一夫一婦制度よ、さようなら!いや、こんにちは!俺の婚姻、どうなる?どうする!?

ミーミー

第1話

今をときめくナンバーワン俳優・白川シュウは考えていた。

(ああ、失敗したな)と。

あんなに気をつけていたのにどうして撮られたんだ…。

いや、そんなことより結婚だ。

結婚が間違っていたのだ。

このご時世、不倫は大いに罰せられる。犯罪をおかしたわけでもないのにスポンサーに謝罪して、世の中にも「お騒がせしました」と詫びねばならない。パートナーや家族に「ごめん」と言うだけでよい話を、なぜ芸能人だというだけで関係ない人にまで頭を下げなきゃならないのか。

わかっていた。

わかっていたことだけど。


結婚なんてしなけりゃ良かった。


結婚なんてせず「恋多き男」として生きていけば良かった。

こんなに叩かれるのなら、最初っから「不倫は犯罪です」とでも決めておいてくれよ。そしたら結婚しないからさ。

まぁ、100歩譲って不倫で責められないんだったら結婚してもいいけどね。

そもそも一夫一婦制が面倒なんだよ。

あー!失敗した!


不倫をしたことよりも結婚したことを後悔していた白川シュウのもとに「コンインセイドの神」が現れたのはその日の夜だった。


***


「今週末、B誌に密会記事が出ます」

そう連絡をうけたのが今週はじめ。そのちょっと前に突撃取材を受けていた。

「アイドルの如月まどかさんと密会されてましたよね?先月の3日と11日と16日にお二人が会われていた証拠があるんですけれど」

B誌の記者が勝ち誇ったように如月まどかとの逢瀬日を読み上げる。

「ちがいますよ。3日と11日と16日だけじゃありませんよ。2日も8日も22日も会いましたよ。半分しかチェックできてないじゃないですか。しっかりしてくださいよ」

と言いたくなる気持ちをグッと抑えて

「如月さんは仲の良い友人の1人です」とだけ答えた。

如月まどかは大手プロダクションに所属する、歌もグラビアもいけるアイドルとして今もっとも売り出し中の国民的美少女だ。

そのまどかと俺が密会となれば、世間もびっくりのビッグスクープだろう。

俺は2年前に結婚したばかり。

結婚の際には世の多くの女性たちを「シュウロス」「シュウショック」に陥らせた。

妻のサユリは一応「一般人」ということになっているが、元モデル。

結構な売れっ子モデルだったが、俺と結婚するという流れから、仕事をセーブし始めて「一般人」となり、家庭に入った。名前を聞けば誰もが「ああ、あの綺麗な人ね」と思い出すことができるくらいの有名人だ。

俺の浮気癖は知っているし、うるさく言わない。それが結婚の条件でもあった。

それなのになんだ。

妻が許していることをなぜ週刊誌にすっぱ抜かれて世間に非難されなければいけないのか。


まずはマネージャー。次に事務所の社長との面談だ。

「シュウさん、勘弁してくださいよ〜。あれほど気をつけてくださいと言ってたのに〜」

うんざりする。

事務所としての文書をいつ出すのか、相手方の事務所はどういう対応でくるのか、

もうすぐ映画も公開になるというのに、

とんだ面倒が起こってしまったと、下手したら多額の違約金が発生しちゃうんじゃないかと、

少し弱気になりながら、それでも何か納得いかない気持ちを抱えて、その日はふて寝のような感じで眠りについた。


彫りの深い仙人のような男が俺の枕元に現れたのはその夜だった。

「仙人のような」と表現したが、何者なのかわからない。白く長いヒゲをたずさえてはいるが、

「若い頃はモテたんだろうなぁ」と思わせる濃い顔立ちをしていた。なぜかバスローブ。セクシーである。

「誰?」と、たずねてみた。

すると、そのセクシーな仙人はこう答えた。

「コンインセイドの神じゃ」と。

「コンインセイド?」

「そう!コンインセイドじゃ。コンインのセイドじゃ」

「ああ!コンインって、婚姻?」

「今わかったのか。そうじゃ。婚姻じゃ。その制度の神さまがわし」

なぜ、婚姻制度の神が俺の枕元に現れたのか。

「呼び方は略して、コン神で良い」

「コンシン…」

まさかの呼び方まで提案してくる。この人はいったいなんなのか。

ああ、そうか。

俺が「結婚なんかしなけりゃ良かった!」とか「一夫一婦制が面倒だ」とか思ったから出てきたのか。

口に出していないはずだったが、コンインセイドの神が

「そのとおりじゃ」と応えてくれた。

「お前さん、今の婚姻制度に不満があるんじゃろう。そこで、婚姻制度を司るワシがお前さんの夢を叶えてあげようと思ってな」

ドラマの収録中だったので、もう何が現実で夢なのかわからなくなっていた俺は、コンインセイドの神、略してコン神の出現をすんなりと受け入れることができた。

「どういうのがお望みかのう?」

口を開けてセクシーな仙人を見ていると、いきなりそう問われたので、

「お望み、というのは?」と咄嗟に聞き返した。

「一夫一婦制が不満なのじゃろ。じゃあ、どういうのを求めておるのか聞いておる」

「ああ…そうだなぁ。一夫…多婦制…かな。それだと結婚してて他の女に会おうとも今みたいに叩かれたりしないだろう」

「うーん。一夫多婦制もなかなか大変なんじゃよ。おぬしにできるかのう」

「失礼だな!俺を誰だと思っているんだ。白川シュウだぞ!」

「…まぁ、いい。ちょっと体験させてみるか」

コン神は長くて白いヒゲを束ねてぐるぐると回し始めた。

(なんだこれ…)

シュウの目の前にきて、ぐるぐる回すコン神。回る白いヒゲを見つめていると、シュウはいつのまにか大きな渦のようなものに飲み込まれていった。

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