後日談③ 私が一番湊のこと好きだから

「お疲れ様で〜す!」


 今日は奏の撮影日で、撮影現場に来ている。


「奏ちゃん現場入り〜!」


 プロデューサーはいつも通り奏が来たことを声に出して言う……夏休みもあと二日で終わりだっていうのに、ここはいつも通りだな。

 奏は撮影用の服を着ると、早速撮影を開始した────かと思えば、それと同時にプロデューサーが俺に話しかけてきた。


「ねぇ、湊くん?」

「なんですか?」

「その……そろそろ、仲直りしてくれない?」

「え、仲直り……?」


 どういうことだ……?

 俺は特に奏と喧嘩したりはしていないし、なんなら昨日は一緒にお風呂に────最近は同じ家で一週間以上も過ごしているぐらいには仲が良い。


「俺と奏は喧嘩とかして無いですよ?」

「奏ちゃんと湊くんがイチャイチャラブラブしてるのは見てればわかるから!氷花ちゃんのことよ、氷花ちゃん、湊くんが居る日は撮影来ないって言うの、喧嘩してるからなんでしょ?」

「あぁ、別に喧嘩とかってわけじゃ無いんですけど……」


 あのファッションショー以来氷花さんのことを見ないと思ったら、氷花さんが俺のことを避けていたからだったのか。


「今日は湊くんが来ることあえて伝えて無いから、今からプロデューサー室行ってきて、そこで氷花ちゃん待たせてるから」

「……わかりました、あの、奏には────」

「わかってるって!ちゃんと事情説明しとくから、こっちのことは気にしないで早く氷花ちゃんと仲良くしてね〜、こっちも困るんだから」

「はい」


 俺は長い間待たせるわけにはいかないと思い、暑いのを我慢しながら走って氷花さんが居るというプロデューサー室の前まで向かった。


「着いた……」


 息を切らしながらも、ゆっくりとドアノブを捻って部屋の中に入った。


「プロデューサー、私に大事な話って────み、湊さん!?」


 俺が部屋に入ってきたことを知った氷花さんは気まずそうな顔をすると、この部屋から出て行こうとしたが俺はその腕を握って言う。


「待ってください、どうして俺のこと避けるんですか?」

「……湊さんにあそこまで言っていただいたのに、私は一位を獲って湊さんのお友達になるということを達成することができず、湊さんと奏さんは交際を始めたと聞いて、そうなったら私はもう湊さんにとってたとえ友達という存在であろうとしても邪魔でしかないじゃ無いですか」

「邪魔だなんて、そんな……氷花さんは俺に恋愛感情を持ってる訳でも無いんですから、俺としては今でも氷花さんと友達になりたいですよ」

「え……?」


 さっきまで暗い顔をして下を向いていた氷花さんが俺と顔を見合わせた……そこには、今にも泣きそうだったが驚きが勝って涙が流れてはいない氷花さんの顔があった。


「だから、頑張って奏のことを説得します」

「でも、それでは迷惑に────」

「友達のために頑張るのは、悪いことじゃないと思うんです」

「っ!湊さん……」


 氷花さんは今にも溢れ出しそうだった涙を流した。


「私、実は奏さんのことを酷い人だと勘違いして、酷いことを言ってしまったことがあるんです……だから、そのことも含めて謝りたいと思っていたので、良い機会かもしれません」

「そうだったんですか……でも、奏はきっと許してくれます」


 氷花さんが何を言ってしまったのかは知らないが、本当に反省している氷花さんのことを奏が許さないわけがない。


「謝るというなら、俺も一つ謝らないといけないことがあります」

「なんでしょうか?」

「……分不相応ながらにも背中を押すようなことを言っておきながら、俺はファッションショーの間、奏のことだけしか応援できていませんでした」

「それで良いんです、ですが────少し、悔しいですね、いつか私のことを応援していただけるように頑張ります」

「勘弁してください、そんなことがバレたら奏に怒られちゃいますよ」


 俺がそう言うと、氷花さんは今までよりも楽しそうに笑った。

 ……俺たちは、今度こそ友達に────


「湊さんは、一つ勘違いをしているようです」

「……勘違い?」


 氷花さんは少し口角を上げながら言った。


「私は、いつからかは具体的にはわかりませんが、おそらくファッションショーの時から湊さんに恋愛感────すみません、湊さんがここに居るということは今奏さんが撮影をしている時間ですよね……?でしたら、早いところ戻って差し上げた方が────」

「待ってください待ってください!ファッションショーの時から俺に何ですか!?一番良いところで区切らないでくださいよ!」

「ご安心ください、お二人の邪魔をするつもりはありませんから」


 笑顔でそう言ったあと、氷花さんは一瞬俺の後ろに視線を逸らしてから、また俺に視線を戻して言った。


「それとも、そんなに私のお話を聞きたいんですか?奏さんに怒られてしまいますよ?」

「今は奏よりも氷花さんのことですよ、さっきの続きを────」

「へぇ、湊、私よりもそのトップモデルの方優先するんだ〜?」

「か、奏!?」


 後ろを振り返ると、そこには笑顔だが明らかに怒っている奏の姿があった。


「違うんだ奏、今のは誤解で────」


 俺は奏の後ろに居るプロデューサーに目配りした。

 奏には上手く事情を説明するって言ってたのに、どうして奏がここに来るようなことになっているんだ……という目を送ると、プロデューサーは気まずそうに手を合わせてきた。

 ……最悪だ!


「────誤解とかじゃないじゃん今の!どういうこと!?さっき私よりそのトップクラスのことって言ってたよね!?浮気ってこと!?」

「本当に違う!信じてくれ!」

「浮気者はみんなそう言うよね〜!どうせ────」


 俺は、今の気持ちを素直に表現するために奏の唇にキスした。

 ……それからしばらくして、俺は奏から唇を離した。


「俺の話、聞いてくれるか?」

「……うん、でも、どうしてあんなこと言ったの?」

「それは────」


 本来はプロデューサーに説明して欲しかった部分も含めて、俺は全ての事情を説明した────すると……


「じゃあ湊は悪くないね!ごめんね、湊のこと疑っちゃって……帰ったらいっぱいイチャイチャしようね〜!……それはそれとして────」


 俺の話を聞いた奏が氷花さんの方を向いた瞬間、氷花さんは奏に対して深々と頭を下げて言った。


「奏さん、あの時は奏さんを傷つけるようなことを言ってしまいすみませんでした」

「……良いよ、湊と友達になることも含めて、全部許してあげる」

「……良いのですか?」


 奏は驚いた顔をしている氷花さんに元気な笑顔で言う。


「うん!……っていうかそんなこと今はもう全然気にしてなかったから!それに、あれは私と湊の距離をもっと深めてくれることにもなったから!ただ……今湊とは何も無いんだよね?」


 奏はかなり不安なようで、俺にだけではなく氷花さんにも確認を取った。


「はい、何もありませんよ……今は」

「何その意味ありげな今は!ちゃんと何も無いって言ってよ!」

「今は、何もありませんよ」

「もう〜!湊は絶対あげないからね!……もう!今日の撮影終わらせて早く家帰るよ湊!」

「わ、わかった」


 俺は奏に引っ張られる形で撮影現場に向かい、撮影が終わると奏と一緒に俺の家に帰宅して。


「イチャイチャしよ!湊!……私が一番湊のこと好きだから」

「あぁ……知ってる」


 今日は奏の不安も積もっていたのか、いつもよりも抱きしめる力やキスの濃度が濃かったが、最後には安心したのか互いに優しくおやすみを言って一緒に寝た……この夏、色々とあったが、奏とは恋人になって、氷花さんとは友達になれたな。

 ……奏と俺は、恋人としてどのように変化していくんだろうか。

 それは大人になってからなのか、大学生の時なのか、それとも意外と早くに恋人としてのステップを登るのか……どちらにしても、俺が奏を好きなことは変わらないだろう。

 そんなことを考えながら、俺と奏は一緒に夏休み最終日を迎えた。

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超人気モデルの幼馴染の撮影に付き合っていると、何故か俺もモデルにスカウトされた 神月 @mesia15

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