あたしは魔法少女の友達です!
渡貫とゐち
あたしは魔法少女の友達です!…前編
「ねえキミ、魔法少女になってみない?」
窓の外。
背中の翼を羽ばたかせることなく、原理は不明だけど、宙に浮いている白い猫がいた。
まるで上から宙吊りにされているみたいで……、それよりも(それよりも、なんて流せる状況じゃないんだけど、猫が喋っていることよりも先に、その内容が気になった)――魔法少女?
あの、フリルがついた可愛い衣装を着て、おもちゃみたいな魔法のステッキを振って、悪魔(……だっけ?)を倒す、幼女に人気のあれのこと?
「……あたしを誘うなんて、あなたの目は曇っているわね」
「おや? その言い方だと、まるでワタシが狙って『キミを選んで』誘っているみたいじゃないか。無差別だった、とは考えなかった?」
…………、恥ずかしい勘違いだった。
あたしがいま言ったみたいに、わざわざあたしを誘うのは、目が曇っていると言うしかない……、そんな自覚があるほど、あたしには似合わない役目だろう。
……魔法少女なんて。
「卑下する必要はないと思うけどね。だって、見込みがないならそもそも誘うわけがないし」
「無差別なんじゃないの……?」
「無差別だけど、適性の年齢があるからね。キミは、その枠には入っているわけだよ」
魔法『少女』、と言うくらいだから、大人ではダメなのだ。
だから少女であるあたしは、たとえ才能がなくとも、年齢で言えば、枠の中には入っているわけで……、だからこそ大勢の中の一人として選ばれた。
順番に、こうして家を周って誘っているのかもしれない……。
じゃああたしである必要はないわけだ。
あたしよりも、もっと才能を持っている、似合う子がいるはずでしょ。
悪いけど、そっちをあたってくれるかしら。
「ともかく、魔法少女なんてしている場合じゃないもの。期末試験も近いし、忙しいの。魔法少女には、なるつもりはないから…………、ごめんなさいね」
「いや、気にしなくていいよ。これまでのことを考えると、やっぱり中学生は部活にテストで忙しいってデータは取れているからね……、ダメで元々だったわけだからさ――こっちこそ、夜遅くにごめんね、じゃあ――」
また、と言いかけた白猫が、迷った挙句に、「さよならだね」と言った。
「もう二度と会うことはないと思うから……今日の話は夢の中の出来事だった、と思ってくれればいいよ。口外は禁止……なんだけど、まあ、言って信じる人はいないだろうね」
「勉強のし過ぎで疲れてる、と思われるくらいでしょうね。――言わないわよ。あなたが黙っててと言うなら、口外はしない……そこは信用して」
「うん、ありがとう――じゃあ、今日のことは誰にも言わないようにね……あ、でも、小さい子には言ってもいいよ。ワタシの存在はサンタクロースみたいなものだと思ってくれていれば、いざ出会った時に、警戒心を抱かれないから便利なんだよ」
後々、大きくなった子を誘うため、仕込みをあたしにしろって言ってるの?
……気が向いたら、やっておくわ。
宙吊りに見える白猫が遠ざかっていく。
あれは、魔法少女の……なんだったのだろう……、ああいうマスコットは、創作の中だといたとは思うけど、でも結局、どういう役割を担っているのかは覚えていなかった。
あたしはそういうアニメを通ってきたわけではないから、知識がまったくない……。
創作の中と同じってわけでもないと思うから、それに沿って信じ込むのもやめた方がいいとは思うけど……。
窓を閉める。雨が降ってきた。
あたしは、期末試験が近いので、勉強を再開させる、けど…………、集中できなかった。
なので小休憩を挟むことにして……――配信サイトで、人気の魔法少女のアニメを見てみることにした。
一話、二十分程度だ……それくらいなら、サボりにはならないだろう。
「ふぁあ……」
翌日、大あくびをしながらの登校だった。
昨日、世間で人気らしい魔法少女のアニメを一話だけ見るつもりだったのだが、結局、寝る時間を削って、全話を見てしまった(勉強時間を削るわけにはいかなかった)……なので徹夜明けである。
勉強して徹夜してしまった、ということはたまにあるけど、アニメを見て徹夜をしたのは初めてだった……。面白かったから、見たことに後悔はないけど、罪悪感がある……、アニメで徹夜って、しちゃいけないことなんじゃないの?
お母さんには知られたくはない一件だ……。
「おねーちゃんっっ!!」
と、横から突進を受け、あたしは勢いと自重を支えられずに転ぶ。
大げさではなく、一切、受け身も取れずに地面を転がった。
……ただ、痛みよりも眠気が勝ったので、痛くはなかった。
「えぇっ!? おねーちゃん、大丈夫!?!?」
「うん……平気、眠いだけだから……」
「徹夜したの? まーた、勉強ばっかりしてたの?」
ランドセルを背負った女の子が、その小さな手を伸ばしてくる。あたしはそれに甘えて、小さな手を掴み……、彼女の引っ張ってくれる力を借りて、体を起き上がらせる。
隣の家に住んでいる、妹のような存在の幼馴染だ。
昔から、おねーちゃんっ、と呼んで慕ってくれている……、あたしが中学に上がってからは、朝だけが、毎日顔を合わせられるタイミングだ。
委員会や部活などでスケジュールが埋まっていると、小学生のスケジュールとはなかなか噛み合わないのだ。
昔は放課後、よく会っていたけど、今ではすれ違うこともない……。
入れ違っているのかもしれないわね。
「勉強するのはいいけど、無理しちゃダメだよ?」
「あー、うん、気を付けるよ……」
「心、ここにあらずって感じだよね」
ばれている……、でも仕方ないのだ。
眠過ぎてそれどころではなかったから。
「おねーちゃん、学校にいったら、保健室で仮眠を取りなよ。じゃないと途中で倒れちゃうと思うから」
「うん……」
「分かった?」
ぱぁん! と、顔の目の前で両の手の平を叩いて――その音で、はっと目が覚めた。
「うぇっ!?!?」
「おねーちゃん、分かったの?」
「……か、仮眠を取るんだよね? 分かってる分かってる……ちゃんと取るよ、健康は大事だからね!」
「ほんとかなあ……」
疑う視線だった……信用ないな、あたし。
妹同然の幼馴染の小学生は、いつもりよりも少し、大人びて見えた。
……まるで、あたしも体験したことがないような、大きな壁を越えたみたいな……そういう成長が感じられたから。
――なにかあったのかな?
でも、あれば、この子から言ってくると思うし……。
さすがに、彼氏ができたとか、そういう話ではないとは思うけど……。
まだ早い。
まだ、恋に恋をしている年齢でしょ?
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