第2話 ソフィアとヒラリ
「怪しい幼女がギルドで捕まっただと?」
近衛の一隊を率いる女騎士ソフィア・ローレンの勘は、その幼女に会いに行けと告げていた。
「な、なな、なんでも見たことのないような格好で、空から降ってきたなどという世迷いごとを口にしているそうで……」
同僚と酒の肴にその話をしていたところに、いきなりの上司の登場。
部下の兵士の口調は、ものすごく固くなっていた。
「そうか、行ってくる」
ソフィアはそう言うと馬をギルドへと飛ばした。
「こちらに怪しい幼女がいると聞いた」
喧騒に包まれる夜のギルドにもよく通る声でそう言うと、一瞬にしてギルドが静まり返った。
「私は近衛兵団で隊長を務めるソフィア・ローレンだ。ギルドマスター、その幼女は私が保護する」
食器の音すらも消えたギルドホールに漏れるざわめきは、ソフィアを畏怖してのものばかりだった。
「ソフィアって……あの『千剣のソフィア』じゃないか?」
「元Sランクのお出ましか……」
「俺、アイツに痴漢して殺されかけたことがあるんだよ……」
「それはどう考えてもお前が悪い」
そんな冒険者たちをつまらなそうに一瞥するソフィアに、ホールの奥から声がかかった。
「まぁそうコイツらを虐めないでやってくれ」
「久しぶりだな、ガルドス。そんな気は毛頭ないが……?で、幼女はどうした?」
ガルドスと呼ばれた大男こそ、このギルドのマスターであり、ソフィアと同じSランク保持者でもあった。
「その幼女なんだが……そこにいる」
ガルドスの指さした先には、オッサン冒険者たちと同じテーブルで、食事に勤しむ幼女の姿があった。
静まり返ったギルドホール内で、我関せずと食べ物を口に運んでいるのだ。
その姿を見たソフィアは、幼女の元へと歩いていくと、
「おいソフィア、お前、そんな幼女に痛い目をみさせる――――」
ガルドスの生死を振り切って、土下座したのだった。
「済まなった!!」
この日を境に、元Sランク冒険者を土下座させた只者じゃない幼女として噂されるようになるのだがそれはまた別のお話。
「はぇ?」
ソフィアがなぜ頭を下げたのか知るはずも無い幼女は首を傾げるばかりだった―――。
◆❖◇◇❖◆
「―――――というわけでだな、ヒラリ殿は異世界召喚に巻き込まれたのだ」
「ここは…地球でも日本でも無いってこと?」
「チキュウ?ニホン?なんのことかは分からんが、そういうわけでヒラリ殿、王女殿下よりこれを渡すようにとの仰せがあってだな……」
ソフィアさんが手渡した革袋はずっしりと重たかった。
「これは何ですか……?」
「一人暮らしの平民が、二十年は何もせずとも生きていけるだけの金貨が入っている」
私の生活を心配して、ということなのかな……?
「それと一つ、尋ねたいのだが……ヒラリ殿は何故落下しても無事なのだ?」
「こうやってやったら落下が遅くなったんです」
落ちてきた時のように、身体のどこか奥底にある一本の糸を
すると夜に似つかわしい滅紫の光が不気味に辺りを照らしだし、身体が静かに浮き上がった。
「まさか……その魔力は……ッ!?」
ソフィアさんは驚いたような、そして複雑な表情を浮かべた。
「その力、決して人の前で使わないと約束してくれるか?」
やっぱり、持ってちゃ行けない力だったのだろうか……。
「何故なんですか……?」
「その魔法の属性は闇属性と言ってだな……私たち人族が敵とする魔族たちが使う属性魔法と同じなのだ」
ソフィアさんは懇切丁寧に理由を教えてくれた。
そしてソフィアさんは、「ここへ行くといい」と地図を書いた一枚の紙をくれた。
「ここへ行けば、ヒラリ殿は自分の力と向き合い生きていくことができるようになるはずだ。幸運を祈る」
ソフィアさんは顔が広いのか身分証を見せることも無く王都の外へと向かう馬車に乗り込むことが出来た。
「ヒラリ殿の幸運を祈る!!」
ソフィアさんはそう言って、馬車が走り出すと見えなくなるまで手を振ってくれた―――――。
勇者召喚に巻き込まれた幼女が闇属性特化だった件 ふぃるめる @aterie3
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