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この前話した設定で、1話書いてみました(笑) という話

 前々回の近況ノートでお話した、執筆中に思い浮かぶお話について。
 ちょっと筆が乗ったので、試しに書いてみました。

 タイトルはそのまま『この愛すべきどうしようもない世界で』
 一人称視点。プロットは作らず、お試しでしたので推敲もしていませんが……。

 ではさっそく、本編をどうぞ!





 異世界っていいよなぁ……。
 基本的に成功が約束されているし、基本ハーレム作れるし、女の子は必ずと言っていいほど可愛いし。
 もちろん、必ずしもそうなるわけじゃないっていうのも知ってる。大変な事もあるってことも。
 でも、やっぱり魔法はロマンだし、未知っていうのはそれだけで魅力が溢れているってもんだ。

 ――そう思っていた……当事者になるまでは。

「井上 恋歌様ですね?」

「あ゛あん?」

 っと、いけないいけない。アンタッチャブルな名前を呼ばれたせいで、ついドスの利いた返事をしてしまった。
 いつの間にか真っ白い空間にいるし、直近の記憶は無いし……夢かな? よくわからないけど落ち着け。

 突然の状況に狼狽えていると、目の前の少女は不思議そうに首を傾げる。

「えっと、間違えてたかな? ……いや、大丈夫みたい…………あのぉ……井上 恋歌様で間違いないですよ、ね?」
「お゛ぉん?」
「ひっ!?」

 おっと、怖がらせてしまったようだ。
 いくらこれならキラキラネームの方がマシだったって思ってる名前を呼ばれたからって、これでは話が進まない。

 落ち着け……落ち着け……落ち着け……。

 咳払いを一つ。
 俺は目の前に立っている未知なる少女と対話するために、極めて平静を装いながら告げた。

「まずはその名前を呼んだ事を謝れ……な?」










「この度は、本当に申し訳ありませんでしたぁ……」
「うむ、苦しゅうない」

 ……俺は何をやってるんだろう?

 いくら夢の中とはいえ、だ。
 なんか神々しい光を放っている少女が土下座をしている姿にこう、なんとも言えない興奮を覚えている辺り……俺はもうだめかもしれない。

 い、いや、最初に失礼を働いてきたのは向こうだし? ……俺は悪くない。悪くないと思うようにしよう。
 なら、まずやるべき事は話のすり替えである。
 
「それで? なんで俺はここにいるんですか?」
「そ、それを今から説明させていただきます」

 少女が顔を上げた。
 うん、最初にも思ったけど可愛いな。

 ザ、天使って感じで、初々しくも艷があり、静謐な雰囲気を纏っている。
 金色の長髪はサラサラで、まつ毛も長い……街を歩けば、百人中百人が振り向くほどだ。
 作り出した俺、ナイス! でも――

「そんな人に土下座をさせたのか……俺」
「? えっと、説明をさせていただいても?」
「あ、はい。お願いします」

 どうやら、彼女は気にしてないらしい。

 ……うん、相手が気にしてないなら大丈夫だよね?

 さすが夢の中。随分と都合がいいらしい。
 心の中で安堵していると、彼女はコホンと咳払いをしてから口を開いた。
 
「お名前を呼ばれるのがお嫌のようなので、ここからは井上様と呼ばせていただきます。井上様はこの度、異世界へ旅立たれることになりました」
「はい、質問です!」
「どうぞ」
「じゃあ、俺は死んだんですか? 正直、朝起きてからの記憶がないんですけど」

 異世界転生といえば、事故や事件に巻き込まれて命を落とすのがベターだ。
 せっかく面白い夢を見れてるんだから、その辺の設定も聞きたいところである。

「ああ、この場に連れてこられた段階で記憶か抜け落ちるのはよくあることです。あなたは……ええっと、正確にはまだ亡くなっていませんね」
「え? じゃあなんで?」
「あなたは自転車で登校途中、下り坂でブレーキが効かなくなりました」
「ああ、それで事故を……」

 良くある人助けの結果ではなかったのは残念だけど、そんなこと普通無いもんな。
 それはそれで納得すると、少女は首を横に振って。

「いえ、その前に我々が回収しました」
「それもう拉致じゃん!?」

 死んでないじゃん!?
 いや、まあ、大怪我する前に助けられたのは感謝するべきなんだろうけどさ。でも、何もないのに連れてったら拉致でしかないじゃん。

「夢とはいえ、拉致は無いだろ……」
「えっと、井上様はこの状態が夢だとお思いに?」
「そうじゃないの? いやだって、普通あり得ないだろ。真っ白い空間に連れて来られて、あなたが死ぬ前に回収したなんて」
「いえ、回収しなくても死にませんでしたよ?」
「え? そうなの?」

 そう聞くと、彼女は大きく頷いて。

「ガードレールに激突して吹き飛びはしますが、下は海ですから。井上様は泳げますし、普通に助かりましたね」
「じゃあ拉致るなよ!? というか、夢じゃなかったら戻してくれ。こう見えて今の暮らしが嫌になってるわけじゃないし」

 幼馴染の女子もいるし、友達だって多い。
 別に無理して行きたい訳じゃないのだ。

 しかし、少女は真顔で。

「いや、無理ですね」
「は? なんで?」
「いえ、正確には無理ではないです。ただ、あなたがこの空間にある間も世界の時間は進んでいます。世界の修正力によって、今あなたが戻れば海の底で窒息死した状態で戻されると思います。」
「じゃあ、なお悪いわ!」

 勝手に拉致して、戻ると死ぬのが確定しているだって?
 それじゃあ、もう戻れないじゃないか。

「い、いや、まだ夢じゃないって決まってるわけじゃないし……」
「っと、そろそろ上も急げと言ってきているのでお送りいたしますね。あなたの場合力を贈る必要もありませんし、パッパといきましょう」
「ちょっと待てぇ! さすがにチートの一つや二つは貰わないと――」
「では、あなたの旅路に幸あらんことを」
「まっ――!?」

 全身が光りに包まれる。
 その瞬間、俺の意識は闇の中に沈んでいった。


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