後編
人との出会いが怖い。
みんなわたしを置いて行ってしまうから。
わたしにとって出会いとは、繰り返される悪夢のようなものだ。
永遠に覚めない悪夢は、わたしの心を破壊するに至った。
もうこれ以上、わたしは傷を負いたくない。
しかし、わたしを救うのも、きっと人なんだろうという確信がある。
どうしたら。わたしがこの先救われるにはどうしたら。
――分からない。
気が狂いそうな悪夢の中、今日もわたしは考える。
わたしにとっての幸せとは何かを。
*
ありすはあたしの目をよく見つめる。
しかし、その瞳の中にあたしは映っていなかった。
〝空虚〟
まるであたしの存在は見えないかのように、常に空っぽの瞳であたしをじっと見つめた。
あたしは、それが嫌で嫌で仕方なかった。
だから、彼女にもあたしの存在を認知させたいと思った。
そこで、あたしはありすの真似をすることにした。
最初は気にも留めていなかったありすだが、しばらくして、怒ったような素振りを見せるようになった。
『やめて』
たった一言そう言うと、ありすはあたしと距離を置くようになった。
とは言っても、今いる場所――心霊スポットから離れる様子はなく、ただ単純にあたしと距離を置いただけだ。
それでも、あたしは彼女のそばに近付き、彼女の真似をやめなかった。
ありすの真似をすることにより、少しでもありすの気持ちを共有出来たら良いなと思ったからだ。
やがて、ありすは諦めたように口を開いた。
『いったい何がしたいの?』
あたしは素直な気持ちを彼女に伝えた。
ありすは驚いた表情を浮かべてこう言った。
『わたしは……自分のことを醜いと思っている。キミはわたしのことを醜いと思わないの?』
身体を震わせながら、涙目になりながら、ありすはわたしに訴えた。
あたしはありすを抱き締め、笑いながら言った。
『貴方は醜くなんかないよ』
と。
不老不死。それがどうした。
ありすはただ単純に、人生を全力で生きてきただけ。
ただそれだけ。ただただそれだけのことなのだ。
死ぬことが美しい? 死なないことが醜い?
そんなことはどうでもいい。あたしはシンプルに、ありすという女の子を好きになっただけだ。
あたしはありすの赤い瞳をじっと見つめた。
『――好き』
あたしは、ゆっくりと、ありすと距離を縮める。
空っぽだった、彼女の赤い瞳に、眩い光が宿っていた。
そこにはもう、あたしという存在が、しっかりちゃんと認知されていた。
しばらくして、あたしたちは、少しずつどんどん距離を縮めて行った。
『『……あっ』』
数舜後、気付いた時には、どちらからともなく口づけを交わしていた――。
*
〝死〟と〝生〟
〝生〟と〝死〟
――あの日あの時、わたしは、鈴々と恋人同士になった。
もしかしたら、長い悪夢から覚めることが出来るかもしれない。
しかし、本当にそれで良いのだろうか……。
ずっと考え続けてきた。
わたしが幸せになる方法。
あともう少し、あともう少しで、その答えが出る。
*
ありすに七色の花を渡された。見たこともない美しい花。
花の形を例えると、ブリリアントカットされた、宝石のようだった。
あたしは『これは何?』と言った。
〝不滅花〟
ありすは小さくそれを口にした。
食べると不老不死になれる花。彼女が不老不死となった原因の花。
前にありすは言った。
――不滅花は呪いの花だ、と。
そんな花を今になって、何故あたしに?
いや、そんなことはどうでもいい。
あたしは不老不死になりたい。
だから、ありすに不滅花を渡されたのは、願ってもないことだった。
『もし、もし良かったらの話なんだけど、鈴々にもわたしと同じ呪いを受けて欲しい』
今までにない神妙な面持ちで、ありすはそう言った。あたしはもちろん、二つ返事でそれを快諾した。
『不滅花は苦いよ。一息で食べて』
それに大きく頷くと、あたしはろくに噛みもせず、一息で不滅花を食べた。
彼女が言っていた通り、不滅花はとても苦かった。けど、良薬口に苦しと言うし、そういう物なんだと、あたしは一人小さく頷いた。
『食べた、ね……』
ありすがくぐもった声でそう言った。
『不滅花の効果は、しばらくすれば、すぐに出てくる。これで、キミはもうこの世の理から外れるに至った』
ありすがあたしを抱き締めてくる。
『ごめんね……。鈴々にわたしと同じ道を歩ませてしまった……』
ありすは泣きながら言った。
『気にすることなんて何もないよ。あたしは自分で望んで不老不死になったんだから』
『それでも……』
『ごちゃごちゃ言わない! 死ぬことも生きることも、一人だとこの世は地獄。それが、あたしたちにはもうなくなったんだよ!? これからは色々楽しまなきゃ損々!』
〝ほら、行こう〟
あたしたちは手を繋ぐ。そして、終わりなき明日への第一歩を踏み出した。
*
あたしたちはこれから先、永遠に生き続けるのか。
それとも、死ぬことが出来るのか。
この世の理から外れたあたしたちでも、未来は神にしか分からない。
しかし、ありすは、〝死は生〟と言った。それならば、〝生は死〟とも言えるのかもしれない。
願わくは、二人で共に幸福なる死が訪れんことを――。
*
――こんな都市伝説を知ってる?
どこかの心霊スポットに〝不滅花〟って言う花が咲いているんだって。
その不滅花を食べれば、不老不死になれるんだけど、ただ一つ、重大な問題があってね。
――ここから先、聞きたい?
しょうがないなぁ。
貴方にだけ特別だよ。
いい?
不滅花を食べてしまった者はね――、
その時をきっかけに、同じ仲間を
要は不滅花を食べた者は、仲間同士で共食いを始めてしまうみたい。
もしも、不滅花を食べちゃった人たちが居たら、きっと今頃は、大変なことになっているだろうね。
本当にそんな花があるというのかも疑問だけど。
*
『ねぇ』
『何?』
『ありがとう』
『それはこっちのセリフ』
『一言言っていい?』
『あたしもいい?』
『じゃあ、一緒に』
〝大好きだよ〟
不滅ノ花ヲ貴方ヘ・・・ 木子 すもも @kigosumomo
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