迷走ルールベースモデル
花野井あす
迷走ルールベースモデル
私はひらがな変換器。
ひらがなという音の羅列を翻訳します。
お母さんが言います。
おはようくみちゃん、ごはんできたわよ
お早う久美ちゃん、ご飯できたわよ
私はにこやかに平仮名と漢字の思考をひらがなに変えます。
おはようおかあさん、おなかぺこぺこ!
お姉ちゃんが言います。
さっさとしたくしなさい、ちこくするわよ
さっさと支度しなさい、遅刻するわよ
私は慌ててパンを頬張り、答えます。
おねえちゃんまって、おいていかないで!
私は朝からフル稼働です。
お友達の佐奈ちゃんが学校の前で手を振って言います。
くみちゃんおはよう、しゅくだいやった?
久美ちゃんお早う、宿題やった?
いけない。うっかり忘れていた。
今日は英語の宿題の提出日だったのです。
私は一冊のノートを取り出して、佐奈ちゃんにお願いします。
うっかいあすれていなお、うつさせし!
佐奈ちゃんは困り顔。
私は変換ミスをしたようです。
あせってしまうと私の変換器は、ポンコツになるのです。
私は時間割を見て絶望しました。
一時間目は暗号の時間。数学です。
私は数学が苦手。数学の先生もに苦手。
いつもいつも、当てられないかと緊張してしまうのです。
教壇に立つトンボ先生を前に、私は変換器に電気を送ります。
赤いメガネと大きな鼻がトンボみたいだからトンボ先生なのです。
トンボ先生は読み上げます。
わいいこーるにえっくすじじょうたすさんえーの…
私は変換器を一生懸命稼働させます。
和良い電話に絵尽くす事情太荒んでーの…
先生はまだまだ捲し立てます。
私も負けじと変換器を動かします。
気が付けば、数学のノートは犯行声明文の羅列になっていました。
私の変換器には、数字と記号が用意されていないのです。
早くトンボ先生の言葉を登録しなければなりません。
そのためには、一揃いのデータ・セットが必要です。私たち変換器は、そうやって完璧な変換器になるのです。
私はひらがな変換器。
将来の夢は全言語対応機能を搭載することです。
迷走ルールベースモデル 花野井あす @asu_hana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます