第17話 偽装
そしてまた一週間が過ぎた。
「おー、出たぞー」美紗が自室から叫びながら出てきた。
「なにが出た?」一心が訊くと「ホテルへ行ったの高木じゃない」と、美紗。
「何? 間違いないのか?」
「歩き方が数馬が撮った映像とは別人だと言ってる」美紗は自信満々だ。
「じゃ、誰よ?」
「美紗、そのデータあるか? 丘頭警部に話するわ」
美紗からメディアを貰って浅草署に向かった。
一心は歩きながら次の手を考えていた。
捜査課にいる刑事らに声を掛けていると丘頭警部が応接室を指さす。
「何か掴んだのかしら?」
「おう、美紗のシステムが一条の死亡した日の夜一条幸子とホテルへ行ったのは高木じゃないと判断した」
そう言ってメディアを渡す。
「何! それ本当?」丘頭警部は信じちゃいない感じだ。
「歩く姿が人それぞれ異なるのでそれで判断する仕組みだそうだ」
一心にもそれ以上の説明はできない。
「そう、じゃ一条幸子は嘘言ったってことになるわね」
「そうなる。高木が一条を殺し、アリバイを証明するために別人とホテルに行ったってことだ」
「じゃ、一条幸子の愛人を洗い出すことと、高木のアリバイね……また、街中の監視カメラの確認が必要になるわね」丘頭警部が一心に祈る様に手を合わせて言う。
「ははは、わかったよ。こっちでも居酒屋で幸子と飲食をした後、午後九時以降の高木の足取りを追ってみる。あ~愛人見つけたら歩く姿を十秒程度映像撮ってくれ、美紗に照合させるからよ」
「えぇ、わかった。そうしてくれると助かる」
事務所に戻って一心は高木の足取りを追うよう数馬と一助に指示した。
一心は一条崇智の亡くなる前の足取りを追うことにした。
大学の警備室によって事情を話して一条崇智が飛び降りたとされる五階建ての校舎の屋上へ上がってみた。
非常階段があるから夜間でも二メートルほどの柵を乗り越えれば屋上に上がることはできる。
しかし、五十歳の一条が高木に脅されていたとしても乗り越えるのは容易ではない。
屋上から室内への入口の横に倉庫らしき二十畳ほどの部屋があった。
鍵はかかっていない。開けると段ボールや何かの機材などが置かれ埃っぽい。
しかし、そのドアを入ったすぐ左だけ埃が綺麗に拭き取られているようだ。
最近、何かを置いていたのか?
注意してよく見るとその奥に中身の入っていない布団袋が幾つも置かれている。
そのうちの一つが埃を被っていない。
中を見てみる……ロープにガムテープが捨てられている。
……はたと気が付いた。
もしも、ここに昼間のうちに一条崇智を縛って口にガムテープでも貼っておいて、深夜、高木が一人非常階段を上がってきて、殴って気絶させたうえでロープをほどきガムテープを剥がしてから突き落としたとしたら……。
そう言う前提で改めて布団袋の中を細かく見ると、血痕のような黒いシミもあるし、髪の毛も落ちてる。
きっと、高木の指紋もでるだろう……。
丘頭警部に通報して到着を待つ。
翌日、丘頭警部が手土産を持って事務所に来た。
「おはよ~いる~いっし~ん」元気な声が響き渡る。
「はいよ~、随分上機嫌だな」家族全員で出迎える。……勿論、手土産の匂いに誘われてだ。
「一心の読み通り、高木が屋上の部屋に夕方から一条崇智を閉じ込め、深夜、非常階段をあがって一条を突き落とした。
そう自白した。
動機は自殺した大林康代の仇、それと保険金だそうよ。それで、幸子も逮捕した」
「そしたら愛人は? 調べなくていいのか?」
「いや、一応誰が高木の振りをしたのかもはっきりさせないとね」
そう言って丘頭警部はメディアを差し出した。
「何人いた?」
「六人もいた。五十婆さんが……呆れて言葉でない」
「務所から出るころにはそっちは枯れるだろうぜ」と言って一心は思いっきり笑ってやった。
丘頭警部も静もしずかに、ククク、と笑った。
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