第5話 「邸店」「妝」について

 このエッセイは鷲生の中華ファンタジー「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」の「あとがき」です。


 拙作のURLはコチラです→https://kakuyomu.jp/works/16817330658675837815


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 白蘭は西域から隊商を率いて、董の華都に到着し、「宿」に滞在しています。


 中華ファンタジーをソレっぽくするのに、この「宿」を別の漢字で表せないかとちょっと試行錯誤しておりました。


 私は小野不由美さんの『十二国記』のファンなので、ここで「舎館」とかいて「やど」とルビを振りたくなるんですが……。

(『黄昏の岸 暁の天』講談社文庫288頁に氾王が「堯天の舎館やど」に滞在しているとの文言が出てきます)。


 この『十二国記』の世界観以外でこのような漢字を使うことはなさそうです。すると、これは小野不由美さんのオリジナルな表現ということになり、それをパクるのはいかがなものかかなあ……と。


 それで、鷲生も独自に「宿を意味するなんかエエ漢字ないかな~」と調べて見ました。


 すると「邸店」という言葉が見つかったんです。


 Wikipedia「邸店」によりますと

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%82%B8%E5%BA%97 


「邸店(ていてん)とは、唐以後の中国の都市において発達した施設で、大規模な宿泊施設(旅館)に倉庫機能が付属したものを指す」


「商品経済が発達すると、遠方からの商人(行商。客商ともいう)が都市に長期間にわたって滞在して大量の商品を売買する例が増加するようになった。そうした長期滞在客である行商たちのための便宜を図るために、宿泊施設に併設される形で商品を保管するための倉庫が置かれ、時には仲介業務も行った。「邸」「店」には、旅館・倉庫・商店などの意味があったが、商店の場合には「肆」(し/いちぐら)や「舗」などの呼称が用いられる場合が多かったために、「邸」や「店」をもって旅館・倉庫を意味することが多かった(「酒店」・「飯店」という言葉が、中国で「ホテル」の意味で用いられるのは、このことに由来する)。このために、旅館と倉庫が組み合わさった施設を「邸店」と称したのである。」


 拙作「後宮出入りの女商人 四神国の妃と消えた護符」で白蘭が投宿しているのはまさにコレです!

 倉庫つきの宿屋です。

 第十二話あたりから、白蘭が宿に保管していた品物を冬籟に見せるという場面も出てきます。


 だからここで「邸店」と書いて「やど」とルビを振ることも考えたんですが……。

 いくら史実があるとはいえ、現代日本人に「邸店」の字面から「ホテル」を感じ取るのはちょっと無理があるかなあ……と思って断念しました。


 もう一つ断念した理由があります。

 この「邸店」に関しては、有名な学術書があるんです。

 日野開三郎さんの『唐代邸店の研究』がソレです。


 読んでみようと探してみると、京都府立図書館にありました。

 閉架なのでカウンターで申し込んで書庫から取り出してもらいましたが……うーん、これは本格的な学術書です。

 閲覧スペースでパラパラ見て、機会を改めることにしました(借りることはできます)。

 そして、そのまま読まずじまいで来てしまっております。

 この本を読んでもいないのに「邸店」の言葉を使ってはイケナイような気がして、それで今回の拙作には「邸店」の文字を使わないことにしました。


 またいつか機会を見つけて府立図書館から借り出して読んでみたいと思っています。

 目先のファンタジーを仕上げようとすると、どうしても読書が広く浅くなってしまいますが、定評ある学術書も読み通しておきたいです!(ガッツ!)。


 史実の「邸店」がどうだったか分かりませんが、白蘭の宿では一階の表に面したところで食堂を営んでいます。現代のホテルのレストランがそうであるように外部の人も食べに来られるようになってます。


 この食堂については「飯庁」と表記しています。

 これは『十二国記』がそうですし、コトバンクでも一般に使われる言葉のようだからです。https://kotobank.jp/word/%E9%A3%AF%E5%BA%81-2856858


 白蘭はズボンをはいています。篠原悠希さんの『後宮に星は宿る』では「袴褶ズホン」と表現されています。

 現代中国語では何て言うんだろう?と思ってGoogle翻訳(繁体字)で調べたところ、「ズボン」は「褲子」でした。

 鷲生は日本史畑の出身で、平安ファンタジーを書いていたときに古代の服を調べたことがあって、「褶」の字を見るとひだひだのスカートっぽいものを連想してしまうので、ズボンは「褲子」にしております。


 あ、その平安ファンタジーはコチラです↓

「錦濤宮物語 女武人ノ宮仕ヘ或ハ近衛大将ノ大詐術」https://kakuyomu.jp/works/16816927860647624393


 *****


 拙作では「化粧」を「妝」という漢字で表すことにしています。


 この字は『大唐帝国の女性たち』に出てきました。本文では「化粧」なんですけれども、引用されている古代の文章では「妝」の字が登場してそれに「けしょう」とルビがふられているので、それを借用しました(339頁)


「漢字辞典オンライン」によれば「妝」は、部首は「女」で、読みは「ソウ」「ショウ」「よそおう」「よそおい」だとか。「化粧する」という意味も載っています( 

 https://kanji.jitenon.jp/kanjig/3375.html )。


 よく知られている通り、唐代の化粧は花鈿やえくぼなど顔のあちこちに色々描くので、現代の感覚からすると奇妙に見えます。


 そうそう、鷲生は少しでも中国古代文化を体感すべく、奈良の天平時代をテーマにしたイベントに行って来て、そこで「天平ペイント」として花鈿と靨を描いてもらったんですよ!

 落とすのがもったいなかったのでそのまま近鉄電車に乗って京都まで帰ってきたところ、家族に「何か顔についているよ?」と怪訝そうに言われてしまいましたw

 ↓

 このエピソードはこちらです。

「奈良へ古代へ中国へ! 平城宮跡歴史公園のイベントが熱かった!後編」

 https://kakuyomu.jp/works/16817330647534553080/episodes/16817330654972130205


 今回の白蘭もゴテゴテ描かれていたのでしょう。

 冬籟に「似合っていない」と言われてしまいますが、終盤ではばっちり化粧が似合う「イイ女」と言わしめるようになります!


 どうぞ最後までご愛読くださいますよう。

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