第21話武田信玄との死闘!

 激しい戦いになるのは予想していた。

 あの武田信玄相手だ、簡単に倒せるわけがない。

 だけど、自分がここまでやれるとは思わなかった――


「……なかなかやるではないか、筑波博」

「はあ、はあ、はあ……」


 僕の回転式連弾銃の銃弾を浴びても――武田信玄の防御は崩せなかった。

 流石にノーダメージとは言わないけど、ほとんど受けていない。

 躱されるか、機神の防御力で受けられていた。


 それでも僕が生き残っているのは、一方的に攻撃しているからだ。

 大刀の攻撃範囲よりも圧倒的に――僕の銃弾のほうが速くて遠くまで攻撃できる。

 それは狭い陣の中では有効的だった。武田信玄が間合いを取らざるを得ないほどだ。


 もしかすると、このまま上手くいけば。

 僕は武田信玄を倒せるのかもしれない。

 そんな思い上がりが心を支配する――


「ふむ。仕方がないな。使うしかあるまい」


 大刀を肩に担ぎ、武田信玄は「筑波よ。貴様は知らんだろう」と言う。


「何のことか明確に言わないのに、知っているかどうかなんて分かるはずないだろう」

「ふん。それは当たり前だな。では改めて言う。貴様は機神の『固有奥義』を知っているか?」


 固有奥義? 初めて聞く単語だ。

 僕は首を横に振った。


「そうだろうな。貴様の電磁砲はあの義元を倒したが、決して固有奥義ではない」

「……何が言いたいんだ?」

「機神は――己の心力によって力を増す。しかしそれだけではない。もう一歩先があるのだ」


 武田信玄は大刀をゆっくり構え直した。

 刃先を下にして脇に構える――脇構えだ。

 明らかにこちらを攻めるスタイルだ。


「ワシの固有奥義を見せるのは、久方ぶりだ。あっさりと死んでくれるなよ」


 僕は右手を構えた。

 どんな攻撃をしようと、威力の上がった僕の回転式連弾銃の連続攻撃には――


『早きこと風の如く――』


 武田信玄が目の前にいた。

 何が何だか分からない――大刀が迫る。


「う、おおおおお、おおおお!?」


 斬られると思った僕は後ろや横ではなく、敢えて――前に出る。

 近ければ斬りにくい――武田信玄は予知していたように僕を殴った。

 頭が取れるかと思うほどの威力で、死ぬほど痛いけど、なんとか生きている。

 しかも僕の攻撃範囲まで吹っ飛ばしてくれた――


「はあ、く、食らえ――」


 僕は思いっきり銃弾を発射した。

 点とか面とか考えずに、武田信玄目がけて撃つ。


『静かなること林の如く』


 けれども、僕の攻撃は当たらなかった。

 何度も何度も撃っても、まるで暖簾に腕押しをするように、効かない。

 はっきり言えば撃っても躱されていた。


「なんだよ……こんなの、反則じゃんか!」


 撃つのをやめて大きく間合いを取った――これは明らかな愚策だった。

 武田信玄のほうが狙っていたのだ。僕との距離が空くのを――

 武田信玄は大刀を肩に担ぐように持ち、僕に届かないはずなのに、攻撃した。


『侵略すること火の如く!』


 無数の火炎弾が僕に直撃する!


「ぎゃあああああ!」


 もしも覚悟を決めずに武田信玄と戦っていたら、僕の機神は壊れてしまっただろう。無惨にも損害が激しいガラクタになっていた。


 覚悟のおかげで僕はまだ戦える――武田信玄に向けて再び銃口を向けて撃つ。


『動かざること山の如く……』


 全ての銃弾が効かなかった……防御力を底上げしていたのだろう。まさに大きな山のようにどっしりと構えていた。


 あはは、もう駄目だ。

 こんなのに敵うわけがない……

 もういいじゃないか、僕は十分戦った。


「急に腑抜けたか。なんとも虚しい結末だ」


 武田信玄がゆっくりと近づいてくる。

 だけど、僕は動けない。

 それどころか、早く楽にしてくれと思う。

 お父さん、お母さん、妹のすみれ。ごめんなさい――


「――何を諦めているのですか!」


 僕を叱咤する声――目線を向けると去ったはずの服部さんが五人の忍びと共に帰ってきた。

 馬鹿な、機神遣いじゃないのに、この場でできることなんてないのに、どうして――


「戦国最強の大名? そんなものがいたら、とっくに天下は統一されています! だからまやかしなんですよ!」


 服部さんの言葉は忍びたちを鼓舞するのに十分だった。戦う意思を持たせるのにも十分だった。別に熱い言葉じゃないのに、ただの可能性を言っているだけなのに。


「立ってください! 筑波殿! あなたは俺たちに武田信玄を倒すと言った! ほんの少しでも希望を語ってくれた! だから――」


 服部さんが最後まで言うのを待たずに、武田信玄は「黙れ、小物が!」と怒鳴った。


「よく喋る忍びだ。貴様から殺してやろう」


『侵略すること火の如く!』


 ああ、駄目だ。

 また火炎弾が放たれる。機神を纏っていない服部さんたちじゃ無理だ。躱すことすら難しい。

 僕が戦わないと。

 銃弾の効かない相手だけど――そんなのいつもだった!


「うおおおおお! くらえ!」


 希望と可能性を込めた数発の銃弾。

 それは武田信玄の装甲に跳ね返される――どころか効果をあげた。


 武田信玄の兜が破壊されたのだ。火炎弾が明後日の方向に向かう中、あの武田信玄が膝をついた。


「ぐぬぬ。やるではないか……」


 さっきの攻撃は効かなかった……もしかして、火炎弾のときは防御力が下がるのか?


「つまり、同時に能力は使えない!」

「そこまで推察されたのは、諏訪家の当主以来だ」


 武田信玄は大刀を構え直した。

 僕は右手を構え直した。勇気がどんどん湧いてくる。力が増してくる!


「服部さん、ありがとうございます」


 僕は服部さんに感謝を伝えた。

 弱っていたところを支えて貰えたからだ。

 服部さんが後ろで強く頷くのが見えた。


「ふん。元気でももらったか? だかな! 貴様はもうおしまいだ! ワシの本気の火炎弾で攻撃してやる!」


 武田信玄から凄まじい力を感じる。

 ハッタリなんかじゃない。この一撃で決めようとしている! 


「だったら、僕だって――限界を超えてみせる」


 両手を合わせて、指を広げて、照準を武田信玄に合わせる。

 覚悟が決まらなかったときは弱かった。

 太一となたねが死んでようやく強さを得た。

 そして今、僕は勇気をもって武田信玄を倒す!


「貴様! その力は! まさしく諏訪の――」


 武田信玄が怒っている。

 構うものか、僕はこれに全てを懸ける!

 電磁砲を超えた――僕の固有奥義!


「ああああああ! 【超電磁砲】!」


 僕から放たれた超電磁砲は音を超え、光に達した。武田信玄の火炎弾を打ち負かしながら、身体の中心めがけて――


「うおおお、おおお! なぁあめる、なぁああ!」


 戦国最強と謳われた武田信玄は流石にしぶとかった。大刀と鎧具足で自身を守っていた。じりじりと後退しているけど、まだ勝つつもりだ。


 それでも、終わりは近い――僕が終わらせるんだ!

 武田信玄を、倒すんだ!


「出力、全開だ! うおおおおお!」


 限界を超えた、もう二度と撃てないであろう威力を、このときだけ込めて――


「この、ワシが、こんな小童に――」


 それが武田信玄の最期の言葉だった。

 僕の超電磁砲は――武田信玄の身体を吹っ飛ばした。

 凄まじい轟音と閃光が本陣を包んで、やがて収束していく。


「つ、筑波殿! やりました! やりましたぞ!」


 服部さんの歓喜の声、そして忍びたちの喚く声。

 それらが遠くに聞こえる。


 いつもなら僕は気絶しているところだったけど。

 覚悟が決まった勇者には許されないことらしい。


「あははは、科学者に憧れていたはずなのに、僕は英雄になってしまったようだ……」


 悲しく呟く僕の心境を目の前の抉れた地面だけが分かっていた。

 武田信玄は死んだ。

 これで諏訪家の因縁は終わったはずだ。


 これで甲斐国は救われる。

 そうだよね、太一、なたね。

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戦國メカニカル 橋本洋一 @hashimotoyoichi

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