第3話 嬉しさとちょっぴりの勇気

「いやー,それにしても富山さんは働きもんやねぇ.」


「そうですか?」


竹ぼうきで雑貨コーナーの掃除をしていたわたしは,寺島さんにそう声を掛けられる.


現在店内では,寺島さん,村井さん,井上さん,清水さんの四人が椅子に座って談笑している.

清水さんはいつもなら物を買ってすぐに帰ってしまうんだけど,今日は珍しいな.


「そうよそうよ.葉島さんに頼まれてもないのにこうやってお店の掃除もして,ほんに立派やわぁ.なぁ村井さん.」


「ほんまほんま.寺島さんの言う通りや.」


「・・・ありがとうございます.」


わたしは下を向いて,にやけた表情を隠しながら,雑貨の棚の下をはたき続ける.


仕事を褒められるなんていつぶりだろう.もっと頑張らないとな.


サッサッサッ・・・


「はぁ・・・それにしても,まさか鈴木さんが足を悪くするとはなぁ。最近店でみんなぁ思うとったけどそういうことやったんか。」


「ほんまなぁ。ついこの間までは元気に田んぼを耕しよったのに。はよぅよくなるとええけどなぁ.」


村井さんは斜め上を向きながら,思いを吐露する.


「そういえば,田島さんも足を悪ぅして一年たたずになくなってしもうたよなぁ。」


「あんたはもう,縁起でもないこというなやほんま。」


「えっ,田島さんって亡くなっとったんか?」


「あれ,清水さん知らなんだん?」


「一週間前くらいに死んだんよ。ちょうど富山さんが来る前日の夜に。」


「あれま,そうだったんか.おら知らんかったわ.」


目を丸くしていた清水さんは,寺島さんの説明を聞き,頭の中を整理するように虚空を見つめた.


「・・・へぇー,そうか。知らなんだなぁ。いつもそこの木の椅子に座って話しとったろう?・・・そうか,死んだんか。」


「まぁなぁ。・・・ほんまいい人やったよ。」


「最後はしんどいしんどい言うて死んだらしいで,かわいそうになぁ.」


「・・・鈴木さんもそうならんとええけどなぁ.」


「ほんまやなぁ・・・.」


「「・・・」」


店内にしんみりとした空気が漂い始める.


・・・まずい,掃除に手が付かない.この空気はわたしには重すぎる.こういうとき葉島さんがいれば,自然と明るい話題に変わっていくんだけど.・・・いや,だめだ.こういう思考はだめだ.葉島さん頼りになっちゃってる.今この店に葉島さんはいない.葉島さんがわたしに任してくれたんだ.わたしが明るい話題を提供して,少しでも雰囲気をよくしないと.ええと,明るい話題明るい話題・・・そうだ!


「そういえば,皆さんはお孫さんいるんですよねぇ.やっぱり,お孫さんは可愛いものですか?」


わたしは,暗い雰囲気を漂わせ始めた四人に向かって出来る限り明るい声で話しかけた.

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異世界人は田舎で暮らしたい. トリニク @tori29daisuki

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