あたしは魔法少女の友達です!…後編


 あの子と別れて、あたしは無事に中学校へ登校できた。

 言われた通りに仮眠を取ることにする……、言われたから守っていると言うより、本当にしんどかったので、自主的に仮眠を取ることにしたのだ。


 徹夜しただけなのに……こんなに疲れる?

 普段は滅多に引き出されない、喜怒哀楽を無理やりにでも引き出されたから、いつも以上に疲弊しているのかもしれないわね……。

 目を瞑ると、あっという間に意識が沈んでいった――。



 目が覚めたら昼休みだった……え、嘘!?

 あたし、そこまで熟睡してたの!?


 保健室のベッドから起き、先生を探すけど、外出中なのか、いなかった。

 入れ違いになっても困るから……待っていよう。


 あ、でも、水道で顔だけ洗って……、眠気はもうないけど、寝起きなのでまだ視界は曇っている感じだ。

 その曇りを取るだけでも、水道で顔を洗う意味はある。


 保健室から出て、水道まで歩く。仮眠、ってほどの時間ではないけど、しっかり寝たおかげで体が軽い。今なら苦手な運動もできそうだ。

 自己ベスト更新するような記録が出るかもしれない……! まあ、さすがにやらないけど。


 水道で顔を洗う。

 スッキリした目で、窓の外を見ると――――は?


 一瞬だけど、見えたのは…………


 フリル付きの可愛い衣装を身に付けた、あの子だった……。


(……ら、らんちゃん!?)


 隣の家の、妹同然の幼馴染の女の子が、なぜか魔法少女の格好で空を飛んでいた……――あ。


「昨日のあれ……、――嵐ちゃんの家にもいっていたのか、あの白猫ッ!!」


 隣家なのだから、そりゃそうだって話なんだけど……。

 もしかして、あたしが断ったから、嵐ちゃんに声がかかって……?


 まだ幼い(もう小学生だけど)嵐ちゃんは、アニメを見て、憧れから、軽い気持ちで魔法少女の話を受けてしまったのかもしれない……、裏に、どんなカラクリがあるとも知らずに。

 だ、だって……――魔法少女は命を削って戦うんでしょう!?



「それ、キミが見たアニメがちょっとブラックだっただけだよ」

「……アンタ……白猫……」


「また会ったね、雨音あまねさん」


 もう二度と会うことはない、と言っていたけど……だから当然、この出会いは予想していなかったのだろう。

 白猫にとっても。

 避けることはできたはず……、それでも接触してきたということは、意味があるはずだ。


「……嵐ちゃんを、どう言いくるめたの?」


「キミの時と同じだけど。魔法少女にならないかな? って聞いたら、二つ返事で頷いてくれたよ。あの子の場合は、健全な魔法少女のアニメを見て、子供らしく憧れがあったらしくてね、警戒心がまったくなかったから、楽だったよ」


 健全な魔法少女……。

 あたしが徹夜で見たアニメは、やっぱりオーソドックスではなかったようだ。


 そうだよね……、小さい子に人気なはずなのに、ああも人がばたばたと死んでいくわけないもんね……。


 ネットで人気だから、という理由で最初に見るべきではなかったのかもしれない……、あれを正統派として見てしまえば、イメージが真逆になる。


 魔法少女は憧れるばかりか、避けて通るべきものだと、あたしは感じている。


「あの作品は言い過ぎだよ、ワタシたちを悪く見せ過ぎている……あそこまで酷くはない」

「…………あそこまでは? なら、ちょっとは近いってことでもあるの……?」

「おっと、失言だったかな? まあ、こっちもビジネスだからね……、魔法少女だけが得するシステムではないわけだよ」


 それは……、嵐ちゃんの命を削っているわけでは、ないんだよね……?


「それはないよ。ただ……戦ってはいるわけだからね、危険は常に隣にいる……ワタシたちも支援はするけど、それでも戦っていれば怪我もするし命を落とすこともあるよ。そんなことがないように意識はするけど……、でも、どんなことにも事故はつきものだ。社会だってそうじゃないか。ホワイトな組織に属していても、事故や人間関係のトラブルで、命を落とすことだってあるんだから――」


「…………」


「心配なら、嵐ちゃんを手伝ってあげたらどうだい? キミにも、『この世の敵』を、見えるようにしてあげるよ」


「……あたしも、魔法少女になれってこと?」


「それは無理だよ。嵐ちゃんで最後の枠が埋まっちゃったからね――キミの場合は、生身で戦場に出てもらうことになる……、だから嵐ちゃんよりもキミの方が危険だと思うよ?」


 嵐ちゃんの場合、敵の攻撃を防ぐことができる、フリル付きの衣装に見える『鎧』がついているが、魔法少女になれないあたしは、丸腰ではないけど、身に付けた衣装の防御力は、あってもないようなものだ。

 どれだけ着込んでも、さすがに敵の攻撃を防ぐことはできないはず……、昨日の誘いを断ったことで、魔法少女になるよりもさらに過酷な状況へ追い込まれるなんて……ッ!


「無理はしない方がいいよ。嵐ちゃんも、キミの助けがなかったところで、キミを嫌ったりはしないだろうし、」


「関係ないわ、あたしが嫌なのよ。直接的な理由ではないかもしれないけど、あたしが断ったから、嵐ちゃんに誘いがいって、それを受けてしまったって言うのなら……、やっぱり、責任の一端は、あたしにあると思う……」


 嵐ちゃんを手伝う責任が、ある。

 もちろん、あたしにできることは限られている。魔法少女にしかできないことは、嵐ちゃんに任せて――あたしにできることを、率先してやる……。


 嵐ちゃんの負担を、できるだけ減らすことが、あたしの仕事だ。


「……いつでも逃げ出していいからね? ワタシたちも、死者を出したくはないんだから」


「それはあたしも同じよ。嵐ちゃんを奪われたくないもの……、知ってしまった以上は、見て見ぬふりはできないわ……。だから、陰からでもいいから手助けする。それで嵐ちゃんの生存確率が少しでも上がるなら……、やらない理由はないわ」


「……なら、頑張ってみなよ。キミみたいな存在は初めてだ……、でもだからこそ――なにかが見えてくるかもしれないね」


 あたしは魔法少女ではない。

 だけど魔法少女の横にいて、後ろにいる……ただの人間だ。


 丸腰ではないけど、盾なんてあってもないようなものだ……、だから、絶対に、敵の攻撃を受けてはならない。

 深追いはしない。それだけは、肝に銘じておかないと――。



 嵐ちゃんを助ける。

 嵐ちゃんを悲しませることだけは、絶対にしてはいけない。


 あたしが撒いた種を、回収するために――




 ―― おわり? ――

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あたしは魔法少女の友達です! 渡貫とゐち @josho

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