第7話




「今日はバイト無いんだよね?」


「うん、今日は大丈夫」


「そう、じゃあゲーセンいかない? 欲しいぬいぐるみがあるんだぁ!」


「いいけど、少しだけ話そうよ」


 普段通りの会話。

 いつもの友人三人と、私は図書室に向かう。


 ガラリと扉を開け、歩を進めて。

 いつも通り、図書室の隅へ——


「あれ? いつものとこじゃないの?」


「ちょっとね、今日は座ろうよ」


「今日はって……今日もでしょ?」


「ははは、そうかもね」


 不思議そうにする友人たちを尻目に、目的の場所へ。


 図書室は人気が無いながらも、まばらには人がいた。

 その大多数は読書スペースである机に座って読書をしている。


 その隅っこ。

 六人掛けの机に一人で座っているある少女の元へ歩いていく。


「豊栄さん? いっしょいい?」


「またですか?」


 本に落としていた眼差しを上げ、じっと見つめてくる少女。


「だって、他の席だと人が多いんだもん。いいでしょ一人なんだから」


「……まあ、いいですけど」


「ありがとう」


 再び視線を落とす彼女に笑みを返して、私たちは席に着く。

 私が座るのはいつも読書をする彼女の前だ。


「今日も佐倉はヤバかったよねぇ!」


 話し出す友人に愛想笑いで応えて、私は体をテーブルに寝かす。

 傍から見れば、友人との会話をだらけながら聞いているかのように。

 でも、私の本当の目的は——


「…………」


「…………」


 テーブルの下、指先と指先が触れ合った。

 けれど、お互いに声は出さない。


 お互いがお互いの感触を確かめるように絡めて、触れ合わせる。

 その温かさに、私は笑みをこぼしてしまった。


「どうしたの鈴?」


「んーん、なんでもないよ。それで?」


「……? でさぁ、ほんとに——」


 結局、とよとの手紙は出来なくなった。

 彼女の言うとおり習い事が増え、時間が無くなってしまったから。


 でも、私たちは触れ合うことが出来る。

 手紙でなくともこうやって、お互いの体温を確かめて、心を通わすことが出来る。


 そうして、私たちは日々を生きていくんだ。

 いずれ来る未来さきを夢見て、指先に『本物』を感じながら——

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図書室の隅で『本物』を触れあわせて かみさん @koh-6486

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