第2話 電話
プルルルルルルルルル・・・
店内にレジの上の黒電話が鳴り響いている.
「あら,誰からやろか?」
──ガチャッ
「はいもしもし,葉島商店です.ああ鈴木さん.・・・うん,・・・うん.・・・おし,わかった.すぐ行くけん待っといて.うんうん,気にせんでええよ.いつものことやし.そのかわり,また帰りには何か買って帰ってもらうけぇな.そのつもりで.・・・フフッ,そんじゃな.また後で.はいはーい.それじゃあ・・・.」
カチャリ.
「鈴木さんからか?」
「うん.鈴木さんから.足がいとうて,診療所まで送ってくれんかって.」
葉島さんはレジの引き出しを開け,ゴソゴソと車のカギを探しながら,寺島さんの質問に答える.
診療所.この町唯一の医療施設だ.ここからだと,歩きで二時間近くかかる.バスを使って通う手もあるが,この辺りは一日に二回しかバスが通らない.だからたびたび,身体の具合が悪い人から診療所に連れて行ってほしいという電話が来るのだ.
葉島さんは運賃無料でそれを請け負う代わりに,帰りに店に連れきて商品を買ってもらっている.
なんというか,優しくもちゃっかりしている人だなぁ葉島さん.
「ああ,そうか.そりゃあ大変やのう.」
「せやせや.よし,車のカギ見つけた.そんじゃちょっと行ってくるわ.・・・富山さん!」
「はい!」
様子をうかがっていたわたしは,急に呼びかけられ,背筋を正す.
「わたし,今から鈴木さん診療所に送ってくるけん,ちょっとの間,店の留守頼むことなるわ.」
「はい!わかりました.」
「遅くとも二時間後には帰れると思うから,それまで店の留守頼むな.」
「はい!」
「そんじゃいってきます.」
「はい.いってらっしゃい.」
そうして,店長はバタバタと店の外へと出ていくのだった.
わたしはそんな店長の背中を見送りながらふと考える.
(・・・そういえば,一人でお店の留守を任されるの,これが初めてだな.・・・それだけ信頼されてるってことか.気を引き締めて頑張らないと!)
ブロロロロロロロロロー
「富山さん.お会計頼める?」
「あっ,はい.清水さん,ただいまー.」
こうして,車の離れていく音を耳にしながら,わたしはお店の作業に戻るのだった.
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