人間観察 図書館で
私の趣味は小説を書くことだ。そのために色々なことを経験したいと思っている。
映画を見るのも、変なことをするのも、小説を読むのも、サークルに入ったのも。もとを辿れば、全ては小説のネタを得るためだ。
その活動の一環として、最近は人間観察をしている。すれ違う人の服装、体型、手荷物などからその人が何をするためにここにいるのか、とかを推測するのだ。
これが中々楽しい。
例えば、靴を裸足で履いている人はここで何をしているのだろうか。
私の推測では、この人は夕飯の材料が少しだけ足りなかったから買いに来た人だ。だから、靴下を履くのも面倒で家を出た。おそらく、家は近く、部屋は汚い。
これは私の偏見で決めている。誰もが納得する理由なんて関係ない。
だって、これは私の妄想だから。
◇◇◇◇◇
「課題、予習、復習……めんどう」
とある日曜日。午前はサークルもどきの活動でちょっと遠くまで自転車で走った。そして、その帰りに図書館に寄ったのだ。
私の通っている大学の図書館。この大学は7月からクーラーがつくはずなので、私は快適な空間に入りたくて図書館を訪れた。
しかし、クーラーはついていなかった。節約とかやめて早くつけてくれ。
まあ、人が少なかったから扇風機を独占できたから今日は許してやる。よかったな大学。扇風機に感謝しろ。
「レポート、レポート……レポート」
一週間貯めに貯めた課題を今日一気にやる。その勢いでトイレから帰って来た。
さっきからすれ違う人を観察しているが、真面目、成績優秀という結論しか出ない。
面白そうな人はいないかな〜。
そして、自分の席の近くで見つけた。
変人?と言っては悪いから変な人がいたと言っておこう。
何が変なのか。
それは、その人が椅子ではなく床の上に座っていたからだ。
この図書館に畳はない。床の上に座る文化はないはずだ。もしかすると、宗教上の理由か?それだったら、申し訳ない。全力で謝ろう。しかし、私の人生を振り返っても図書館で床の上に座っている人がいなかったから、変人としか思えなかったのだ。
これは、観察するしかない。
宗教の事情などの事柄はないものとして観察する。
その人物の髪型は坊主。服装はネイビーのシャツに、クリーム色のベルトなしのゴムで止めるタイプのズボン。メガネをかけていて、日焼けはそこそこ。少なくとも、真っ白ではない。袖から見える腕に太さは無く、身長も高くない。170は確実にない。私には分かる。
服装を見た感じ、坊主という点で野球部と連想させた。しかし、腕の細さから見て野球部という感じはしなかった。趣味で坊主なのか、家庭の事情か、野球部か。そして、服装を見た感じ彼女はいないだろう。これは私の偏見だ。もし、彼女がいれば私はその服装を真似よう。
次に、この人物の荷物だ。荷物はリュックサックが一つに二つの白いビニール袋。全てに荷物がパンパン入っている。見た感じ、ビニール袋に入っていたのは衣類だと思う。リュックサックはファスナーで開閉するタイプで、空いていたから一番上のものだけ見えた。それは、黄ばんだ白色のハンドタオルだった。
手荷物から推測されること。
………家出なのか?
しかし、この図書館は学生証がないと入れない仕組みになっている。この図書館のなかにいると言う事は、大学生であることは間違いない。
だとしたら、部活帰りか、洗濯機が壊れたからコインランドリーで洗濯をしに来たか。
まあ、その推測よりも私が気になったことが一つある。
それは、なぜ自分は床に座っているのに荷物は椅子に置いていると言う点だ。
もう訳がわからない。
現実は小説より奇なりとは言うが、ここまでとは。
ま、いいか。
課題しよーっと。
そして、数時間後。
もう一度、その人物を見れば今度はうんこ座りで床に座っていた。
もう、面白くなってきた。
是非ともお友達になって理由を聞きたかった。
時間が過ぎて、図書館が閉まる時間になった。
私も帰ろうと、荷物をまとめて席を立つ。あの人物のいた所に目を向けるが、もう居なかった。帰ったのだろう。荷物もなくなっている。
エレベーターはよく挟まれるから嫌いなので、階段で降りようとした。
この図書館には階段は二つあって、人がよく通る階段と全く通らない階段がある。
全く通らない階段を選び、下へと行く。
その階段の踊り場にその人物は座っていた。
そんなびっくりしたような顔をしないでくれよ。驚いたのはこっちだって。
僕に私は喜多原松原 薬壺ヤッコ @Samidare0820
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