おじさん
さあ、筋肉の花畑へいざ参る!
「あっ、リシア駄目だよ!」
繋いでいた手を離して走り出そうとすると、ガバッと持ち上げられて阻止された。
ぷーっと頬を膨らます。可愛い攻撃だ。あれ、いつもはしょうがないなって顔をするのに今日は効かない。いつの間にバリアを取得したんだ。
「どーちて?」
「危ないよ。それにリシアは小さいから訓練はまだまだ早すぎる」
「ううん、リシア大丈夫! トレッドとする!」
「え、私ですか?」
急に名指しされたトレッドは困惑しながら自分を指さす。
マドにーにの手からなんとか抜け出した私は、トレッドのズボンを掴み引っ張った。
「え、え?」
「トレッド、リシアはおけいこをしょもーする!」
「ええっ、いやぼく、私にはとてもリフレシア様にお教えするほどの技術はございません」
「むっ、ぎじゅちゅ……」
彼は教える立場にないということだろうか。困ったな。
キョロキョロと周りを見渡す。うーん、あっ! 一番年上っぽい人発見! いざ行かん!
マドにーにに捕まらないよう気をつけつつ走り出す。目的の人物の目の前で止まると、驚いている相手にニコリと微笑んだ。
「このおじさんとする!」
「お、おじ……!?」
ガーンとショックを受けている様子に、しまったと大反省。初対面でおじさん呼びは失礼だよね。でも名前知らないし。お兄さんって年齢でもなさそうだし。
「えーと、リシア。フドルはおじさんではないよ」
へぇ、渋顔おじさんはフドルって言うんだー。
「んと、フドルとする」
「うーん、どうしてフドルがいいの?」
「んとね、一番年上だから!」
「と、としうえ……!?」
あれれ? またフドルがショックを受けている。どうしたのと首を傾げると、言いにくそうにトレッドが口を開いた。
「フドルはまだ25歳です。リフレシア様から見ればおじさんですが、団員の中では若い方です」
なん...だと。25歳? ふざけてる訳ではなくガチで?
衝撃の事実に絶句する。そして段々と青ざめていった。
「ご、ごめんしゃい。フドル、ごめんなしゃい」
フドルのズボンを掴んで謝る。前世で見たテレビを思い出す。確か、30歳になるまでおばさんだなんて呼ばないでっていう番組名。20代はおばさんじゃないって人達の真実と感動のドキュメンタリー番組。
おばさんって言われた時の悲しさや辛さを取り上げていた。
私のせいでフドルに、あの番組に出ていた人達のような辛い思いをさせてしまった。皇族じゃなかったらジャンピング土下座案件だ。
あまりに悲壮感たっぷり謝るものだから、フドルが膝を着き同じ顔をして首を振った。
「そ、そんなに謝らないでください! 逆に悲し......いえ、慣れていますので、平気です!」
「おこってない?」
「もちろんです! 私などが皇女様に怒るなど、とんでもないです!」
フドルの言葉にホッと胸をなでおろす。
後ろからマドにーにがポンポンと私の頭を撫でる。見上げると、優しく微笑んでいた。
「にーに?」
「リシアは優しいね」
マドにーにには負けると思う。
「さっ、誤解も解けたことだし部屋に戻ろうか」
甘いな、にーに。私はただの幼女じゃないよ。今の一連の流れでそのまま真の目的を忘れたりしない。
「おけいこしてから!」
頭上から舌打ちが聞こえた気がした。
今世では溺れるほど愛されたい キぼうのキ @63-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。今世では溺れるほど愛されたいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます