行きたい場所は、こだわりの選曲の中に……

少し俯き加減に佇むひとりの男――
開かれた扉の先に、作者・烏丸千弦氏は彼を見たのだろうか。

真っ直ぐに続く道、寂れたガスステーション、『ROUTE66』のロードサイン、赤い看板を掲げるレストラン。駐車しているのは、ピックアップトラックと黒いハーレー。
ハリウッド映画を彷彿とさせる冒頭の情景描写に、否応なく読者は烏丸ワールドに惹き込まれて行くだろう。

ある問題を抱えた男・ジョーは、馴染みのウエイトレスに悩みを打ち明ける。
その話を、もう一人の客・ハーレーの男は聞くともなしに聞いていた。
男はジョーに助言する。
取り返しのつかないことが起こってから後悔しないためにも自分の気持ちをごまかすな、と。

嗚呼、過去へ、戻れるものなら……!
人は誰しも後悔する。
あの時、もっと自分の気持ちに素直になっていれば、と。
深い悔恨がもたらした「きずあと」は消えることはない。

これから何処へ? と尋ねるジョーに、
何処かな、とだけ答えて男は去って行く。
彼が本当に行きたい場所は……

この物語のBGMは、So Long Suicide で。



※ イメージ曲は、彼が本当に行きたい唯ひとつの場所を暗示しているかのように思えます。
 烏丸千弦氏の短編集<10 Love Songs and Stories ―君を想いてー>の Track 07に収録され、シングルカット版としても公開されている
 <The Crystal Ship ー湖畔の誓いー> https://kakuyomu.jp/works/16816927861539264216
を先にお読みいただくと、より本作への理解が深まり感動が弥増すでしょう。
 彼の「後悔」が、いったいどれほど凄絶なものであったか、そして、ジョーへの助言はとりもなおさず過去の自分へ向けた箴言だったのだということを、どうぞ知って下さい。