第3話 (最終話)

  


 Vtuberがどうのようにして人気を伸ばしていたか。


 人気ゲームの実況?

 

 トーク力?


 過激な動画?

 

 それらは人気の1つであるが、根本的要因ではないと思う。


 Vtuberは長時間に及ぶライブ配信が主流だ。そんなんだからVtuberを推すことにはかなりの時間が必要になる。


 そこで台頭してきたのが「切り抜き動画」


 切り抜き動画こそ、Vtuberの知名度を上げた要因だと考えている。


 長時間配信の面白い部分をクリッピングして短い動画をアップすることで、Vtuberの面白さを凝縮させる。


 Vtuberが数多く現れたことで、追いきれなくなってしまった視聴者が生み出した推し方の1つである。それが時間の余裕がない現代人にフィットした。


 再生時間が2時間近くもあるライブ配信のアーカイブでは多くても1万人ちょっとしか見られないが、10分ほどの切り抜き動画では100万再生達成されるものなんて少なくはない。


 それが切り抜き動画が視聴される理由だ。さらに、切り抜き動画が見られれば作る側、通称「切り抜き師」にも収益が入る。


 切り抜き動画がバズれば動画元も視聴され、Vtuberチャンネル登録者数が増加し、再生数も増える。両者共に利益をあげる。つまり、Vtuebrと切り抜き師はWin-Winの関係なのだ。


 そんな切り抜き師の多くはVtuberのファンが始めたもの。


 僕もかつて、推しを推すために切り抜き師になった部類だ。色々あって一時休業中だったが、彼女の為に復活するのも悪くはない。


 彼女の最初のライブ配信を再生する。


 初配信で魔王を歌うVtuberなど、まずいない。唯一性はバズりにとって、必須のアイテムだ。


 ライブ配信のダウンロード。カット、テロップ、色調、ノイズ。


 それぞれ調整を行い、作業時間1時間半。


 こうして約10分の動画が完成する。


 最後にサムネイルの作成。これが一番気合の入れる部分だ。


 視聴者が何を基に動画を再生するか。


 一番はサムネイルだ。


 サムネイルが他の動画と比べ如何に突出しているか。目を引くか。引き込まれる文言か。


 僕の場合、これに1時間程度かける。


 普通だったら30分ぐらいで完成するだろう。だが、僕はあえて2つのサムネイルを作成して良かった方を採用する。再生数が悪い場合はもう1つの方にサムネイルを変更する為だ。


 後はタグを設定し、動画のアップロードを開始する。

 

 僕の切り抜き動画チャンネルの登録者数は12万人。今までの切り抜き動画を見てくれている視聴者が、ある程度は再生してくれるはずだ。


「あとは、バズってくれ!」


 死力は尽くした。


 インターネットの中で活動をしていれば分かることだが、バズるというのは結局全て神頼みなのだ。


「―—バズってる……」


 結果、どうやら神様はいたらしい。


 昨日投稿した動画が既に50万再生されている。休止前に投稿していた動画でも、ここまで伸びことはさすがになかった。


 この喜びは上坂——黄泉平坂ミキにも伝わっているようで、緊急の配信枠を作っていた。


『——バズってた! みんな、切り抜き動画みてくれたの!?』


 身体を左右に動かしている。相当嬉しかったのだろう。


<見た!>


<歌うますぎ!>


<ピアノ弾けるのすげえ>


『えへへ、ありがと』

 

『そうだ。いま私、目標があるの。聞いてくれる?』


<もちろん!>


<なんでも聞くぜ!>


<武道館ライブとか!?>


『武道館か……それもいいけど……私の活動を手伝ってくれてる人と決めた事があるんだ』


『いまはまだ、馬鹿みたいな目標だけど、みんなに聞いて欲しい』


『私、チャンネル登録者数100万人を目指す!』


 推しの宣言。


 それは、あの音楽準備室での出来事を彷彿とさせるものだった。





     *




「黄泉平坂ミキって知ってる?」


「…………」


 上坂は長い沈黙の後、首を短く縦に振った。


「そうだったんだ」


「……」


「……」


 2人の間に沈黙が流れる。


 ここまで聞いておいて無責任だが、僕は確実にミスをした。


 それは重罪にも等しい罪、Vtuberのリアルを暴いてしまったのだ。


 Vtuberとは、バーチャルであるからこそ意味のある存在。それを分かっていながらこんなことを聞いてしまったのは大失態だ。たとえ、所謂「中の人」だと気づいたとしても、指摘をするのは良くない。


「……あ、あの、稲葉くんは、Vtuberに詳しいの?」


「一応」


「それじゃあ、私の活動、手伝ってくれないかな?」


「え?」


 僕は酷く混乱した。


 リアルを暴いた相手にそんなこと普通お願いするか?

 

 だが、察するに、上坂はVtuebrに対しての理解も浅いらしい。あの初配信もVtuberをみていれば、もっとクオリティの高いものを作れたはずだ。


「私、ちょっとした事情でVtuebrを始めたんだけど、機材とか、配信とかイマイチ分からなくて、クラスの人にも聞こうと思ったんだけど、Vtuberを見ている人しかいないし、やっている人いないから」


「たぶん、Vtuberやっていることは隠す人の方が多いよ」


「え! そうなの!?」


 Vtuberのメリットの1つにリアルの顔を晒さないというものがある。容姿に関係なく、自分だけの可愛い、カッコイイを作れるのだ。


「と、ともかく、稲葉くんなら、頼れるかなって思ったんだけど……どう?」


「……実は、Vtuberのマネージャー、みたいなのをやっていたことがあるんだ。だから、上坂のサポート、出来ると思う」


「ホント?」


「ああ」


「やった! 私ね、目標があるの! それを一緒に目指して欲しくて手伝ってくれる人を探してたの」


「へえ、その目標って?」


「―—チャンネル登録者100万人」


 無邪気な笑顔をから発せられた言葉に腰を抜かした。


 チャンネル登録者100万人。それは、Vtuberに限らず動画投稿者全体のわずか数%にも満たない、いばらの道だったからだ。







 推しの宣言に盛り上がるコメント欄。


 最初の配信では2人しかいなかった視聴者は、この配信で1万人にもなっている。


——こうなったら、やることは1つ。


 推しが100万人達成する夢を叶えるまで、全身全霊を持って応援する。



 



 それがファンヲタクってヤツだろ。







     *






「へぇ……。上坂さん、Vtuber始めたんだね」


 沙笹間渡さささまどサチコは、現在進行形でバズっている新人Vtuberの切り抜き動画を視聴した。


 業界にいる人間だからこそ、耳には自信がある。普段は隠している透き通った声。すぐに身近にいる人だとすぐに分かった。


「―—って、切り抜いたのアイツじゃん。どゆこと?」


 彼のチャンネルの動画リストをみると、サチコの切り抜き動画を最後に半年の空白期間があった。どういった心変わりか、再び切り抜き動画を作り始めたというわけだ。


「アイツがプロデュースしているとか……は、さすがにないか」


 サチコは彼女のSNSを検索し、ダイレクトメッセージでコラボの誘いを送った。


「とにかく、バズってる子に乗っかれってのは定石よね」




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一目惚れした新人Vtuberが同じクラスの隠れ美女(陰キャ)だと判明したのでチャンネル登録者数100万人を目指すことになった件【読み切り版】 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123

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