大丈夫だよ
桃口 優/ハッピーエンドを超える作家
一話
空が泣いてる。
舞い落ちてくる雪を見上げながら、私はそんな風に感じていた。
あなたにはこの雪がどんな風に見えているかな? と考えながら、私は足をさらに前に進める。靴はすでに濡れて足先は冷たい。
温かい気持ちになりたくて、あなたとのことを思い出すことにした。
前にあなたが「僕たちはきっと分かり合えるよ。うまくは言えないけど、明日香には心の深い部分に同じものを感じるから」と言ったのを覚えてる?
その言葉は素直に嬉しかったし、私もあなたに会った瞬間、同じように感じたよ。
でも、同じだからこそ相手に『苦しみ』を表現できなかったね。
私たちは、今まで生きてきてきっと人よりたくさん傷ついてきた。
「何も悪いことはしていないし、むしろ真面目に生きているのになんでこんな辛い目に合わなきゃダメなの?」と私は何度も思ったよ。
「どうして僕なの?」ってあなたも何度も感じたよね。私にはそれが痛いほどわかるよ。
でも辛いことって厄介なことに、増えていくごとに慣れちゃうんだよね。傷つく度に、心では泣いているのに「これが普通なのかな」って思うようになるんだよね。
本当は一人でどうしようもできなくて誰かに助けを求めたいのに、一人で耐えてしまう。
「もう大人だから」という言葉が、感情の邪魔をする。
いや、今まで人に頼らず生きてきたからどんな風に頼っていいかわからないという方が正しいかもね。
お互いにすごく愛し合っていて、いつも近くにもいる。他の誰よりも心を許している。それなのに、これまで相手に甘えたり頼ったりせず、「平気だから」ってお互いに優しい嘘をたくさんついてきたよね。
本当に大切な人だから、心配や迷惑をかけたくないと思う。
今回も一人で大丈夫だからって考える。
そんな私たちだからこそ、お揃いの色のマフラーを編んだ。あなたにあげるのではなく、二人でつけたいと思った。
マフラーって同じ編み方を何度も何度も重ねていってやっと形になるんだ。しかも、この二つのマフラーは同じ糸で作った。
複雑ではないけど、糸と糸は何度も重なり合っている。
私たちはこのマフラーのような関係だとあなたに伝えたい。
気持ちを言葉にすれば、考え方の違いでケンカになる時があるかもしれない。二人でどうすることもできず余計に辛くなる時もあるかもしれない。
それは正直怖いよ。
もしあなたに嫌われたら、私は生きていけないから。
お互いにすぐには相手に頼ることはできないと思う。
今までの生き方を変えることは大変なことだから。
でも、マフラーを見たら少しだけでも思い出してほしい。私たちは二人で一つだということを。
どんなことがあっても、私はあなたの元からいなくならないから。
険しい道も二人で歩けば、少しは楽になるから。
あなたの家の前についた。
玄関のチャイムを押すと、あなたの素敵な笑顔が見えた。
胸はすごくドキドキとしている。
きっとうまくは言えないし、話も長くなるかもしれないけど、このマフラーを受け取ってくれる?
大丈夫だよ 桃口 優/ハッピーエンドを超える作家 @momoguti
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