第178話 愛しき弟レオ
お貴族様達に掃除させるのはお母さん的にはアウトらしい。急いで掃除しようとしたけどそこでベランジェール様から待ったがかかった。
「ノエルのお母様、私の部屋は用意しなくて結構よ。ノエルと同じ部屋で寝ることにするわ。お泊まり会よ!」
ベランジェール様はしっぽがあれば振っていそうなくらい目を輝かせてお泊まり会を宣言した。
私がいつ帰ってきても良いようにってお母さんが私の部屋は綺麗にしてくれてるから使えるけど……。
「そうですわね。わたくしもそれで構いませんわよ、ママ」
「私入れて三人で寝るの? 部屋は広いけどベッドそこまで大きくないよ?」
「私はノエル様と寝られるなら寧ろ狭ければ狭いほどいいわ」
アデライト嬢も参加するみたい。エマちゃんとイルドガルドはどうするんだろう。二人に視線を送る。イルドガルドは頷き、エマちゃんは首を傾げた。
「私は平民なので、いと尊き方々と同じベッドで眠る訳にはいきません。なので床で良いですよ? こんな事もあろうかと寝袋を持ってきてます」
「あら? 貴方は弁えてるのね」
アデライト嬢がセンスを広げて口元を隠しながらそう言った。
「はい。なので皆様はノエルちゃんのベッドをお使い下さい。平民の私とノエルちゃんは同じ寝袋で寝ます」
「それはさすがに狭くない?」
「……嫌ですか?」
エマちゃんは伏し目がちに問いかける。狭いからどうなんだろう、とは思ったけど嫌っていうと少し大袈裟だよ。
「別に嫌ってわけじゃないけどさ」
「でしたら――」
エマちゃんの言葉を遮るようにして、リリが1歩前に出てきた。
「仕方がないですわね。こんな季節に一つの寝袋に二人で入ったら暑さで死んでしまいますわよ。わたくしが寝袋内の温度を調整しながらノエルと寝ることにしますわ。それなら安心安全ですわよ」
あそっか。そこまでは考えてなかった。寝袋の中で二人揃って汗だくになる所だったよ。
「リリアーヌ様、余計なお気遣いは要りませんよ? お貴族様を床で寝かせる訳にはいかないです。ベッドを使ってください」
「わかりましたわよ。ベッドでノエルと寝袋に入ります」
「それなら私も入れてくださる? 寝袋と言うのが何かは知りませんがノエル様とぎゅうぎゅうに入る袋なのでしょう? ……フヒ」
「ねぇお泊まり会――」
ワチャワチャし始めてしまった。こうなるとベランジェール様は強く発言ができない。今まで参加してきたお茶会やら社交界では持て囃されて自分が中心に会話が進んでいるだろうから、上手く口を挟めないみたいだね。
何かもうぐちゃぐちゃだ。皆して何を議論してるのかもわからん。これどうやって収集つけようかと悩んでいると、お母さんに手を引かれて少し離れた。
「どしたの?」
「どしたのじゃないわよ。エマちゃん増えちゃってない?」
「エマちゃんは一人だよ」
「……お母さん知らないけどしっかり責任とりなさいよ?」
まぁこの騒動は私が皆を連れて来た事が起因してる訳だし、責任取って収集つけるよ。そう思って私が声を出そうとしたらレオが皆の輪に入っていった。
「(あの。もし僕が泣きながらお姉ちゃんと一緒に寝たいって駄々をこねたら姉はどうすると思いますか? 雪と欲は積もるほど道を忘れるって本で読みましたよ? ゆめゆめお忘れなき様おねがいしますね?)」
レオが小声で何かを話すと、やいのやいのと盛り上がっていた所が一瞬で静かになった。まだ小さい子が見ている事を思い出したみたいだね。
「今日の所は皆でね? 皆でお泊まり会にしよ? ね? お泊まり会。楽しいわよ?」
ベランジェール様が三下の様に皆の顔色をキョロキョロうかがいながら一生懸命お泊まり会の良さを伝えようとしている。
「そうですわね。ベランジェール様が仰るんですから皆でお泊まり会にするのが良いと思いますわ」
リリはそこが落とし所だと思ったみたいだ。エマちゃんは渋々、アデライト嬢は特に異論は無さそうに頷いた。一応結論が出たらしいね。
「平気? じゃあ私ベッドを別の部屋から持ってきて並べるよ。それなら皆仲良く寝れるしね。じゃあ今のうちに準備してくるからお茶でも飲んで待っててよ。お母さんよろしくね」
「あんたッ……はぁ、わかったわよ」
「お母様、お手伝い致します」
「そう? お願いしますね」
イルドガルドがお母さんを率先して手伝ってくれるみたい。イルドガルドがメイド服を着てるから良家のお嬢様って事には気が付いてなさそうだけど黙っておこう。
辺境伯邸とは違い、一階が家族の部屋、二階が空き部屋だ。リビング奥の廊下を通り、二階に上がって近場の部屋に入る。
部屋の空気は少し埃っぽく、机の上にも薄らと埃が積もっていた。そもそも論私がこうやってお客さんを連れて来た時の為に家を大きくした訳だしね。普段は使わないから仕方がないか。
シーツを変えたりする必要はあるけどベッド自体は特に問題なさそうだ。私の部屋に持って行こう。
ベッドの下に手を入れて持ち上げようとした所で声が掛けられた。
「お姉ちゃん」
「ん? レオどしたの? 手伝いに来てくれたの?」
「僕にベッドが持てるわけないじゃん。手伝いじゃなくて応援に来たの」
ベッドを肩に担ぐ様にして持つと、レオが抱き着いてきた。
「おっと。レオもまだまだ甘えん坊だね」
「僕はお姉ちゃんが心配だよ。お姉ちゃんみたいな人はいつか刺されるって本で読んだの。刺されないでね?」
「なんの話? お姉ちゃん刃物刺さるほど柔くないよ?」
レオは私のいろはかるたや文字積み木、絵本なんかが大好きで、気が付けば本の虫になっていた。私が子供向けの本を作った事で、この世界にも少しずつではあるけど子供向けの本は増えている。だけど未だに小難しい本の方が多くて、本好きのレオへのお土産はテキトーに買い漁った本だから、何だか大人びているというかなんというか……。変な影響を受けてるかもしれない。
ベッドを頭の上に乗せるように担ぎ、左手でレオを持って部屋を出た。ベッドを壁にぶつけない様、廊下を慎重に曲がる。窓から飛び降りちゃって玄関から運び込む方が楽だったかもなぁ。
「お姉ちゃん村の外は楽しい?」
「んー? 楽しいよ? でも村も楽しいかな。何処にいるかより誰といるか、何をするかじゃない? レオはまだ村の外には出たこと無いんだっけ」
「うん。ないよ」
この村を出たことない人は結構多い。外の世界を知らないから、外の世界への興味がない。それ故に村の中で完結する。興味もないのに、魔物に襲われるかもしれない外へはそうそういかないよね。
逆に興味がある人は買い出し係とか納税の時について行ったりしてた。さすがにレオみたいな小さい子は連れていかないけどね。
レオは色んな本から世界を見ているし、姉である私が外をほっつき歩いている。村の誰よりも外の世界を少し身近に感じながら生活してるんだろう。
「あとで少し外に行ってみる? サカモトに乗ってさ」
「……サカモト?」
部屋の扉を肘で開けてベッドを中に運び込む。広いだけでほとんど物がない私の部屋。宿泊所って扱いだから仕方がない。
「よいしょっと。サカモトって言ってね? この家より大きいドラゴン連れてきたんだよ! お姉ちゃん凄いでしょ! 後で乗ろうね」
ベッドを置いてあいた手でレオの頭を撫でる。
「うん、お姉ちゃんはある意味凄いね。いやある意味じゃなく凄いのかな? 連れて来れるのも凄いけど、村にいきなり連れてくるのもある意味凄いし、もうよくわからないや。本には書いてないよ。お姉ちゃんみたいな変な人」
レオは落ち着いた子だからあまりはしゃいだりはしない。だけど今回ばかりはキラキラした目で私を見つめている。
本で世界を知り、本で知識を得たレオにとって、本に存在しない私は妙に新鮮に写るのかもしれないな。
「じゃあ大きくなったらレオが私の本を書いてよ! 『僕の自慢の姉』って題名でさ。如何に美しく聡明だったかを書き綴るの。どう?」
「僕嘘は書けないよ?」
「んー? 嘘を書く必要はないよ? ありのままでいいの」
「……そっか。怒られないといいな」
転生少女のスイーツ無双〜スローライフしてたら気が付けば国有数の実力者になっていた!?〜 相馬 @soma-asahi
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