15

 雨宮詩織が亡くなったのは、(まだ夏の季節も終わらない、本当に……)それからすぐのことだった。


 私にはあなたが必要なんです。


 本当です。

 嘘じゃないです。


 そばにいてくれるだけでいいんです。

 ……本当に、ただそれだけでいいんです。


 ひとりぼっちの帰り道の途中で、真昼は自分の中高時代の陸上に打ち込んでいた日々のことをぼんやりと電車の中で思い出していた。

 ……私はあのころ、どこに向かって、あんなに一生懸命になって走っていたんだろう? (窓に映る自分の冴えない横顔を見ながら)そんなことを真昼はふと思った。


「あの、桃ノ木先輩」

 桃ノ木先輩に手を引かれるようにして歩きながら、真昼が言った。

「うん? なに? 村上さん。もしかして次の行き先のこと?」桃ノ木先輩は言う。

「違います」真昼は言う。

「……私、そんなに笑ってなかったですか?」

 少し間をおいてから、真昼は言った。

「うん。ずっと笑ってなかった」桃ノ木先輩は言う。

「だから、今日は絶対に笑わせてやろうと思ってた」にっこりと(まるでお手本のように)笑って、桃ノ木先輩は言った。


「僕は君を忘れることはできない」

 四葉は言う。

 私は忘れてもらっても構わない。だって、私は、もうあなたのいる世界にはいないのだから。

 にっこりと笑って、詩織の幻が四葉に言った。

 四葉は震える自分の手を(自分で)握る。

 それしか、四葉にできることはなかった。

 ピンポーン。

 玄関のインターフォンが鳴った。

 ……四葉はゆっくりとベットから起き上がって、部屋の中を移動する。

「はい」四葉は言う。

「あ、先輩ですか? 私です。真昼です。あなたの可愛い後輩、村上真昼です。真昼が先輩を助けに参りました!」と言う元気な真昼の声が聞こえてきた。

 そのインターフォンは、真昼の押したインターフォンの音だった。


 あなたを愛しています。世界中の誰よりも。

 あなたのことを。


 十年前


「できた」

 そう言って、小学生の詩織は(これから何度も描き直すことになる)森で暮らす梟の絵画の前でにっこりと笑った。


 君といつまでも


 僕はずっと、ひとりぼっちの孤独な子供のままだった。


 私はきっと、わがままな子供だったんだと思います。


 森で暮らす梟 おわり

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森で暮らす梟 雨世界 @amesekai

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