14
「ずっとね、私、夢を見ていたの」
詩織は言った。
「夢?」
四葉は言う。
「うん。すごく幸せな夢。……四葉くん。あなたの夢。あなたと出会って、楽しい毎日を過ごす、そんな優しい夢。……本当に楽しい夢」詩織は四葉を見てにっこりと笑った。
僕も君の夢を見たんだ。と四葉は心の中でそう言った。だから僕はこうして、詩織に再会することができたんだ。……この広い世界の中で、僕たちはちゃんと再会することができたんだ。
そんなことを四葉は思った。
「いつからなの?」四葉は言った。
「病気のこと?」詩織は言った。
四葉は返事をしなかった。(ただじっと、詩織の目を不安そうな目で見つめていた)
「症状がはっきりと出たのは、二年くらい前……かな?」
「二年前」
四葉は言う。二年前。そのころ、僕はいったいなにをしていただろう? そんなことを四葉は思った。
四葉は詩織に聞きたいことがたくさんあった。
でも、その四葉の疑問は、そのすべてが言葉にならなかった。
四葉はずっと黙っていた。
詩織もずっと黙っていた。
だから、世界は無言になった。
「……四葉くん。お願いがあるの」
少し時間が過ぎたところで、詩織が言った。
「なに?」
四葉は言う。
「あのね、……子供っぽいお願いだって思わないでね。私が、安心して眠れるように、私がこの場所で眠りにつくまでの間、……私の手を握っていてほしいの」
と恥ずかしそうに顔をほんのりと赤く染めながら、四葉に言った。
「いいよ。もちろん」
にっこりと笑って、四葉は言った。
「本当に?」
「うん。本当」
そう言って、四葉は詩織がそっと遠慮がちに真っ白なベットから出した右手を優しく握った。
詩織の手は、とても冷たかった。(まるで雪のようだった)
「ありがとう。四葉くん。あなたに出会えて、私、本当に幸せだった」
にっこりと幸せそうな顔で笑って、そんな悲しいことを詩織は言った。
四葉はずっと黙ったまま、詩織の手を握っていた。
彼女の手を握る。
それしか、四葉にできることはなかった。
真昼が言ってくれた、ずっと大丈夫な手相をしている自分の手で、……詩織の冷たい、全然大丈夫じゃない手を、詩織が眠りにつくまでの間、ずっと握っていることしか、……本当に、ただそれだけしか、できなかった。
……僕は無力だ。
その日の夜。自分の部屋の中で、四葉は泣いた。(それはずっと、詩織の前で我慢していた涙だった)
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