エピローグ 引き篭もりとボッチは新たなダンジョンに出向く
———2ヶ月後。
俺達は、朝からTVの前で陣取っていた。
詳しく言うと姫乃の両親に捕まって座らされているのだが。
俺と姫乃はぎゅっと目を瞑りながらテレビの音だけをひたすらに聴く。
『——今日は日本史上初の世界チャンネル登録者ランキングトップスリーにランクインしました、今世界が注目している『ボッチ剣聖と引き篭もり魔術師』こと浅葱姫乃さんとライヤーさんに来て貰いました!!』
『よ、宜しくお願いしますっ!』
『どもども〜〜社会不適合者なのに金貰ってるライヤーでーす』
これは少し前に俺達———『ボッチ剣聖と引き篭もり魔術師』の特集らしく、ゲストとして招かれた時のものだ。
ただ、その時がTV出演が初めてではなく、日本一のダンジョン配信者になってからと言うもの、週に1度くらいの頻度でいろんな番組に出させて貰っている。
まぁ俺は出るのも見るのも死ぬほど嫌なのだが。
『今日は御二方の事を深掘りしていきたいと思います! では最初に……現在5億4000万人のチャンネル登録者が居ますが、ライヤーさんらどんなお気持ちですか?』
アナウンサーが興奮した様子で俺に話し掛ける。
俺はそんなアナウンサーにいつも通り言っていた。
『俺の名前が広がってどんどん呪い殺される確率が高くなってますね。毎日怖い思いしてます』
『まだ言っているんですかライヤーさん!? 今まで1度も無いではないですか!』
『甘い、考えが甘いぞ姫乃! そんなんだからドジっ子と言われるんだ』
『そ、それとこれとは全く関係ないじゃないですか!』
いや関係あるだろ。
姫乃のドジっ子具合は動きだけじゃないんだから。
俺達が言い争っていると、何故かアナウンサーが目を輝かせる。
『こ、これが御二方の生のやりとりですか……! 私感動してます! 実は私、御二方ファンなんです! 初期から見ているんですよ!』
『だって姫乃。良かったな』
『多分ライヤーさんの事を言っていると思いますよ』
『御二方はダンジョンで出会ったのは周知の事実ですが……ライヤーさんは———』
「———よし、消そう」
「そうですね! 私も賛成です!」
俺達はこの後にやらかしてしまったことを思い出してリモコンに手を伸ばす。
しかし、それは姫乃のお義母様———葵さんに防がれてしまった。
「うふふ……何で消そうとするのかな?」
「べ、別にこの後物凄く恥ずかしくて、まだお母さんにも言えてないから見て欲しくないわけじゃないのですっ!」
「このドジっ子! めっ! それは言っちゃいけないヤツ!それ言ったら葵さんが……」
「うふふ……余計に変えさせるわけにはいかなくなったわ———あっ、逃げないの!」
悪魔の様に楽しそうに笑う葵さん。
その瞬間に俺達は同時に立ち上がり、全力で玄関へと向かう。
その途中で呼び止める葵さんの声が聞こえたが、俺達は無視して玄関の扉を開けて外へと出た。
「はぁはぁ……何とか逃げ切った……」
「そ、そうですね……流石にあんなことが流れると分かっているあの場にはいられません……」
俺達は息も絶え絶えになりながら、次に攻略する予定だったダンジョンへと到着。
一旦呼吸を整えようと、近くの椅子に座った。
「……ふぅ……私達、何も言っていないのに、何故知っているんですかね?」
「……姫乃の家、超お金持ち。この程度の情報は余裕で手に入るんだろ……」
「———あれって姫たんとライヤーさんじゃない?」
「ああ……確かに似てるな……」
「「!?」」
声の方に目を向けると、カップルっぽい男女が俺達を見て話していた。
その瞬間、俺達が急いで出たせいで何の変装もしていないことを思い出す。
「よし、もうダンジョン入っちゃうか」
「そ、そうですね!」
相変わらず計画性の欠片もないが、俺達はダンジョンに入った。
———15分後。
「ライヤーさん、準備はいいですか?」
「おう、いいぞ。姫乃も準備いいか?」
「はい……覚悟はしています」
姫乃が配信用ドローンを起動させて配信が開始する———と同時に、予想通り物凄い速度でチャットが流れ始めた。
《お、始まった》
《さて、色々と聞こうじゃないか!》
《お2人さんや》
《付き合っていると言うのは本当なのですか?》
《俺もそれ聞きたかった》
《俺も》
《私も》
《ワイも》
《それに現在は同棲してるんだって?》
「———いや、まだ姫乃の実家だから! 2人では住んでないから!」
「そ、そうですよ! まだ2人では住んでいません!」
俺達は即座に否定する。
しかし———これが更にコメントを加速させた。
《まだ……?》
《つまり今後は同棲する予定があると?》
《そう言うことか?》
《完全に墓穴掘ってて草》
《テンパり過ぎなww》
《まぁ皆、何となくそんな気はしてたし炎上はしないだろ》
「そんなに分かりやすかったか? 結構隠してた気がしてたんだけど」
《1ヶ月前のS級ダンジョン『悪魔城』の時からだろ?》
《あの時は少しぎこちなかったもんなww》
《まぁ皆珍しく空気読んで何も言わなかったけどなww》
《こうして公表したならもういいだろ》
《これからはダンジョン配信にもてぇてぇの時代が来るぞ!!》
《じゃあ今まで言えなかった分言うわ》
《てぇてぇ》
《てぇてぇ》
《てぇてぇ》
《てぇてぇ》
《てぇてぇ》
《てぇてぇ》
悪魔城って……付き合い始めた1日後じゃん。
え、そんなに前から気付いてたの?
俺はチラッと姫乃を見てみるも、姫乃も顔を赤くして目をグルグル回していたので、恐らく俺と同じでバレていないと思ったのだろう。
そんなことを考えている間にも、チャットは《てぇてぇ》が流れ続ける。
更に———突然姫乃の携帯が鳴り始める。
姫乃はビクッと身体を震わせた後、急いで電話に出た。
「も、もしも———」
『姫乃ちゃん! どうしてライ君と付き合っていることをお母さんに言ってないの! 帰ってきたら根掘り葉掘り聞かせてもらうからね! ライ君も覚悟しておいてよ!』
「あ、うす……」
《親にも言ってなかったのかよww》
《これは間違いなくバズるな》
《あ、そうだ! 2人でチューしろ!》
《ナイスアイデア》
《賛成だ。チューしろ!》
《チューしろ!》
《チューしろ!》
《チューしろ!》
「あんまり調子に乗るなよ引き篭もりニート共! こう言うのは大体彼氏、彼女居ない引き篭もりかニートだと相場は決まってんだよ! 勿論やるわけな———んっ!?」
俺は途中で言葉を止める。
何故なら———
「んっ……」
———姫乃が俺にキスをしたからである。
《やった!》
《姫たんがチューしたぞ!》
《マジでするとは思わなかったけどこれはガチだな》
《思いっきりマウストゥーマウスだもんな》
《はい、これは間違いなく切り抜かれるぞww》
《2人共、新たな伝説を作ったな》
《ワイは応援してる》
《結婚式も配信してくれーー!!》
《いいなそれ》
《これは確定だろ》
「ひ、姫乃……!? お、おまっ」
「い、嫌でしたか……?」
「全然嫌じゃありません。寧ろとても嬉しかったです。配信じゃなければと血涙を流せるほどに」
「本当に血涙流さないでくださいっ!! 後で幾らでもやりますから!」
「お、おいドジっ子! 今日も絶好調か!?」
「あ……〜〜〜っっ!?!?」
姫乃は自分が言ったことを思い出して顔を真っ赤にし、両手で顔を覆う。
その姿に更に沸くコメント欄。
この収集の効かない事態に、俺はただただ叫んだ。
「———これだから働きたくなんてなかったんだよぉおおおおおおおおおお!!」
余談だが、今回もめちゃくちゃバズったのは言うまでもないだろう。
————————————————————————————
これにて完結です。
相変わらず最後までドタバタでしたねw
此処まで読んで下さった読者の皆さん、本当にありがとうございました!!
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