最強武器【冷凍バナナ】の伝説

モノアイの駄戦士

勇者パーティの荷物持ちは語る




俺はかつて勇者パーティで荷物持ちをしていた男だ。

名前?ああ、忘れていた。

俺の名前はトンビだ。

名字は中世らしく平民出身の俺にはない。

実は俺は転生者で、昔は東京で運送会社で働いていたが……ああ、今のは気にするな。

ただの独り善がりだからな。

んで、君が聞きたいのは俺が見た魔王との最終決戦の話だな?

んー、そこから話しても良いんだが、まずは勇者【バーニル・ワイズ】が【冷凍バナナ】を手にする所を軽く話してからの方が良いだろうな。

名前からして巫山戯てると思うが、本当に最強の武器だったんだから仕方がない。

俺も実物を見るまでは製作者のネーミングセンスがクソだったって思ってたからな。

え?俺と勇者パーティとの出会いも聞きたい?

うーん、今日は時間がないから少し省略するから許してくれ。














―――――――――――――――――――














俺は元々は冒険者達に引っ付くどこにでもいる荷物持ちだった。

比較的危険度の低い魔物を追っ払いながら平和な村で、将来は有名な冒険者になるんだ!って夢見てたガキだったよ。

でも村を出ていざ冒険者になろうとすると田舎で鍛えられた体力と筋力以外はてんで駄目で、戦闘員として活躍するのは無理と断言されるくらい俺には戦闘の才能がなかった。

現実に叩きのめされてなんだかんだ無駄な十年を荷物持ちとして冒険者達に引っ付いてたらもう結婚を考えなきゃ駄目な年齢になっちまった。

三十路手前になって、身体の衰えを気にしなきゃならなくなったそん時にアイツら……勇者パーティ達に出会ったんだ。

本当にたまたま、雇用主の冒険者が魔王が送り出した強い魔物に殺されて逃げてた所を助けられたんだ。

んで、まあそこから何回か一緒に冒険してアイツらに雇用されて勇者パーティの荷物持ちになった。

それじゃあどうやって零凍剣【冷凍バナナ】を手に入れただが、寿命が縮むようなトラップやとんでもなく強い魔物から逃げまくってようやく冷凍バナナの在り処まで辿り着いたんだ。

いやぁ、あんときはガチで死ぬかと思った。

キノコを食うとデカくなる洞窟イエティに荷物を掴まれた時は、食われて死ぬのかとチビッちまった。

でまあ、そんな怖い思いをして手に入れた冷凍バナナは………





「本当に冷凍バナナなのかよッ!?」


「よし!これで魔王に勝てるぞ!」


本当にバナナだったんだ。

勇者は呑気に手に入れたことを喜んでいたが、その手に持つのは冷凍されたバナナなんだ。


「これで魔王には勝ったも同然だな」


と、小柄だけど勇者パーティの鉄壁【ユニエル・ユーロン】は勝利を確信してだが、俺には理解できないね。

鑑定チートも何もない俺にとって、バナナにしか見えない冷凍バナナは本当にただのバナナなんだ。

いや、普通なら誰もがそう思うだろう。

だからクールビューティでイケメン美少女の彼女を狂人か?と疑ってしまったよ。

でもな、勇者パーティの癒し手【ニャクト・ラパ】の発言には思わず絶句したよ。


「美味しそうなバナナにゃぁ。これなら魔王を倒せるにゃあ」


猫耳生やした獣人のニャクトは獣人特有の高い身体能力を持ちながら、傷や病を癒やす聖女としての才を与えられた戦う聖女だ。

しかし、それはどうでもいい。

ただ彼女の言葉に注目して欲しい。

「美味しそうなバナナ」と言い、そして「魔王を倒せそう」なのだ。

あのときの衝撃はもうなんて言えば良いのかな……

でも賢者【アマクサ・ロウ】の言葉に安堵した。

彼女らの反応に唯一マトモに反応したのは彼だけなんだ。


「ただのバナナでは…?」


だぜ?

そりゃ安堵もするだろう?

俺と賢者は冷凍バナナの性能に不安を持ちながら来た道を辿って、冷凍バナナが奉納されていた廃墟の遺跡から出た。

まあ、最強の武器と謳われるだけあって冷凍バナナはなんでもできた……本当に。












話はちょっと脱線するが俺達の話にもいくつか逸話として語られているが、いくつかは事実がある。

例えばそうだな……

魔物達に捕えられてマトモな食事も与えられない劣悪な環境の【ゴルド監獄】の脱獄の話は事実だ。




あの時の俺達は餓死寸前までピンチだったのをよく覚えている。


「腹が…」


そう呻く日々が何日続いたんだろうか。

今でもよく分からないが、それでもどうにか脱出するために恐らく先に捕えられた兵士が歯を食いしばって掘っていたのだろう脱出経路を隠しながら毎日、1m……じゃなくて1メルトランくらい皆で協力して掘削した。

だけどそれも腹が空いてはできぬ話。

装備を剥ぎ取られて下着同然になっちまった俺達は、ちょっとハプニングを起こしつつ勇者がアイテム袋に入れていた冷凍バナナを食おうって話になった。

バナナなら釘を打てるくらい硬くても溶ければ食える………そう一縷の望みを託して俺達は冷凍バナナの皮を剥ごうとした。

でも剥げなくて、あーだこーだと試行錯誤している内に絞ると汁が出てきた。

その汁を舐めるとなんと腹が膨れ、体に力が漲るじゃあないか!

それのお陰で俺達はなんとかゴルド監獄から脱獄し、奇襲でゴルド監獄の主【ゴールデンデモン】を倒した。











―――――――――――――――――――










おっと、ちょっと長く喋りすぎたな。

もう時間もないから魔王との戦いを話そう。

魔王カナ・ブンブンはアホみたいな名前からは想像もつかないくらいムフフな美女だった。

いやぁ、銀髪に角を生やしてナイスバディな方でしたよ。


「良くぞここまで来た、勇者達よ。魔王軍四天王を下し、我が切り札たるシャドウナイトも斬り伏せたその実力、認めねばならんな」


「魔王カナ・ブンブン!今日、ここでお前を倒して平和を勝ち取らせてもらう!」


と、勇者が彼女に宣戦布告し、魔王は不敵な笑みを浮かべている所はまさに王道ファンタジーだね。

勇者の手にある冷凍バナナがなければな。


「皆に支援魔法にゃあ」


と聖女がバフを盛ってくれなきゃ、次の瞬間魔王の攻撃を捉える事はできなかっただろうな。

勇者のすぐ後ろにいた賢者に、鋭い土の槍を放っていたんだから。

賢者はなんとか回避して横っ腹に掠り傷を作ったが、復活したての魔王はとんでもなく理不尽だった。

炎の玉を戦闘力皆無の俺に撃ってきたと思えば勇者に雷の魔法で牽制し、本命の土槍を聖女に放つ。

魔法をあんなに派手に、そして自在に操るのは賢者でも無理なのに魔王はやりやがったんだ。


「フハハハ!我に傷を残すことなど出来ぬと思え!」


「ここで負けられない理由があるのだ!バーニル!踏ん張れ!」


そうユニエルが鼓舞するが、盾を構える彼女が苦しそうに魔王の攻撃を防御しているのは今でも悪夢として見る。

無力な俺を非難するようにな。

んで、そんな状態が暫く続いて勇者が叫んだ。


「皆!一撃だ!一撃だけでいい!時間と隙を作ってくれ!」


そう言って何やら集中し始めた。

後から聞いた話だと、冷凍バナナをかつて振るっていた先代勇者から打開の術を教えてくれたらしい。

俺達はそれを信じた。

気をそらすとかなら俺にでもできるからな。

まあできたのはクラッカーを魔王の真後ろから『パアァァン!!』と鳴らすことだけだったけどな。

でも、それが功を奏してくれた。

その手に冷凍バナナを手に、勇者は呪文を唱える。


「大きくなぁれ、大きくなぁれ。そして長くなれ!」


小さい声だったからその言葉より前は分からないが、その後の言葉が冷凍バナナに変化をもたらした。

その時、俺は思わず突っ込んだが俺は悪くねぇ!

なにせ………


「伸びただけじゃねぇか!?」


そう、市販でも見るようなサイズのバナナが細長く伸びただけ。

でも剣と呼ばれるからには冷凍バナナで物を斬れるわけで………


「ぐわあぁぁぁ!?」


「ええぇ……」


「いいぞ!効いている!」


急激に伸びた冷凍バナナの斬撃に当たって苦悶の声を上げる魔王。

勇者は喜んでるが俺はドン引きだ。

こんなダサい決戦なんてあるんだろうか?

ネットでゴロゴロ転がってるような面白イラストみたいな絵面で良いんだろうか?

少なくとも俺は冷凍バナナでかつて殺された魔王を哀れに思った。


「俺の魔力、全てをこの【冷凍バナナ】に込める!」


そう決め台詞を言うが俺は笑っちまったね。

技を食らう魔王はすっげぇ悔しそうな顔だった。


「ええい!またか!また冷凍された果物如きに我は滅ぼされるのかぁ!!」


魔王は寒さに弱いらしく、何度も当てられてことで体が冷えていた。

弱点を補えなかったのは彼女に何か問題があるのか、それとも復活したてで対策できなかったのか。

とにかく、冷たい一閃が魔王の体を切り裂いた。


「俺達の……勝利だッ!!」


勝利を手にした勇者の手には、元通りのサイズになった冷凍バナナがあった。



















―――――――――――――――――――


















さて、ここまでが俺が目撃した魔王との戦いだ。


「おぅい、我は腹が空いたぞぉ」


おっと、連れが腹を空かせてるからここまでだな。

え?凱旋したのかって?

そりゃ一応勇者パーティの一員だからな。

むっさいオッサンだの、役立たずだのと陰口叩かれながら報酬の金を貰って勇者パーティは解散。

未だ嫁さんは貰えんし、未だに和平したってのに戦争は終わってねぇって魔王軍の残党が暴れてるが、まあ勇者とか賢者とかがなんとかするだろ。

それじゃ、俺はこれでお暇しますかね。




















◯◯◯◯◯◯◯




そう言って彼は銀髪の少女と共にどこかにへと去った。

勇者パーティの荷物持ち【トンビ】は、魔物の知識とその洞察力で勇者達に貢献し、勇者達に父親のように慕われていたという話を最前線で戦っていた兵士達はよく語っていたがなるほど、わからん。

もう少し彼を観察する必要がありそうだ。



少なくとも、荷物持ちトンビの人生にはまだ乗り越える谷や山が待ち受けているだろうから。

しかし、魔王は実は生きていているとの噂があるがどうなのだろう?

その事実の有無を確認するため、今では自由に出入りできる魔王城を目指し、私は密林のジャングルに足を運んだのだった。










え?こっちはトリトンの森?

では魔王城は……?










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