エピローグ
自殺志願者だった鈴金智人と橘香が岡引探偵事務所に顔を見せた。
「おー、どうなった? ご両親に話したのか?」
そう尋ねると香が
「覚悟を決めて、彼と結婚して子供産むって言ったんです」
「良く言ったね。それでご両親は?」
「始めはダメだって言ったんですけど……」
「僕らは死のうと考えて鬼怒川温泉に死に場所を探しに行ったんだけど、旅館の事件で僕が死にそうになって、それで香がどんなことがあっても生きて子供を育てようって言うんで、そう決めたんです、と言ったんです」
「それで私も、例え縁を切られても私たちは結婚して子供を育てます」
そう強く言って帰ろうとしたら
「父が『わかった。良いだろう。結婚を認めよう』って言い出して、ただ条件があるって」
と、香さん。
「『橘コンテェルンは継がせない。関連会社で働くこと。仕事はグループ全体の情報誌の編纂部署の課長として三カ月毎に発刊する仕事をやること。それを了解するなら香との結婚も子供を産むことも許そうじゃないか』と父が言ったんです」と続けた。
「そうどすか、良かったなぁ」
「はい、智人のご両親は亡くなっているのでこれから二人だけで結婚式を上げるんです。お世話になりました。子供生まれたら見せにきます」
二人ともうっすらと涙を浮かべて帰って行った。
*
静が只畑彩音が経営する弁当屋へ行くと、彩音オーナーに呼び止められ名刺を貰った。
よく見ると、「オーナー村石彩音」となっていた。
えっと思って彩音を見ると彩音はにこりとして、
「離婚して旧姓に戻ったの」と言う。
「そうでんなぁ、そうの方がよろしおますなぁ。で、旦はんは?」
「会社を首になって、北海道の下請け会社の契約社員になって働いていると課長さんから聞きました」
「自業自得でんな、ほしたら麗香はんも安心して働けますなぁ」
「え~、それで、同級生の彩木さんと結婚するらしいですよ」と彩音が微笑む。
「あら~、今、いてますのんか?」
「え~、 麗香さんちょっと……」
呼ばれて麗香がカウンターまで出てきて静を見つけて
「はい あっ静さん、その節はお世話に……」
静は仕舞まで話を聞かずに「おめでとう」と微笑みかけると、麗香がオーナーが頷くのを見て
「ありがとうございます。なんか、そんなことになっちゃって……恥ずかしいんですけど」
「いえ~、おめでとはんです。よ~おました」
「それと……」と、彩音が声を潜める。
「どないした?」静が彩音に顔を寄せる。
「おめでた」と彩音が言って麗香を指さす。
「え~、麗香はん、重ね重ねおめでとさんです~」
麗香が真っ赤になって「歳なんで恥ずかしいんですけど、出来ちゃって……」
「え~やないですか。しっかりな……」
お弁当を持ち帰ってきた静は皆でお弁当を食べながら、彩音さんのこと、麗香さんのことが自分の事のように嬉しくて、全部話さずにはいられなかった。
久しぶりに歓喜の声に事務所が包まれた。
*
剣田翔が逮捕されたあと、母親の壮子のところに山出さくらから電話が入った。
九州の実家へ帰って子供を産むと言うので帰る前にカフェで会うことにした。
壮子がさくらのお腹を見ると気のせいか少しお腹が出てきた気がする。
「大丈夫なの?」と訊くと
「え~、順調に大きくなってるって言われてます」笑顔で答える。
「いいの、認知とか養育費とか……裁判は?」
「えぇ、止めます。殺人犯になっちゃったから……」
「ごめんなさいね。私も夫とは離婚して府中の実家に戻るの、でも、子供は子供、被害者の家族への謝罪とか色々あるけど、大したことじゃない。あなたはこれからが大変よ。ご両親はお元気なの?」
「え~、子育て手伝ってくれるって言ってます」
「そう、良かった」
壮子はそう言って封筒をテーブルに置いた。
「これは少ないけど、取り敢えず何かに使って……後は、被害者の家族とどういう話になるかによって連絡するわね。……ごめんなさいね」
さくらは封筒を手に取って「すみません。助かります」
優しい顔を壮子に向けた。
前に会った時とは別人のように見える。
「それで、連絡先交換しましょう」壮子がそう言うとさくらが頷く。
「私がお婆ちゃんであることに間違いないんだから、困ったこと出来たら相談してくれる? 嫌かな?」
「いえ、時々写真送っていいですか?」
「勿論よ。そうしてくれたら嬉しいわ」
なんとか笑顔でさくらと別れることが出来た。
――きっと、これから先、私の生甲斐になるのかもね〜……
石榴色(ざくろいろ)の恋模様 きよのしひろ @sino19530509
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