おけいこ
「さっ、冗談はここまでにして。何して遊ぶ?」
冗談ってなに。私は至って真剣です! プンプンしそうになって、でもゴンくんに免じて許してやろうと大人な対応をとることにした。
「うーん、遊びたいこと……」
「リシア、そんなに悩む? なんでもいいんだよ。悩むほど出てこない?」
僕ってそれだけの男? と、悲しそうに私を見るにーにの姿にあわあわと焦る。違うよとパタパタと胸の前で手を振って、再び考える。
うーん、うーん。マドにーにとの遊び……、はっ!
「リシア、マドにーにのお部屋にいきたい!」
「僕の部屋?」
「うん!」
「そういえば、来たこと無かったね。うん、いいよ」
軽くおっけーを頂き、早速マドにーにのお部屋へゴー。部屋に着くまで抱っこしてくれたのですごく楽だった。
マドにーにの部屋は私の部屋より少し大きいくらいで、でも色合いが私の部屋とは正反対だった。
男の子の部屋だなーって感じがする。
部屋に入る時、私の侍女と護衛はディリアを除いて外で待機。マドにーにの部屋なので、にーにの侍従や侍女にご奉仕は受ける。
本当はディリアも外で待機する予定だったが、私が駄々を捏ねた。ごめんなさい。
「あまり変わらないでしょ?」
「ううん! おちつく!」
「ふふ、良かった。……でも、僕の部屋何も無いからなー。あっ、リシアのところと違って僕のとこ庭が広いんだ。庭に行ってみる?」
「おにわ、行く!」
マドにーにと手を繋いで庭に出ると、うん? なんか想像してた庭の雰囲気じゃない。
確かに広い。マドにーにの部屋と同じくらいの広さがありそう。
庭ってこう、お花とかベンチとか噴水とかテーブルセットとか、そんなイメージだったんだけど、ここはなんというか、すごくむさ苦しい。
何故庭で騎士や魔法使いが魔法や剣の訓練をしているのだろうか。結構な数、10人以上はいそう。
「だあれ?」
「ああ、彼らは僕の護衛たちなんだけど、僕の護衛をしていない時間は、わざわざ自分達の駐屯所まで行って訓練しているから、時間の無駄じゃないかなって思って。僕も自主練する時に相手がいた方がいいし、何より見ているだけでも勉強になるからね。そういう事情でここの庭を貸してるんだ」
「ほへえぇ」
マドにーに優しいし勤勉な子だなー。私が10歳になっても、こんなにしっかりした人にはなれないと思う。
ああ、一生グータラ生活を送りたい。
気持ち程度にあるお花をスルーして、じーっと訓練中の護衛達を眺める。穴が空くほどじーっ。
マドにーにが困った顔をして私を呼ぶ。
「どーちたの?」
「いや、僕の護衛がどうかした?」
「ううん、見てるだけ」
「……楽しい?」
楽しいかだって? そんなの、当たり前だ!
今までビシッと団服を着こなした護衛しか見たことがなかった。こんな、上半身シャツ1枚だったり、胸元を広げていたり、何より滴る汗。眼福。
羨ましい! 私も自分の護衛達に庭を貸そうかな。いや、ダメだ。私のところ狭いんだった。
いいなーいいなーとじーっと見つめる。私の視線に気づいた数人が気まずそうに私に礼をしたあと、チラチラとこちらを気にしながら訓練をしている。
「リシアあっちいく」
「えっ!」
繋がっている手を引っ張って、護衛達の所へ行きたいと伝える。なんでと言いたげな様子だが、断る理由がないと思ったのか何も聞かずに向かってくれた。
近付いてきたマドにーにと私に護衛の人達が一斉に礼をする。
「マドリオン様、如何されましたか?」
1人が代表して私達に何用か聞いてきた。ごめんなさい、体が見たかっただけなんです。
とは言えないので、何か言い訳はないかと考える。
「リシアが皆のところに行きたいって言ったから来ただけなんだ」
「そうなんですね。リフレシア様、ご挨拶申し上げます。私はマドリオン様の護衛の一人、トレッドと申します。本日は如何されましたか?」
スラーっとして、中性的な容姿をしているこのトレッドと言う護衛は、とても騎士とは思えないほど荒々しさはなく物腰が柔らかい。だから彼が代表して声を掛けてきたのかもしれない。
どうしたのかと声を掛けられて、懸命に言い訳を絞り出した。
「リシアもね、おけいこする!」
「え゛っ!」
トレッドは顔に似合わない声を出して私を見た。そして直ぐにマドにーにを見る。
私の頭上で何やら話し合いが行われているが、ニコニコと一緒に訓練すれば見放題なんて思っていた私は一切会話を聞いていなかった。
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