第4話 任務完了

我々第四分隊が西監視棟を制圧するのにかかった時間はわずか数分だった。念のため小銃を構えて警戒したもののその必要はなかった。


西監視棟に駐留していた韓国海警は3名。手榴弾にやられて2名は即死。残りの1名も虫の息という凄惨なありさまだった。即死の2名は遺体の損傷がひどくて年齢も性別も不明だが、負傷の1名はまだ20代と思われる若い男だ。可愛そうに。殺すなと言われていたのに。ウミネコは平然と監視棟の周囲を警戒するように見まわしていた。


「いいんですか? 副隊長」


負傷者を調べているメジロにツバメがきいた。


「なにが? 命令どおり無力化しただけだ」


重傷の1名は両目の眼球を失い右腕を肩からもぎとられて気絶していた。止血しても助からないだろう。私が凄惨な遺体を見ても嘔吐せずにいられたのは長く外科病棟に勤務していたからだ。メジロの手際よさを見ているとおそらくメジロの前職は私と同じだろうと思った。


私がこの部隊に配属された理由がようやくわかった。






銃撃戦の音と手榴弾の音が複数の方向から聞こえてきたが、それもすぐに収まった。無線が入ったらしく分隊長が応答した。


「こちらアゲハ。無力化完了。被害はない」


アゲハとは第四分隊のコードネームだ。短い応答が交わされたのち、ウミネコこと分隊長が振り返って言った。


「作戦は完了した。1時間後に駐留部隊と交代する」


「他の部隊に被害はなかったんですか?」


私は思わずウミネコにたずねた。


「我が方に被害は無い」


なんとあっけない作戦だ。上陸から制圧までわずか30分とは。だが負傷した捕虜はどうするのだろう? 駐留部隊と交代? 我々は撤収するのか? 私の疑問を読んだのかメジロが小さくうなずいた。


「捕虜はいない。全員自決した」


自決? どういうことだ? 負傷兵を見つめる私の疑問に答えるようにメジロは負傷兵の腰からK5拳銃を抜くと慣れた手付きで安全装置を解除し、負傷兵の左こめかみに当てた。


タン!という大きな音がコンクリート壁にこだまし、脳漿と血が飛び散った。負傷兵は一瞬ピクリと動いただけで息絶えた。


「負傷者は自決した」


メジロは拳銃を負傷兵の手に握らせ、誰に言うともなく言った。






ツバメが耳元でささやいた。


「これが戦争さ。負傷した捕虜は足手まといになるだけだからな」


韓国軍の反撃はなかった。半島で戦闘が起きているのだ。竹島にかまっているゆとりなどないのだろう。我々は島のヘリポートまで歩いた。


ヘリポートまでは舗装道路があるため難なく行き着くことができた。疲れはまったく感じない。他の分隊はすでに到着していた。アゲハこと我が第四分隊が最後だった。


小隊長がウミネコに駆け寄ってきて二人はグータッチした。お互いを労うように二言三言言葉を交わし、イヌワシこと小隊長がウミネコの肩を叩いて東の空を指さした。


バラバラと小さなノイズが聞こえた。空に目を凝らすといくつかの黒いシミのような点が見えた。黒い点は大きくなりチヌークであることが視認できた。駐留部隊を乗せたヘリがもう来たのだ。どうやら空母を旗艦とする護衛艦隊が我々を迎えに来ていたらしい。


「もうすぐ帰れるぞ」


ツバメが嬉しそうに言った。任務完了から駐留部隊が来るまで1時間ほど。ほんのひと時だった






我々は4機のチヌークに分乗し、ほどなく空母に着艦した。海自隊員が敬礼で迎えてくれた。我々は今終えてきたばかりの任務について何も話さなかった。固く口留めされていたからである。


海自隊員も我々に何も聞かなかったが何をしてきたかはわかっているようだった。明日の朝には竹島の頂上に翩翻と巨大な日の丸が立っているはずである。我が国固有の領土竹島に。







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