第26話 サンランページの再出発
見るからにおびえた様子のアルビンを控えさせ、グレインがエルドラード号に乗っている。その横には、フィンとイティがピッタリくっついていた。
「おいお主! わっちはまだ未熟じゃが、いつの日か立派な長となったらこの恩を返しに来ることを忘れるでないぞ!」
隣のフィンも、手を振っている。
「私のせいで色々迷惑かけてごめんなさい! 特にニオには、本当に……だから、私もいつか恩返しに来ますから!」
「わかったから早くいけ! “お礼”ならたっぷり貰ったからよ!」
グレインとは、もう言葉は交わさない。十分鬱憤をぶつけ合ったし、たぶん俺たちが油断していなければ、未来で何かに負けることはなかった。
結局のところ、グレインとは平行線だ。フィンを交えて一つになりそうだったが、それはそれで面倒になりそうだから一抜けだ。
俺は、この先ずっとシルバーウィンド号にいることにしたのだから。
「旦那! あ、いや船長! 宝物庫の中にこんなものがありましたぜ」
「コイツは見事な羽の付いた三角帽子だな。お前が見つけたのか?」
「いえいえ、あっしらには金目の物しか目に映りませんので、あのエルフたちが見つけてきました」
三角帽子から視線を甲板に向けると、五十人のエルフたちがフィンとイティを見送っていた。
こいつらが、イティ達からのお礼――というより、全員が残りたいと言ったから、置き土産だろうか?
なんにせよ、これでシルバーウィンド号は今まで通り動く。
それと、メダルカを含めて全員に訂正しなくてはならないことがある。
「何度も言っただろ!! この船の船長はニオだ! ニオ・”グランバーグ”だ!」
海賊らしく叫ぶと、当のニオがクククと笑いながら船長室から出てくる。
それを見て、全員が「しかし……」と困った様子だ。
「前のフィクナーさんとの間に子供がいたとは驚きですが、なにもフルーブデゾーロで死んだっていう船長と同じ名前にしなくても……」
「うるせぇ! コイツはアイツ以上に経験積んでるんだよ! それから子供だましはマジで効かねぇし、手でも出そうもんなら”タマ”を潰されるから覚悟しとけよ!!」
へいへい、と呆れた様子の乗組員たちを風魔法で転ばしてやった。
何するんですかと声が上がったが、ニオが小さな声で言ったことをそのまま大声で叫んでやる。
「気合入れてやったまでだ! おらとっとと持ち場につけ! こんな陰気な島から出航だ!」
言うだけ言ってやると、俺は三角帽子をニオへ渡した。まだ小さなそれは、被っても不格好だったが、いつか似合う日まで付き合うのだ。
俺が”リーダー”として新生サンランページ海賊団を率いて、ニオが真っ当に船長をやれるその日まで。
「約束だからね。少なくとも四十までは船を引っ張っていってもらうから」
「お前も約束だからな。その後は俺の好きにやらせてもらう。まだ夢も叶えていないからな」
「その夢に使えるお宝をこれから探しに行こう! ボクは自由に航海できたらそれでいいから、全部あげるよ!」
「忘れねぇからな。後悔するなよ、その約束」
「じゃあ忘れないとも約束する」
互いに約束を口にしてから、ニヒヒと笑っていると、船が動き出す。
「さて、水平線の彼方まで連れて行ってもらおうかな」
シルバーウィンド号は、人間とエルフと幼女という歪な海賊を乗せて大海原を行く。
これは俺の夢に近いのではないか? などと思いながら、小さなニオの指示に従って舵を手に取った。
「サンランページの再出発だ」
――
これにて完結です! 予想以上にたくさんの方が最後まで読んでくださり、感謝の極みです。
さらにこの作品を通して、たくさんの学びを得ることができました。重ね重ね、読者の皆様にお礼申し上げます。
あと、最後の展開が急すぎて申し訳ありません! この後書きたいものが溜まっていますので、そちらに集中します! そちらの主人公が、違う世界、違う時間ですがニオとよく似た主人公になる予定です!
改めまして、ご愛読本当にありがとうございました!
また違う作品でもよろしくお願いします!
『完結保証』最強パーティーを追放された挙句海賊になってしまった件 鬼柳シン @asukaga
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