ロボトミーの誘惑
花野井あす
ロボトミーの誘惑
気になって仕方がない。
苛立って仕方がない。
四角い形の、薄桃色の爪から薄っすらと生えた三日月形の白い爪。
僅かにでもその白いものが視界の中に入ると、其れだけで気持ち悪くて仕方がない。
其れをじっと見つめていると、全身から粟立つような痒みを感じるのだ。
何処を掻いても、引っ搔いても心は落ち着かない。
其れは足裏の時もあれば、耳の奥深くであるときもある。
背中の真ん中の時もあれば、股の内側の時もある。
しかし大抵の場合、痒いのは胸の芯であり、脳を縦横無尽に這う神経であり、体中を走る血液の中である。
ああ、気持ち悪い。気分が悪い。
痒いところに手が届かないとはこんなにも腹立たしいとは。
むずむずとして、気がふれそうだ。
だから私は爪を噛む。
気に入らないものは、視界から消してしまえば良いのだ。
すると不思議なことに、爪の白いところは奥へ引っ込んで、いつまでの消えはしない。
それでも何度も、何度も爪を齧る。
ああ、痒い。
全身が痒くて、痒くて仕方がない。
気が付けば爪は半分まですり減っていて、手の皮膚は乾いた血でぱさぱさだ。
僕の指先はすでもう、痒いところを探すのもできなくなっている。
それでも蛆虫の如く湧いて出る白い爪。
ああ、痒い!
ロボトミーの誘惑 花野井あす @asu_hana
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