なつに、はる。

芥子菜ジパ子

第1話 なつに、はる。

名前さえまだ曖昧なはずなのに この身はすでに君を覚えて

名前さえまだ曖昧なはずなのに どうして痣をつけたりしたの



夏の夜の噎せ返るよな悪酔いが 名づけを求め朝顔に落つ  

朝焼けは人魚の姫の破瓜の色 夜明けの泡と消えぬあやまち



レシートに君が残したアカウント 不安の裏の覚悟が香る

進めるも戻すもできぬ想いなら いっそあなたに委ねてみよう



僕は今日君の秘密をひとつ知る 「アールグレイは僕も好きです」

つきあいで始めただけのツイッター はじめてひとつハートを灯す


 

綺麗だと君が教える望月に 「綺麗」以外の意味を探した

ため息の音も逃さぬ返信に あらぬ期待でまた息をつく



通り雨相合傘で逡巡す 学生服は僕に似ていた

雨上がり波紋広げる蝉の声 青き夏の日青き恋歌



人生の余白にそつと書き込んだ 青いインクでただ「春」とだけ

孤に慣れて孤のまま生きるそう決めて まさか今頃孤に泣くなんて



青空に向けて飛ばした「会いたい」は 割れることないシャボンの球だ

くちびるに人差し指をつと当てる 風鈴の胸よどうか黙って



恋などと呼んでよいのか今更に 呼ばせて欲しい今更だけど

へたくそな口説き文句に安堵する これほどへたな嘘はあるまい



君の名を何度も呼んで確かめた 夏の終わりに始まるものを

舌の上違和感残るその名前 優しく馴染むその日を待たん

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なつに、はる。 芥子菜ジパ子 @karashina285

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