖を遺憾なく発揮しているとか、そういうことでは決してないとだけ言っておく。
私はこの長い期間、リンの身体を使って本当にネット上で自由に動いてきた。だからその分のリターンをするのは当然だと思ってるし、人情的にもリンへ手を貸したいと考えている。それは欺瞞とかじゃなく私自身の本心。
でも出来ないのだ。
やらないとかじゃなくて、出来ない。
「……今日は17:00起床かぁ。順調に私、活動時間短くなってるね」
何故ならリンに身体を返還するその時が、もうすぐそこまで来ているからだ。
最初は私も自身の不健康な生活や割と怠惰な生活習慣が原因で朝起きれなくなったのだと考えていた。でも恐らく違うと悟ったのはつい最近。朝活しようと目覚ましをセットして、起きれずに次は二つセット。それをもう一度繰り返したところでふと脳裏を過ったのだ。もうそろそろ、リンに身体を返すその時が来るんじゃないかと。
思ってみれば納得のいく話なのだ。
意識が覚醒したばかりの頃と違い近頃のリンの精神状態は非常に安定してきている。自殺を仄めかす発言もめっきり無くなって、普通の女子中学生……にしては趣味が根暗すぎるがそれでも普通に生きれるようになった。このまま順調に行けば学校に行くかどうかはさて置いても社会生活に復帰することは可能だと思う。主人格ともいえるリンの精神が整ったことによって、異物の私は本格的に消えようとしてる。
でもそれが嫌かと言えばそうでもない。
リンにこの身体を返すこと、それは元々から考えていたことだ。
確かに消えるのは怖い。
前世という言葉をこれまで使いつつも私は死んだことがあるわけじゃない。突然リンに憑りついてしまっただけの一般人で、世間に言うに憚れるオタクだ。でも死んでないからこそ、どうせ意識が無くなっても私は生きているんじゃないかという楽観的な予想があるから構わない。別にいい。寧ろそうあるべきだ。
だから申し訳ないけどリンの問題はリンに解決してもらうおうと思う。年上の大人として落第点の発言なのは分かってる。でもこれは本来リンの人生だ。未来はリンが歩んでいくべきだ。今のリンならそれが可能だと思う。
……まあ掠奪してしまった責任は感じるけどもそれはなんというか、金品を置いていくので許してほしい。少なくとも社会人の年収くらいの金は溜まったことだし。うん。ごめん。貴重な中学生活殆どもらい受けちゃった。それは謝るしかない。
考え事を整理しながらみこみーが通話に入ってくるのを待つ。
心残りはある。
勿論Vtuberのことだ。
もしやってくれるのならリンに冬川のんを託しても良いかなと思っている時期はあった。でもそれでいいのかという疑懼が、私の消失が間近になって徐々に浮かんできたのだ。
Vtuberの中身が別の人間になる事例というのは前世でもあった。運営サイドからすれば中の人が引退した後もその人気Vtuberの肩書や知名度を使い回したいという経済合理性を孕んだ思惑があったとか、運営元が営利企業である以上リターンを最大化したいという思惑が恐らくあってのことだったのだろうが、でも視聴者目線で言えば非常に心象が悪い。こんなのは裏切りでしかない。
Vtuberはただの画像データではなく、魂が宿った人間だ。例えば友人が突然趣味も性格も違う別の人間になってしまって、そのままの関係性でいられるだろうか。大半は良くも悪くも大きく関係性は変わると私は思う。Vtuberだって同じだ。そんなことが起きれば残ってくれた視聴者だってそれ以降違和感を持ち続けるだろうし、Vtuberとして関わりのあるビジネスライクな人間関係も拗れるのが目に見えている。
Vtuberとして活動していて業界を盛り上げたいという気持ちの傍らで、私はいつしか日本で一番のVtuberになりたいとぼんやりと考えていた。冬川のんと言う名前をこの業界のデファクトスタンダードにしたいと。でもやはり、冬川のんはここで終わらせるのが綺麗なんだ。冬川のんは卒業すべきだ。もしリンが冬川のんになりたいというならとても申し訳ないが、遺言として聞き入れてもらおうかとも考えている。ポジショントークになってしまって少し心苦しいけど、私のファンのリンなら聞き入れてくれるはずだ。
リンが冬川のんになるのは嬉しいけど、それとこれとは別の話。FPSの大会に出たり取材を受けたりして漸くVtuberの話題の火種が生まれたのに、人気Vtuberがこういう炎上の仕方をしたら本当に業界の未来が
既にリンちゃんには書き置きを残している。普段の手紙にもそれとなく書いているから、こちらは問題ない。
そういうことで、あとはみこみーだけだった。
──── ──── ────
何時ものように約束をして通話で待機していると、みこみーはやって来た。
『のんばんわ~です!』
「お疲れ。その挨拶は絶対に流行らせないから」
『いいや絶対に流行らせますから! 私の影響力で無理矢理!』
いや……まあいいけど。
それにしても受験勉強で疲れているだろうに、みこみーは相変わらず元気そうだ。安心した。
『それで今日はどうしたんですか? なんか今後に関わる重要な話があるって言ってましたけど』
と、みこみーが不思議そうに言う。確かに私は事前にそう言ってみこみーに通話を持ちかけていた。
「うん。そのことなんだけど……迂遠な言い回しをしてもしょうがない早速その話題切り出すけど」
『はいー』
「ほらさ。みこみーは来年には高校三年生で受験って言ってたじゃん。しかも志望校も凄い良いとこだっけ」
『世間的にはそうですね。私は酷い学校じゃなければあんまり頓着しないんですけど、親がその辺五月蠅くて……』
まあ成績だけは取ってるからこういう活動も文句言わせず出来てるんですけどね、と少し窮屈そうにみこみーは言う。その声音から何時もの元気溌剌さに似合わない渋面で頭をポリポリとさせている姿が目に浮かんだ。
みこみーは後三カ月程度で高校三年生になるそうだ。つまり受験生だ。前世の高校時代は適当に勉強してそれなりの大学しか行かなかった(しかも2留した)私からすれば目が眩むほどの難関国立大学を受験するとか。流石だ。ただ多忙そうだからと言う理由で医学部にはいかないみたいだけども、みこみーの性格的にもそれがあってると思う。幸せになってほしいものである。
「良い大学に行って損になることはないよみこみー。将来の就職に響くし、キャンパス内の民度が高い。何より学歴でマウントが取れる。掲示板好きでしょ。イキれるよ」
『むぅ!揶揄わないでくださいのん先輩!てか先輩風吹かしてますけどのん先輩中学生ですよね?』
「そうだけど」
『中学生にしては大学に対する解像度少し高すぎません?』
「いや、まあ、ネットとかで検索すればその辺の情報は出てくるから」
と言ってみたけど嘘です。実体験です。はい。
「少し話が逸れたけど、みこみーはこれからが大変な訳じゃん。でさ、私も変わる必要があるから」
『ちょっと待ってください。それってのん先輩……もしかして』
「まだ分からないけど、うん。多分もうちょっと外に出ようと思うんだ」
『えっそうなんですか! あのですけど、まさか……』
みこみーの驚きの声。まあ、だよねと思う。今までこの話題について一度も私からみこみーに振ることはしなかったし、みこみーも私へ何か言うこともなかった。実際我ながら触れづらい話だと思うし。外に出るかどうかはリン次第だけどもあの様子なら社会復帰もそう遠い話じゃないと思う。
「うん。引退……卒業しようかなって思うんだ」
『卒業……えっー!? なんでですかー!? なんでそうなるんですかー!?』
あれ。
「いやみこみー。今、まさか……、とか言って分かった風だったじゃん」
『違うんです! 私と遂にオフ会することを決意したとかそういう意味かと受け取るじゃないですか普通!』
「えー」
普通はそうはならないと私は思う。それは何か良くないものに脳を焼かれたみこみー特有の結論なので是非とも私に押し付けないでほしい。
『というか卒業ですか!?』
「うん。お互い大変だろうしさ、みこみーだってそっちの方がいいでしょ。リアルを軽視するべきではないと思う」
『いやいやですけど! のん先輩、Vtuber界隈をもっと広めたいって言ってましたよね!? それはいいんですか!?』
「うん。良くはないけど、仕方ないかなって」
『じゃあ続けましょうよ! 私の事は考えなくていいです! こう見えて頭良いんで! ラクショーなんで! 一緒に頑張りましょうよ!』
必死だと思った。私と同じくらい、いや、私以上にVtuberという存在に思い入れがあるのかもしれない。思えば二年弱は活動している。高校の大事な時期をすべてヴァーチャルに費やしているからこそ、私なんかよりもこの活動に執着するようになったのだろう。そう考えると非常に申し訳ない。
「……ごめん。みこみーの事情を慮ったのは嘘じゃない。だけど卒業の決意をした真意は、極めて個人的な事情なんだ」
『個人的な事情……ですか?』
「私、そろそろいなくなっちゃうんだ。実を言うと私は本当の私じゃないというか。そうだね……厳密じゃないけど二重人格って言うと近いかも」
『二重人格……』
みこみーは噛みしめるように呟いて、押し黙る。
それもそうだ。
考えもしなかっただろう。
ネットだけとはいえ身近に接してきた人が実はそんな事情を抱えているとか、私だって同じ立場なら考えもしない。
沈黙を縫うように私は言葉を続ける。
「仮に本物の私のことを主人格と呼ぶんだけど。実はみこみーと出会う少し前から私が主人格の代わりに色々やっててね、つい最近主人格が目を覚ましてさ。それで私はそろそろ身体を返さないといけないから」
『ちょっと待ってください! ええと、むーと。つまりのん先輩は私と会う直前に表に出てきたってことなんですか?』
「うん」
『で、つい最近になって主人格なる意識が出てきたからのん先輩は代わりに消えちゃうと……。もしかしてですけどこの前相談された仲良くなりたい女子中学生って?』
「あー……分かっちゃうか」
流石天才肌なだけはある。確かにみこみーからしたら不自然な相談だったかもしれないけど、その言葉ですぐ結びつけるのは頭の回転が早い。
「そうそれ。嘘ついてゴメン。でもその子が本当の私なんだ」
『……私にとってはのん先輩に偽物とか本物とかないですよ』
「うん」
みこみーからすればそうだと思う。
でも私からすればそれは違う。
「でもね、みこみー。私は卑怯者なんだ」
『のん先輩……?』
「この身体になったときの話。主人格……リンちゃんに何も言わず声だけだから大丈夫だって勝手に解釈してネット活動を始めたし、それを二年弱も続けた。リンちゃんの貴重な時間を奪って、やろうと思えばもっと早くリンちゃんの人生を取り戻せたかもしれないのに何も行動せずにね」
みこみーは何も言わない。
それは何とも、今の罪を吐露する私にとってはありがたかった。
「別に悪意は無かった。でも同時に、この声なら。Vtuberとして活躍できるかもって胸が躍ったのはホントなんだ。だからせめてもの出来ることとして、私はリンちゃんの目が覚めたら身体を返すって決めてたんだ」
『そんな……のん先輩』
「だから本当に申し訳ないと思うけど……みこみーには受け入れて欲しいなって。そう思ってる」
みこみーには今までずっと助けられてきた。長い期間、Vtuberとしての活動に捧げ続けたみこみーには感謝しかない。だから何一つ返せないことが心苦しい。
たっぷりと長い時間を費やして、反応を待つ。
みこみーが声を発したのは多分三分くらい経った頃だった。
『本当にのん先輩は卑怯ですよね』
「ごめんなさい……」
『でも分かりました。受け入れます』
毅然とした声。普段百合営業をするみこみーが絶対に出すことは無い、堅く冷たい声だ。
でもみこみーは良いと言ってくれた。色々と言いたいことはあっただろうけど、それを吞み込んで、押し殺して、首を縦に振ってくれた。
「本当にごめんなさい……ありがとう」
『でもその代わりに一つ良いですか?』
「うん。聞くよ」
私にとってみこみーはどんな存在かと問われれば、恩人としか言いようがない。キャラデザをしてくれたこともそうだけど、契機はどうあれVtuberとして一緒に歩んでくれたこと。互いに力を合わせて目標を合わせたこと。もし私が私に戻ったとしても、それは絶対に忘れることは無いだろう。
出来ることならやろうという堅い決心を抱きつつ、みこみーの頼みを聞く準備を整える。
『改めてオフ会しませんか?』
「ゴメンそれは無理」
つい反射的に断ってしまった。
いや別に漫談みたくなったけど冗談で言ったわけじゃない。幾らみこみーの頼みと言えど、リンに迷惑を掛けるならばそれは許容出来ないことなのである。
そういうことでいつも通り即断即答しちゃったわけだが、みこみーは普段と違ってきゃぴきゃぴした声を出すことなく、空笑いを上げる。
『あはは……すみません。断られるの上等で言っただけです。迷惑をかけたくないんですよね、その、リンさんという方に』
「うん……察してくれてありがとう」
『はい。ですので代わりに一つ頼みが。私宛にボイスメッセージを残してくれませんか?』
「ボイスメッセージ……?」
『そのリンさんにはやられたんですよね?私にも似たようなものがいただければと思って、ダメですか?』
みこみーにはリンに動画を送ったことは話していた。その時は冗談交じりかいつものテンションで「え本当ですか!?とところで、私にもそういうの送ってもらっちゃったり愛を叫んでもらったりすることは可能ですか!?別に何に使うとかはなくて精々録音したデータを加工して普段使いするくらいでですね!」と語っていたのを覚えている。そのくらいは平時の百合営業ならやるわけだし、通常営業だったからスルーしたのだけども、あの発言は割と本気だったのか。
「了解。それくらいなら勿論。みこみーにはお世話になってるから」
『じゃあその……お願いしますね』
「うん。任せて」
『はい……で、そうです。卒業配信はいつにしますか?私としてはある程度期間を設けた方がファンのためなのかと思うんですけど……』
卒業配信。当然前世でも何度か見たことがある。卒業までの経緯は人それぞれだったが、炎上して引退した層以外は最後の配信まで多少時間を取るのがセオリーだったと思う。
でも私にとって時間は敵だ。いつ消えるか分からないのだから。
「それについてもごめんみこみー。時間があんまりないから、出来れば今日にでも」
『そんなに早いんですか!?ファンだけじゃなくて私も心の準備が出来てないんですが……!』
「日々活動時間が短くなってるんだ。今日も何もせずとも起きたのが夕方だったし。だから何と言うか、時間がもうほぼ無いと思う」
『いやならもっと早く言ってくださいよ!?」
「私もこんな早くこうなるなんて思ってもみなかったから……」
多分動画だ。リンへの動画を撮って以降、明らかに活動時間が短くなるペースが速くなった。
私の動画でリンの精神が持ち直したことは喜ばしい。でもすぐさまこうして私の存在が消えそうになってしまうのは予想外で、だからみこみーには本当に負担を掛ける。
『ああもう分かりました!今日ですね!でも消えてなかったら明日もやりますからね!というか消えるまでやりますから!それだけは約束してください!』
「……オーケー。ありがとうみこみー愛してる」
『こんな状況じゃなかったら相思相愛でハッピーエンドだったんですけどね……!今更言ってきたこと、恨みますからねのん先輩!』
感謝と同時に勢いで愛してるなどと言ってしまったものの、みこみーにはあまり響かなかったみたいで安心した。消える私に執着するのはみこみーのこれからの人生において、あまりには勿体ないからね。
『のん先輩私も愛してますから!』
と思っていたけど最後には言ってくるあたり、みこみーのプロ根性には悉く完敗である。
その後の話をしよう。
その日『【卒業配信】たぶん今日で卒業します!かも!』という非常に詐欺っぽいタイトルで配信を行うと、唐突なことで驚く声や惜しむ声などがファンから投じられた。辞めないでというスパチャもそこそこ来た。無論「ただの閉店商法なのでは……?」という疑いのコメントをする視聴者もいたけど、私は全てを呑み込む所存である。明日も出来るならやりたいし、そういう声とは真っ向から受け止めるつもりだ。何も言い訳も出来ないし。
配信後は最後になるかもしれないみこみーとの軽い雑談をして、約束通りみこみーへのボイスメールを撮って送る。この時点で大分眠かったけど、肝心なリンへの手紙もパソコンに残す。
最後の句読点を記すと、とてもすっきりした気分になった。
肩の荷が下りたというのは正しくこの事かもしれない。
区切りが付いたというのもあるだろう。
未だ目標達成までの渦中ではあったけど、とても楽しい活動の日々だった。リンには複雑な感情があるけど、それでも今となっては感謝しかない。間違いなく私は満たされていた。
今夜はよく眠れる気がするし、明日の配信はもっと良いパフォーマンスが出来る気がする。
私は久々に恐怖と無縁の眠りに就いた。
──── 灰崎淋 ────
私が起きた時、違和感を覚えた。外が明るいからだ。
のんちゃんが来てから普段、私は深夜に覚醒していた。のんちゃんが朝から夜まで活動して、私はそのおこぼれじゃないけど深夜だけ。
だけど今日は朝。朝だ。久しぶりに太陽を見た気がするけど、そんなのどうでもいい。
言葉にならないけど何だか嫌な予感がした。
のんちゃんが残してくれている、パソコンの中の手紙を開く。私はスマホの方が入力がしやすいけどのんちゃんはパソコンの方が良いみたいだ。タイピングも早いらしい。何だかエンジニアって感じがしてカッコいい。
パソコンの中にある何時ものメモ帳を開いて、読み始めてみる。
【私は多分そろそろいなくなると思います。これまでも伝えている通りですが、恐らく今日か明日くらいには】
「……えっ」
最初の一行を読んで声が出た。
何でという思いが心から湧き出てくる。
だって今日明日いなくなるなんて……あまりにも唐突だし……私これからどうすれば……。
思い返せば確かに。確かにのんちゃんからいつかはいなくなるって聞いていた。手紙でも書いてあったと思う。それは覚えてる。でもそれがこんな直近で、いなくなる直前のタイミングで言うなんて卑怯だ。卑怯なんだのんちゃんは。
手紙は長々と続いていた。今の調子なら私が社会に出てもやっていけると。これからは自分がいなくても安心だと。
でも私はあまりその文章を文字として認識できなかった。動揺していて、それどころじゃなかった。
話せるなら話したい。消えないでと直接伝えたい。
でもそれは不可能だ。
私の中にのんちゃんはいるのだから。
呆然とした頭のまま最後になるかもしれない手紙を読み終えると、慣れた手つきでブラウザから動画サイトを開く。開いて、衝撃を受けた。
「そ、卒業配信……って」
知らない。聞いてない。
タイトルには「かも」とか付いていたからジョークかと思って開いて見てみると、結構本気でのんちゃんは卒業について語っていた。まだ出来そうならやるけどこれが最後でもおかしくないからみんなありがとう、って。
こんなの、あんまりだ。
他のファンはいいかもしれないけど、私にも同じような対応をするのはどうなのかと思う。それにそれだけじゃない。勝手にいなくなるなんて、のんちゃんとは言えどもう一人の私としての立場から言わせてもらえば気に食わない。あまりにおざなりだし、私のことを軽視しているし、私の日々に罅を入れた責任を取ってもらわないと困る。許さない。
私はクレームも込めて手紙を残した。
いつものように寝ればのんちゃんが起きて配信をして手紙を残す。
そう思って昼からベッドに入って目を閉じる。生活習慣が狂ってるせいか、眠気は直ぐに訪れた。
目が覚めた。午後4時。少し早いと思いながらもすぐにパソコンを操作する。でも手紙は無かった。配信も無い。おかしい……いや。寝た時まだ12時とかだったし、時間間隔が空いてなさすぎるのかもしれない。私はまた寝ようとして、全然眠れなかった。結局のんちゃんが普段食べているだろう冷凍食品の夜ご飯を食べて久しぶりにお風呂に入り、午前2時くらいに意識が落ちる。
朝日が降りかかって目が覚める。午前7時。どうだ。5時間もあったらのんちゃんも活動できる時間的余裕くらいあるでしょねえ。
しかし手紙は無く、配信も無い。
私、ベッドに転がる。
午前8時、二度寝。
ちょっとだけ寝れて午前11時。
確認。
無い。
寝る。
起きる。
午後1時。
全然寝れてない。
やっぱり無い。
寝る。
起きる。
無い。
寝る。
寝れない。
なんとか寝る。
そうして二日くらいは起床と就寝を繰り返した。起きたら手紙が存在していて、何事もないかのように配信アーカイブが残っていることを考えながら目を閉じる。
目を閉じてても、寧ろ目を閉じてる瞬間の方が、大きな不安が全身に伸し掛かってくる。何でこうなったのか。のんちゃんは何で消えたのか。また私はあの時みたいになっちゃうのか。
尽きない不安に絶えず目が醒めて、浅い睡眠を繰り返すように私はなっていた。
そうしていること数日。
ついに私はのんちゃんが起きて来ないことを事実として認識した。疲れて長時間寝てるとかじゃなくて、本当にいなくなろうとしてるんだと思う。
でもまだいなくなっていないとも同時に思う。確証も無いし根拠も無い。ただ私がそうであってほしい、そうでなければ嫌だと感じてるだけ。
のんちゃんは何か言っていただろうか。言ってない気がする。思い出そうとしても全然出てこない。
でもそう言えば。
のんちゃんは言っていた。
私は絶対に味方だと。
だから積極的に迷惑を掛けても構わないと。
……なら、これからのんちゃんの意識を無理矢理引き出そうとしても、それはいいってことだよね。
そうだ。駄目なんだ。
こんな受け身で考えていても絶対にのんちゃんは戻ってこない。
私が行動しなきゃ。
これはのんちゃんの為じゃないんだ。私の為なんだ。
私はのんちゃんが必要だから、その為にのんちゃんは救われる必要があるんだ。
よし……。
「あれ。で、でも……どうすれば……」
そうと覚悟は決まったのはいいけど手掛かりがないので、右往左往する。
どうしよう。何をすればいいか分からない。
自分から行動するなんて何時ぶりか分からないし……。
過去ののんちゃんの手紙を読んでも恐らく手掛かりなんて無いと思うし……そもそも何を探ればいいだろうか。
願いとか、嗜好とか?
ダメだ、全然違う気がする。
……ちょっと待って。
嗜好か。そっかそっか。
私、思いついたかも。
「美湖沢、御子」
のんちゃんと組んでいるヤバい奴……そんな認識しかなかったし、私からすれば「舞桜学院Vtuber部のじゃない方」であるのだけども。
聞くところによると、のんちゃんは美湖沢御子のことをこの上なく信用しているみたいだった。そんな彼女であれば事情を知ってるかもしれないし、もしかしたらのんちゃんと話す方法だって……!
その可能性に思い至った瞬間、私の行動はとても早かった。
のんちゃんがいつも使っている通話ツールは配信を見て知っている。だから美湖沢御子の連絡先にメッセージを送ることは非常に簡単だった。こんなにもアクティブに自分から動いたことは人生でもあまりないかもだけど、嬉しくはなかった。ただただ、戻ってきて欲しいだけだった。
数分もしないうちに美湖沢御子からの返信は来た。
【もしかして、リンさんですか?】
どうやら私の事情を知っているようである。話が早い。
美湖沢御子に時間があるかと聞けばあるとのことだったので通話をしてみる。
緊張でマウスが震えるけど、そこは我慢で。のん先輩に比べれば自身の不調なんてどうでもいい。
すぐに通話は繋がった。
『もしもし、リンさん……ですよね?』
「は、はい……そちらはみこみ、こざわさんでいいですか?」
フルネームで言おうとして初っ端から噛んだ。クソぅ。自分の対人経験値の無さが恨めしい。
美湖沢御子はその様子がおかしかったのか、息を漏らすような綺麗な笑い方をした。
『ふふふ!ミコとかみこみーとかで良いですよ!』
優しい。
けどそれは絶対に拒否する。
「あ、あの、美湖沢御子……さん」
『みこみーで良いんですけどねー。なんでしょう?』
「た、単刀直入に言います。のんちゃんについて、何か知っていたりとか……し、しますか?」
すぐの反応は無かった。少し間を空けて美湖沢御子は口を開く。
『知ってる……って言ったらどうするつもりですか』
動画では聞いたことが無い、強い口調だった。普段なら確実にヒヨってお茶を濁してしまうだろう。
でも意外なことに私はあまり動揺することなく、冷静でいれた。多分美湖沢御子がのんちゃんに関してはガチ恋レベルで入れ込んでいたことを知っていたのもあるし、何より私自身がのんちゃんに入れ込んでたからだ。ここで引いては、意味は無い。
「き、決まってますよそんなこと……私は、のんちゃんを、呼び戻します」
呆れたような溜息がイヤホンから聞こえた。
『呼び戻す、ですか。そんなことが可能だと思ってるんですか』
「わ、分かりませんよ! 分かりません、けど。何もしないより、ずっと良いです!」
『……じゃあそのためならのん先輩の意志を曲げてもいいと?』
「意志……?」
やはり何かを知っている。私じゃなくて美湖沢御子にだけ語っている何かがあるんだ。気張れ私。聞き出さないと、きっと何も掴めない。
「その……い、意志って、なんですか」
『それは教えられないですね。リンさんに教えることをきっと、のん先輩は望まないので』
「の、のんちゃんが教えられない理由なんですか」
『そうだよ。それ以外に何かあると思う?』
「……そのためなら、のんちゃんと一生会えないと分かっていても、その意志は尊重しなきゃならないと感じてるんですね」
美湖沢御子は押し黙った。
私が思うに、美湖沢御子という人間はただ逃避しているだけだ。最も信頼している人間から裏切られたと感じて、自棄になっている。私にはとてもこの人が年上に思えない。子供だ。多分。私がそう思えるくらいには幼稚な考え方だ。
なら、私は更に言葉を尖らせる。
「だ、黙って見ていればのん先輩が帰ってくると思ってるんですか。それは無いってこと、まだ分からないんですか。私が、こうしている以上、のんちゃんは本気ですよ」
『知ってますよそんなことくらい!』
耳がキンと来た。正直、うるさい。
……でも美湖沢御子もきっと、気持ちは私と一緒なんだ。それが今ので分かった。
『でものん先輩の最後の意志を尊重を無碍にするなんて……!』
相変わらず感情的になっているのか、大声だ。
しかし少し気になる。
やたらと美湖沢御子は意志を強調してくる。最後の意志。それは果たして何だろうか。常識的に考えればのんちゃんの生死に関わる事情なんだと思う。私に伝えたくないと言ってる時点で、多分そんな気がする。でもそれってつまりは私の生死にも関係してくるんじゃないだろうか。確かにここ最近の私が起きてる時間は長くなってきていたし、のんちゃんはもしかしたらかなり短くなってきていたのかもしれない。
────つまり、私を生かすためにのんちゃんは死のうとした。とか。
「あの、す、少しお聞きしたいんですけど。最後の意志……それって私が関係してたりしますか」
『リンさんと関係あるってどうして分かって』
「さ、最初に言うべきでしたけど、私は灰崎淋です。のんちゃんではないんです。き、気軽に名前で呼ばないでほしいです」
お、思わず言ってしまった。率直に言って美湖沢御子の事は好きじゃないけど、今言う必要は無かったかもしれない。でもこれ以上リンさんリンさんと呼ばれるのは勘弁だった。名前で呼んで欲しい相手なんてこの世に一人しかいないのだから。
「そ、それで、どうなんですか。のんちゃんは、私のために、死んだ。違いますか」
息を呑む声が響いた。
『……違わないよ。うん。そうですそうそう。のん先輩はリン……灰崎さんのために居なくなったんだよ』
「やっぱり……そうですか」
それを聞いて少しスッキリしたと同時に、何と言うか。高揚感もちょっぴりあった。
のんちゃんは私に最初から優しかった。私なんて大した価値も無いのに、それでも無条件で支えてくれた。救ってくれた。日々を彩ってくれた。
そしてのんちゃんが私のために身を賭したのだ。嬉しくないはずがない。
でも私はそんなの望んでない。
そんなちっぽけで浅薄な自己満足なんか要らない。のんちゃんがいる方がよっぽど幸せだったし、満ちていた。
「美湖沢さん、諦められますか」
『諦めるも何ももういないって言ったのはそっちじゃない……』
やはり美湖沢御子の本性は配信の如何にも媚びているような感じではないみたいだ。でもそんなこと知ってたし、今更だし、今はどうでもいい。
「な、何も試す前から諦める必要とか無いと思うんです。だって、多分ですけど、まだ私の中にのんちゃんはいます」
『……それ、適当で言ってるんじゃないよね?』
「勘、ですけど。願望も、混じってますけど。適当では、ないです」
『そっか』
複雑な声音。私だから、同じことを考えた私だから分かる。期待と不安と失望と……色んな感情が織りなして編み込まれた音だ。
「い、一緒にのんちゃん、呼び戻しましょう。手伝ってください。きっと、出来ますよ」
悩みこむように微かな呻き。
でも私はこの人がここで止まるような人間じゃない事を知っている
美湖沢御子というVtuberはずっとのんちゃんの隣でやって来ていたらしいし、相棒だ。悔しいけどもそこは認めざるを得ない。ムカつくけどそれは事実だ。
それにもう一つ。
『……あーもう分かりました! 可能性消えるまで、付き合いますよーだ!』
結局、美湖沢御子が最も冬川のんに心酔しているのだから最後まで動かないはずが無いのだ。
──── 美湖沢御子 ────
数日ぶりにのん先輩のアカウントからチャットが来たときは、思わず本人かと思いました。それもそうで、私自身、あの摩訶不思議な話を信じ切れてなかったから。
どうやらのん先輩は二重人格みたいなもので、そのサブ的な人格だとか。うーん。
のん先輩の言葉にその場では納得しましたが、正直なことを言えば明日も配信が出来ると思ってました。
でもその次の日、Vtuber活動を始めてからのん先輩から初めてチャットも通話も来ませんでした。
その次の日も。
次の次の日も。
その間私が何をしていたかと言えば勉強……と言いたいところだけどそれは違っていて。
絵を。
ひたすら絵を描いてました。
のん先輩の立ち絵。美湖沢御子の立ち絵。二人のカップリング絵。
何時もならばネットに上げてご満悦……となるけどそういう気分でもなく、書いたら適当に保存の繰り返し。きっと過去を見ていたのでしょう。のん先輩と活動した日々を。
そんなときでした。リンさん……灰崎さんからチャットが来たのは。
そこで灰崎さんから痛いぐらい正論を言われた。のん先輩の話によれば灰崎さんはのん先輩のファンみたいだし、恐らく相棒である私が不甲斐ないのが見てられなかったのかも。
ただ、灰崎さんには感謝してる。
あそこでああやって強く言ってくれなかったら何時まで私が過去を見ていたか、分からないからだ。
でも、じゃあどうやってのん先輩を呼び戻そうか、なんて話になると本当に打つ手なしだった。
のん先輩の趣味を灰崎さんに聞いてみた。もしかしたら灰崎さんがその趣味を代行することで深層意識に刺激が与えられるかもしれないからである。でも灰崎さんはあんまりのん先輩のプライベートを知らないみたいだった。言われてみれば私ものん先輩の趣味は知らないかもしれない。ゲームは一緒にやっていたけどのん先輩、特段このゲームが好きだとか無かったし。精々がVtuber活動が好きってことくらい?
『あ、あのですね……私に一つ案があるんですが……』
ああでもないこうでもないと言い合っていると、灰崎さんが声を上げた。
『い、一度、私と会ってみると言うのはどう思いますか』
「灰崎さんとですか?」
『ま、まあそうと言いますか。実質的には、私じゃなくてのんちゃんとですが……』
「のん先輩と?」
灰崎さんが何を考えているのかいまいち分からない。何だろう。
『私、考えてみたのですが。の、のんちゃんが心残りにしていることってもしかしたら、Vtuber活動以外にもあるんじゃないかと』
「それが……私と会うこと?」
『だ、だってあれだけのんちゃんにオフ会オフ会って、言ってましたし。そ、それにのんちゃんは美湖沢さんのこと、多分ですけど、恩人だと思ってるはずです。あ、会いたい理由は思いつくけど、会いたくない理由なんて無いはずです恐らく』
「……なるほどですねー」
最初こそ疑いの気持ちがあったけど、聞いていれば確かにその意見は間違ってないように思える。
……にしてもこの、のん先輩の主人格らしい灰崎さん、結構頭が回る。考え方の切り口が鋭い。それなのに自信無さげなのが少し可愛い。こういう後輩、私欲しいかも。
と。余計な思考は置いておいて。
「じゃあそうしてみましょうか。じゃあ今から灰崎さんのお家伺いますね」
『あ、え……そっか、この人ウチを知ってるんでしたっけ……』
何故かドン引きされた。非常に解せない。
私はすぐに準備を整えると灰崎さんの家へと向かう。
灰崎さんの家はそう遠くない。家からバスで駅まで行った後に、電車で一時間揺られて、その後歩いて10分くらい。閑静な住宅街の中に佇む普通の一軒家だ。
チャイムを一回鳴らす。
すると、大きな足音を立てて、というか明らかに足音でもないような物音まで立てて、少ししてドアが開く。
薄暗い室内に射す陽の光に、灰崎さんの顔が照らされる。
知っている。見るのは久しぶりだけど、その顔立ちはやっぱりのん先輩だ。非常に不安そうで、吹けば飛んでしまいそうなか弱さすらあるけど、一度みたことのあるのん先輩の相貌だ。髪の毛は少しくすんでいるけど金色。でもその濁りが私からするととても好ましいと言うか、好きと言うか、どう言い表しても最高というか。この子はのん先輩じゃないのに……!
あまりにも私が喋らなかったからだろう。明らかに話すことが苦手そうな面持ちなのに勇気を出したようにこぶしを握り締めて灰崎さんはお猪口みたいな小さな口を開く。
「ど、どどう、どうも!」
通話じゃあまり分からなかったけど、実際に聞くとのん先輩と違って少し声音は高かった。
てかヤバい。この子、可愛いかも。小動物チックで妹みたい。私いないですけど妹。
「初めまして!美湖沢御子です」
「は、はい。え、ええと。ど、どうしよう……会うとは言ったけど、ここから……」
「じゃあお家にお邪魔しても良いですか?」
頭撫でたい。
「わ、分かりました。つ、つまらない家ですが、どうぞ」
そう言って灰崎さんは私を家に招いてくれた。あまりにも挙動不審で、額に汗を浮かべながら応対している様子からしてのん先輩の話はホントだったらしい。つまり灰崎さんはド級の引き籠りで、人と話すのに慣れていないである。可愛い。
初めて家の中に入る。のん先輩が暮らしていた、灰崎さんの家だ。
中はシンプルだった。薄暗い室内は必要な物が手の届きやすい場所に置かれているような、そんな物の配置。気のせいか空気は少し悪い気がする。
「ひ、ひとまず私の部屋でいいですか?」
「オッケーです!」
灰崎さんの部屋。要するにのん先輩が配信していた部屋である。聖地巡礼だこれ。こういう状況でなければテンションを上げて写真撮りまくるんですが、ここは堪えて堪えて。TPOを弁えないのは駄目だからね。
二階に上がると灰崎さんの部屋はあった。
「ど、どうぞ!」
「はいー!お邪魔します!」
中に入ってみる。
部屋の内装は凄く予想通りだった。この家と同じく、無彩色であまり個性のないシンプルな空間。効率化と言うか、無駄がないと言うか。ハイスペックPCと二枚のディスプレイ、マイクスタンドにストリーミング用のオーディオインターフェースだけが異色を放っていて、のん先輩らしい部屋の配置。
この部屋でのん先輩が暮らしていたんだよね……。
思わず、試しに嗅いでみる。
「あ、あの……。スメハラは、止めてもらえますか……」
「す、すみません……」
これは私が悪かったですね……。灰崎さんが隣にいたことを忘れてたから、うん、今度は気を付けよう。と言うかスメハラなんて言葉良く知ってますね灰崎さん……。
ともあれ部屋に着いて、灰崎さんに促されるままベッドに座る。灰崎さんは配信デスクの椅子に座った。
「それで、どうですか?灰崎さんの中で何か変化ありますか?」
「変化……。今は特には……」
「そうですか……」
まあ会うだけでのん先輩の意識を刺激出来るなんてそう簡単には考えてなかったし。それくらいは許容範囲内だ。
「因みに灰崎さんの中ではのん先輩がいると確信してるんですか?」
「か、確信とまでは……でも、何となく」
灰崎さんの円らな瞳が揺れる。自分で言っていて自信が持てていない様子だ。ただ私もこの灰崎さんに乗せられてここに来たんだから、その発言は信じる。
「じゃあ何ですけど、試しにのん先輩へ語り掛けても良いですか」
「は、はい!どうぞ!」
ん、ん。
許可ももらったので、喉を整えて話しかけてみる。
「のんばんわ!のん先輩、遂に来ちゃいましたよー!ふふん、驚きましたかー?」
……返事は無い。何故か目の前にいる灰崎さんの目が虚無になってるけど……まあいっか。
「あ、灰崎さん。のん先輩になりきってもらってもいいですか?」
「え、え!? あ、あの、それはどういう……」
「シャーマンっているじゃないですか。自分に霊的なものを下ろして死人と会話を試みる降霊術師のことなんですけど、灰崎さんならもしかしたら出来るんじゃないですか?のん先輩も視点を変えれば霊的な存在だと思いますし」
「な、なるほど?やる価値は、ありますね」
首をこてんと傾げながらも分かってくれたらしい。「そ、それじゃあ」とか細い声で喉を鳴らす。
「み、みこみー。今日は来てくれて、ありがとう?君が来てくれて、ちょっとだけ嬉しい」
「はい!のん先輩、今日は返しませんからね!」
「な、何を言ってる。こ、ここ私の家だから」
そこで会話を意図的に区切る。
うん……。
絶妙に下手だ……。
灰崎さんはもうギリギリなんだろう。ミルクみたいに白い顔は色を変え、今にでもショートして熱暴走を起こしそうなほど赤くなっている。
灰崎さんが頭を限界まで使ってキャパオーバーしちゃったらのん先輩が降霊するの、無理な気がする。あとのん先輩はそんなことは言わない。
「止めましょう……自分で提案しといてなんですけど、無理な気がします」
「ですね……どうしよう」
振り出しに戻る。
のん先輩の意識を刺激する方法かー。これっぽっちも思いつかない。私が冬川のんとして扮した灰崎さんと配信をすればまた何か変わるのかもしれないけど、でもそれこそのん先輩の意志を曲げることになる。いや、違うや。実際は私がそれを認めたくないだけだ。どんな手段でも用いるつもりだけど、のん先輩以外の冬川のんと組むのだけは絶対に嫌だ。その点においては灰崎さんと同じかもしれない。
他に何かないの……?本当に……?
「灰崎さん」
「な、なんですか。何か思いつき、ましたか」
「灰崎さんはのん先輩と一緒に居たいんですよね」
「そ、それは勿論……」
「そのことは伝えましたか」
「え……?」
どんな些細な事でも良い。手掛かりのために何か情報を。
そう思い灰崎さんにのん先輩への気持ちを聞いてみる。
突然の話題転換に面を食らったように動きを止めた灰崎さんは、たどたどしく話始める。
「つ、伝えてないです。伝える暇が、無かったです」
「そうですか……」
「そ、そうです。じ、自分勝手なんです。卑怯、なんです!のんちゃんは!」
「は、灰崎さん?」
「勝手に、私が社会でやっていけるとか、上から目線で安心して。ただ、私はのんちゃんが、のんちゃんがいたからああしていられただけ、なのに……!」
一瞬戸惑ったけど……そうだよね。灰崎さんがヒートアップしても仕方ないことだよ。だって灰崎さんからすればのん先輩は何も前兆も無く、突然消えてしまったわけだから。
灰崎さんはふらりと立ち上がると、部屋の隅っこにあったランドセルに手を入れる。何をするつもりなんだろうと見守っていると、筆箱を取り出し、中から鋏を出した。刃先を自身の腕に……えっ。
「の、のんちゃん!見てる!?私はのんちゃん無しじゃ生きていけないと思う……から!だから、こうなるんだよ!」
「ちょっ!灰崎さん待ってストップ!!」
それはやりすぎ!
どんな手段をって言ってもそこまでなんて思ってないから!そんな傷を負わせたらのん先輩にも顔向け出来なくなるし!何より身体に一生モノの傷が付くからダメだって!!
私の言葉はもう聞こえてないみたいだ。
灰崎さんは子供用の鋏を、左腕を狙うように刃先を突き付け、その状態で持った右手を思い切り振り上げる。
私は必死に止めようと身体を乗り出したけど、距離が遠すぎる。
間に合わない。
灰崎さんの鋏が振り下ろされて、静止した左腕に鋭く刃が────
「っぶない!」
────入る瞬間、右腕がピンと止まった。
……灰崎さんが思い留まった?
いや、あれはもう感情を制御出来てなかったように見えた。
それに鋏の止め方が、怪我をするのを恐れたからって感じじゃない。
まるで、怪我をするのを防ぐためだけに必死に庇ったような、そんな動きで。
感情に身を任せた灰崎さんが出来る行動じゃない。
結論は出てるけど、そうなんだけど、どうしても思考が回り道してしまう。だってまさかと思うからだ。
でもそれ以外には考えつかない。
もしかして。
のん先輩ですか?
──── 冬川のん ────
気が付いたらそこにいた。
いや、そこっていうのは具体的な場所じゃなくて。ガチで代名詞的な意味で。
どこだろうかここは。辺りを見回そうとも、景色が無い。暗くて何もない。地獄だったり?
元の私にでも戻ったかと思ったけど違うみたいだ。
足は無くて腕も無い。意識だけがなんか浮かんでるような、変な感じ。アルコールで深酒した時に近いかもしれない。全身麻酔もこんな感じかもと思ってみたり。やったことないけどさ。
不安感はあったが暫く待てば明るくなった。
視界は開けて、リンの部屋だった。えっと。まだこの憑依しちゃってる状態って終わってないの。私的にはもうエンドロールというか、やり残したことはほぼ無しと言っていいトゥルーエンドを迎えたあとなんだけど。
様子が違うことにはすぐに気付けた。
多分これはリンの視界だ。私じゃなくてリンが実際に動いていて、その視点で私も同じ光景を見ている。もうそろそろ疫病神とか名乗った方がいいかもしれない。
私の意識は散発的だった。
次の瞬間になれば朝になって、次は夜。明くる日は昼間に意識が戻る。私がこの状況に慣れていないのか、安定していないのか。いや慣れたいわけじゃないんだけど。それ以前に女子中学生の生活を盗み見ているみたいで非常に気が引ける。マジの通報案件じゃんこれ。だけど内心で背徳感とかは覚えない自分がいたことは少し安心した。いや安心してる場合か。
私の意識そのものも虚ろで、思考がクリアになる瞬間はそう多くない。ふらっと意識が湧いて、確率で「あ、今リン寝てるんだ」と考える程度。知性があるのか若干怪しい。
でも末路と言えば末路かもしれない。
他人の身体を使って色々とやってきたわけだし、このくらいの償いはしろよという神様からの罰なのかも。それにしては少し温いと言うか、良く分からないけど。
『のんばんわ!のん先輩、遂に来ちゃいましたよー!ふふん、驚きましたかー?』
次に意識が覚醒した時は何か呼ばれた気がして、思わずピクリと何かが震えた。
え、誰。言い方的にみこみー?
茶色髪の少し幼い話し方をする少女の容姿に私は見覚えが無い。でもみこみーだ。話し方……声音とか、間の開け方とか、そういうので私は分かる。
でもこの少女……みこみーが目の前にいるってことは、それをリンが直接見聞きしているという状況に他ならない。
え。どゆこと。
返答しようにも私はもういないようなものだし、全てリンに返したので興味深く眺めるしかない。
会話を聞いている限りだと私を取り戻そうとしているみたいだった。
別にそんなことせずともやってけると思うんだけどなぁ。みこみーは元より、リンだってもう初期の不安定な感じじゃないから大丈夫だって。太鼓判押すって。私の太鼓判とか誰がいるんだって気は否めないけど。
いやーしかし。
これは自分が消えた後のエピローグっていうんだろうか。それを一人称視点で見れるなんて、贅沢な経験だ。死んだあとに周囲の人がどんな反応をするか考えたことがあるけど、これはピタリとその状況である。消えた後も私の事を考えてくれるなんて幸せだな……できればそう長く引きずってほしくはないんだけど。それはそれとして嬉しい。やっぱり10年くらいは私の事で引きずって欲しい。結婚式で男とキスする瞬間とかに脳内を過って一瞬動きが止まればもう最高。私は死ねる。いや死んでるか。
『の、のんちゃん!見てる!?私はのんちゃん無しじゃ生きていけないと思う……から!だから、こうなるんだよ!』
と、他人事みたいに考えているとリンは鋏を持ち出していた。
え、なんで。リスカしようとしてる……!?
傍観気分はここで冷めた。一気に熱を持つのを感じる。
ちょっと本当にやめなって絶対に絶対に将来後悔する時がくるから……!
どうにか、どうにかリンを止められないか。
頼みのみこみーは少し離れた場所にいて、リンの行動を止められなさそうだ。
祈ってもリンに意志は伝わらない。
必死に身体を動かそうと試みる。前まではリンの身体で好き勝手出来てたんだから、一秒くらいはできるはず……!
仮に一部を動かすことが出来るなら間違いなく鋏を持った右手だ。
右手……右手……!
動けよ……止まれよ!
刹那、腕に神経が宿る感覚。
ピタリと右腕が宙で静止したのが神経を通じて分かる。
「っぶない!」
危機一髪。
なんとかリンの自傷行為を止めることが出来た。年甲斐もなくへなへなと脱力して腰を落とすと、地面に座って一息つく。
念のため左腕を確認。良かった。傷一つ付いていない。
本当になんであんなことをしようと思ったんだろうリンは。
ごめん。嘘だ。
あの時は必死だったから考えてなかったけど、理由は聞いていた。
私無しじゃ生きていけない。そんなことをリンは言っていた。
それだけの理由でリンは自分を害そうと……違うか。私にとってはたったそれだけに思えても、リンからすれば大きなことなんだ。
そりゃそうだ。リンは家庭崩壊を起こしているし、身近に頼れる人間はいない。そんな中で私は唯一の味方だったから、私が想像している以上に精神的な支柱だったのだろう。
「のん先輩……!」
と、黙々と考えていると抱き着かれた。みこみーに。リアルみこみーだ。
「どうしてみこみー……一応だけどみこみーだよね」
「はいそうですよ!勝手にいなくならないでくださいホントのホントに!」
しがみつく力が上がった。ちょ、バキって言った。リンの関節がなんか鳴ったって。痛い痛いって……。
その後の話をしよう。
私は結局消えなかったみたいで、リンの身体に住み続けている。
しかし一つ、変わったことがある。
(の、のんちゃん、今日の配信は17時だよね。ちょっと、早いから早歩きで帰るね)
(あーそうだけど。間に合うから気にしなくていいのに)
(そ、そんなことさせられないから!ファンとして一秒たりとも、遅らせたくないから!ファン、として!)
(はいはい、おーけー)
リンと身体を交代できるようになった。いわゆる、遊戯的な。王的な。
身体の主導権を持っていない時でも会話は可能で、今みたいに心で通じ合っているのだ。
最初こそ慣れなかったが、リンが身体を放棄して心の奥に引き籠ろうとするたび引っ張り出していたらすぐに慣れた。今じゃ自由自在に入れ替わり可能。恐らくみこみー以外には私とリンの見分けがつかないだろう。まあリンにも私にもみこみー以外の知人がいないだけなんだけども……。
生活習慣も変化した。今ではリン自身が学校に通えるまでに成長……成長と言えるのかこれ。会話自体は全部私が伝えたものをそのまま口から出力しているだけだったりするし。あとテストの点とか酷い。酷すぎる。別にリンは頭が悪いわけじゃないけど、単純に勉強が遅れすぎていてこの前も赤点スレスレで小テストを通過していた。私も教えているのだがちょっと限界がある。受験が終わったらみこみーに家庭教師を依頼しようと思っていたりする。
話が逸れたけど、それでも社会復帰に一歩踏み出せたことは素直に進歩と言えよう。まだ不安なところは多いけれど、社会に慣れて自分に自信を持てた頃には今度こそ私は消えるんだろうなと何となく思う。それまでは私もリンの事を見守ることを決意してるから、うん。
(あ、あ、あの人クラスメイト……!家の近くなのに……!迂回しなきゃ……のんちゃんごめんなさいやっぱり時間かかる……!)
(あ、はい)
前を歩くクラスメイトの男を見て唐突に後ろへ方向転換して迂回ルートを進み始める。この調子で何年掛かるんだろ、リンの社会復帰。
リンについてはそんなところで、みこみーの話だが。
端的に高校三年生になったことで、受験だ。
みこみーは本格的にVtuber活動をお休みして、勉強に専念している。
ただ連絡を取っていないかと言えば偶に(と言ってはみたがほぼ週に6回。多すぎでは)息抜きがてらにみこみーと通話している。
『のん先輩……助けてください……!先月の模試で嫌なことがあったんですよ!』
「え、どうしたの」
『A判定だったんですよ志望校!なのに親がVtuber活動を認めてくれないんですよ!』
「それはそうでは」
『AですよA!このままいけば受かるに決まってるのに何でですか!のん先輩もそっちサイドですかそうですかーむぅー!』
相変わらず絶好調である。
みこみーが勉強できて頭良いのは知ってるけど、時折自信過剰なのが傷だ。
(お、落ちればいいのに。鼻折れて、凹んでほしい)
(……リンってみこみーに辛辣だよね)
(のんちゃんは、好きだけど、美湖沢御子はあまり。のんちゃんに対する過剰な推し方とか、態度も、そうだけど。単純に、性格が苦手)
(でもみこみーはリンの事好きっぽいけど。リンちゃんって呼びたかがってるよ)
(そ、それはいや!)
リンはみこみーの事が苦手っていうのは前からそうだったけど、不思議なことにみこみーはリンのことを気に入ってしまったらしい。まあリンはかなり臆病で小動物っぽくて可愛いことは分かる。見ている分には癒されるし、私も性格さえ知らなければアイドルか何かに思うかもしれない。しかしそれ以上にインドア要素が足を引っ張って、私が所謂Vtuberの推しを見るような目でリンを見ることは無い。リアルに対してそういう感情を持つ方がおかしいんだけども。リンはあまりにもコミュ障で、言って聞かせないと自分から行動を起こさないのだ。学校生活でも絶対に自分から話しかけようとしないし。閑話休題。
「とりあえずは受かるまでは頑張って。私は応援してるから」
『はーい……分かりましたよ。のん先輩の動画見て頑張りますよーだ。大丈夫です大丈夫です、私の相手はのん先輩だけですよ』
私の動画……その言葉……もしかしてアレか。私が消える日の直前に取った黒歴史ビデオレターのアレか。
「ちょっとそれは止めて。本当に忘れて」
『絶対に嫌ですよ!恨むなら過去のご自身を恨んでくださいね』
あ、この。通話を切りやがった。
(ど、動画ってなに……ずいぶん慌ててた、けど)
(何でもない。何でもないからリンは知らなくていい)
(う、うん……)
ピシャリと言い放った私は深呼吸で心を落ち着かせる。
あの時の私はアレが最後だと思ってかなり凄いことを言った自覚がある。なんであんな発言をデータで残してしまったのか。絶対にネットに公開されたくない。公開された瞬間私の黒い感情が迸って忽ちパソコン周辺機器が壊れる。つまり台パンしてキーボード壊す。絶対にやるなとみこみーには今後も言い含めなくては。
闇の感情に呑まれそうになったがともあれ、みこみーも通常営業で苦しい受験期間を乗り越えようとしている。
そして、最後に私。
「あーテステス。どうも、冬川のんです。相棒が受験生なので来年の二月頃までソロ配信ですが、今日もやっていきたいと思います」
結局私は冬川のんとしての活動を継続していた。みこみーは前述の通り受験だから一人で。
ただしこれは私の意志で再開したかと言えば、そうではない。
具体的にはあの日。私が消えようとしたその罪を償ってと言われて、みこみーとリンの示談条件がVtuber活動の継続だったからだ。
加えて条件がある。
一つ目に絶対にコラボをしないこと。
二つ目に配信は基本的に週4回以上はすること。
三つ目にみこみーとリンの言うことには基本的には従うこと。
この三か条を守らなければ私は滅茶苦茶怒られるらしい。怒られるだけじゃんと思うなかれ。みこみーには多分今度こそ泣かれる気がするし、リンに関してはまた自傷行為をする気満々だ。私の意識が戻ったあとにかなり説教したにも関わらず、次もあればそうするとたどたどしくも堂々と言い放ったのだ。早く私離れをしてほしい。ブラコンの妹を持つ兄の気持ちってこんな感じなのだろうか。重すぎて私には大変厳しい。前世でそういうギャルゲー主人公を羨ましいとか思ってゴメン。今となっては同情するまである。
と、こういう形で私の非日常は続いている。
当分はこんな日々が続くのだろう。とりあえずみこみーが受験終わるまでは。
Vtuber活動は未だ大変で、登録者数も減ってしまったけども、それでも今後は私は二人のために配信をすることにする。
ゆくゆくは当初の目標通り、Vtuberと言う存在がインターネットの常識になってくれれば本望である。
……あ。結局私の前世が男だったって話をしてないな。タイミング逃した。
い、いつか言うから。絶対にするから。許して。
【完結】この百合は営業じゃないのかもしれない 金木桂 @kinnmokusee
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