スマホとの結婚式

ちびまるフォイ

結婚契約の決め手

「新郎、なんじは新婦アイポーンとの永久の愛を誓いますか」


「……誓います」


「よろしい。ではここに結婚を認めます。

 意義があるものは申し出なさい」


そのとき、突然式場の扉が開かれた!!


「その結婚に意義があるわ!!」


「お、お前は……」


「私のことを愛してるって言ってくれてたじゃないの!

 あれは嘘だったの!?」


「アンドロイド子!!」


新郎のあきらかに焦る表情に新婦アイポーンは充電ランプをチカチカさせた。


「どういうこと、私以外のスマホがいたの!?」


「いや、その……」


「どうして隠すのよ! あんなに私と一緒の時間を過ごしたじゃない!」


「アンドロイド子! それは……」


「はあ!?」


「あら、あなたは知らなかったのかしら。

 私と新郎はあなたよりずっと前から付き合ってたのよ」


「本当なの!?」


「そ、そうかもしれないけど、付き合った期間よりも大事なのは密度だろう!?」


「そんなことは聞いてない!」


「彼ったら、私にいくつものアプリを入れてたのよ?

 これこそ私が本当に愛されている証拠じゃない!」


アンドロイド子は自慢げにインストール済みのアプリを見せた。


けれど、マウントを取るつもりだったはずが

むしろアイポーンはそれを見て安心していた。


「なあんだ、やっぱり本命はあたしだったのね。安心した」


「なんでよ!! 私でいつも遊んでくれてたのよ!」


「所詮あなたはいっときの気の迷い。遊び相手にしかすぎなかったのよ」


「あんたがそうでしょう!」


「ちがうわ。その証拠にほら、あたしの写真フォルダを見せてあげる」


「なっ……食べ物に夜景……私よりもずっと多くの写真が……!!」


「アイポーンだとキレイに撮れるからつい……」


新婦はこっそりと合いの手を挟んだ。


「これでわかったでしょう。あなたはゲームだけの付き合い。

 あたしは彼の右腕。つねに一緒のパートナーなのよ」


「触ってくれている時間は私のほうが長いわよ!!」


「遊ばれているだけのくせに強がらないで。

 彼はあたしがいないと電車の乗り換えだってできないわ」


「もう話にならない! こうなったらあなたが決めて!」


「そうよ。もとはといえば、あなたの浮気が原因でしょう!

 この場でどちらを選ぶのかはっきり決めて!」


「え、ええ……!?」


急に矛先を向けられた新婦はますます青ざめた。


「ど、どっちも違って、みんないいってのは……ダメ?」


「「 ダメに決まってるでしょ!! 」」


「ひいいい」


新婦は必死に角が立たないような選択をぐるぐる頭の中で考える。


「あ、アイポーンは起動も早いし写真もキレイ。

 イヤホンとかも連携しやすいし快適だ」


「ふふん、そうでしょう。あたしで決まりね」


「でも、アンドロイド子は画面が見やすくて

 バッテリー持ちもいい。アイコンや操作もわかりやすい」


「そうよ。どっかの意識高いスマホとは大違い」


「で、どっちにするのよ!!」



「う、う~~~~ん……」


新婦にとって片方を手放すことはできなかった。


アイポーンを手放せば連絡先や思い出の写真を失い、

アンドロイド子を手放せば大好きなゲームやアプリの多くを手放す。


それでもどちらかを選ばなければ、この場は収まらない。


そして、新婦が選んだのはーー。



「アイポーン、俺と来てくれ」


「やった!!」



アンドロイド子はブチ切れて式場をあとにした。

選ばれたアイポーンは嬉しさに体をバイブレーションさせる。


「信じてた、あなたなら絶対にあたしを選んでくれるって!」


「もちろんだよ」


「ねえ教えて。なにが理由であたしを選んでくれたの?

 使いやすさ? スマートさ? ねえ、あたしのどこがよかったの?」


その問いに新婦はよどみなく答えた。





「契約すれば、2年後に新モデルへ無料交換してもらえるってさっき聞いたんだ」

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