04 幼馴染とわたし
放課後。
ここは現在使われていない旧校舎、そのグラウンドに立つ。
そしてわたしの背中には――
「
困り顔でわたしに尋ねてくる
どうしたらいいか分からずオロオロしている姿も可愛い。
そのまま持って帰りたい。
「瑞希に教えてあげようと思ってね」
「な、何を……?」
「誰が真の勝者かを」
「……?」
そう、これは瑞希を巡っての戦いだ。
絶対にわたしの瑞希は渡さない。
「ねえ……マジでやるの?」
そしてもう一人。
どことなく呆れ顔の
「やるよ」
しかし、わたしは力強く頷く。
この状況をセッティングしてくれたのは、他ならぬ沙智だ。
だから、感謝はしている。
「じゃあ、本気で来てよ
そして、目の前にはサッカー部期待のエース。
なるほど、爽やかイケメン的な顔立ちをしている。
イケメンに全く興味はないけれど、わたしの恋路を邪魔するのなら容赦はしない。
絶対に勝つんだから!
◇◇◇
「……負けた」
数分後、グラウンドにわたしは転がっていた。
お互いの背後にカゴを置き、それをゴールネットに見立て得点を競うミニゲームをしたのだけれど。
わたしはボールを奪おうと必死に足を出すも、上杉くんの華麗なドリブルに翻弄され何度も土に顔を埋めた。
ちなみにわたしが勝手に転んだだけだ。
正直、上杉くんはこれ以上ないくらいに気を遣ってくれていて身体接触は一切なかった。
単純に、全く勝負にならなかった。
「いや、そもそも勝つ要素がどこにあった」
沙智の手厳しい声。
「……いや、わたし運動には自信あったし」
勉強は苦手だが、体育はトップクラスなのがわたしの数少ない自慢だ。
「それは向こうも同じ。しかも男子でサッカー専門」
「……それでも、気合で何とか行けるかなって」
見込みが甘かったのは認めよう。
それでも、わたしの愛の力を持ってすれば不可能を可能に出来ると信じたのだ。
結果は惨敗だったけれど。
「さすがに無謀過ぎ。一体なんの時間だったんだか……」
「まあまあ、沙智もその辺で。佳珠羽も何だか落ち込んでるから」
ブツブツと文句を言い続ける沙智を言い宥めたのは瑞希だった。
優しい声音が、わたしの折れかけた心を包み込む。
「ほら、佳珠羽。いつまでも寝てないの」
「あ……ごめん」
瑞希は膝を着いて、わたしを抱き上げる。
瑞希の背が高いせいか、子供のように簡単に起こされた。
上下ジャージで地面を転がり続けたわたしの体は泥まみれだ。
「ほらほら、泥だらけだよ」
しかし、瑞希はそんなわたしの汚い体を抱いたばかりか、その泥を手で払ってくれていた。
「うわ、瑞希。いいって、汚いよ」
「だから、取ってあげてるんでしょ?」
「いや、そうじゃなくて……」
お、恐れ多い……!
綺麗な瑞希が、わたしのせいで汚れてしまう。
「ほら、ほっぺにまでついてる」
「うえ、うええ……!?」
そう言って、瑞希の白い指がわたしの頬に触れる。
いや、それだけじゃない。
顔も体も全部、近い。
未だかつてないくらいの至近距離。
思わず目を瞬かせていると、その様子に気付いたのか瑞希とばっちりと視線を交わす。
「佳珠羽、顔赤いよ……?」
「それを言うなら、瑞希の手はすっごい熱いけど」
売り言葉に買い言葉というわけではないけれど、動揺がバレないようにわたしも瑞希の異変を口にする。
「ええ、ウソっ。ごめんっ」
あわあわと両手を上げて、わたしの頬から離れる。
余計なこと言っちゃったかな。
「あんたたちさぁ……」
「「うん?」」
わたしと瑞希は同時に声を上げる。
沙智はその反応を見て、何を思ったのかやれやれと肩をすくめた。
「いや……あんたたちは、しばらくそうしてるのがちょうどいいのかもね」
「「……?」」
わたしと瑞希はやはり理解できずに一緒に首を傾げる。
そして、また向き合う。
「ほら戻って、制服に着替えないと」
先に瑞希が立って、わたしに手を差し伸べてくれる。
わたしは、その手をしっかりと掴む。
繊細で優しくて、そして――
「あれだね、瑞希。けっこう手汗かくタイプ?」
なぜかしっとりと湿っていた。
「ち、ちがっ、これは、佳珠羽のせいでっ」
「ん?わたしのせい?」
「もう、佳珠羽なんか知らないっ」
「……んん?」
冷静に振り返ってみる。
瑞希は、去って行く上杉くんには目も暮れずにわたしの元へ駆けつけてくれた。
それを見るに恋愛対象は彼ではなかったのだろう。
結局、瑞希の好きな人は謎のままなのだ。
でも必ず突き止めて、その恋を阻止してみせる。
そして、最後にはわたしを好きになってもらうんだ。
幼馴染に好きな人が出来たらしいが、百合を愛するわたしはその恋を認めない 白藍まこと @oyamoya
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