第13話 プロローグ

「――だから一世風靡したオカルトという概念自体が、今やインターネットによって滅ぼされようとしているんだ。そう言っても過言じゃないと思うんだよ」

「プッ。それは違いますよ、ロックんさん。もっとネットで調べて下さいよぉ。オカルトは益々盛んに成ってますよぉ。逆に科学で解明できない事が、テラテラ明るみに成って来てますぅ。ヤバいからテレビで放送しなく成っただけで、現実に心霊系動画なんか世界中で後を絶たないじゃないですか」


 あの、山中事件から数日が経っていた。

 今、俺は後日談を話しに来たミロロちゃんと事務所で他愛もない雑談をしている。

 もし、ミロロちゃんがあの時死んでいたら、この雑談も誰か別の人としている世界線がアカシックレコードの中には記録されているかも知れない……という話で盛り上がっていたのだ。

 流石にそれは無いかと思ったが、「アカシックレコードは存在する」というコヨリさんの言葉を一瞬思い出し、俺は息を呑んだ。


 その時、俺が手に持つが「ニャア」と鳴いた。


「何だよお前。びっくりさせんなよ」

「ふあっ! 可愛いー! その仔がコヨリンから聞いてたニャンコロですね」

「ああ、そうか。ミロロちゃんは初めましてだね。モバって言うんだ」

「モバちゃんかー! モバちゃーん! ミロロのタブレットにおいでー」

「ニャアー」


 モバはあっさりミロロちゃんのタブレットに移動した。

 やっぱりコヨリさんの御札を嫌がってたんだ。

 そして、ミロロちゃんがタブレットの中のモバを撫でている時、それは予告もなくやって来た。そう……予告もなく……。


 __ピンポン。


 インターホンがいきなり鳴った。

 来客の予定は聞いて無い。

 いったい誰だ?

 ソコンさんは今、外出中だ。

 まさか招かざる客では……。

 俺は恐る恐るインターホンに出た。


「穴戸録様にお荷物でーす」

「俺に荷物?」


 宅配業者の人が持って来た物は、俺の背丈ほどある箱だった。

 伝票を見ると俺が頼んだ事に成ってるが、全く覚えがない。


「なんですかね? ホラー小説的に考えると、大きさからいって人間の死体ですかねぇ?」

「怖い事を涼しい顔で言わないでくれる」


 俺は嫌な予感が止まらなかった。

 自然と額から汗が滲む。

 ゆっくりと箱を開けると、すぐにその正体が分かった。


「こ、これは……」


 キャットタワーだ。

 送られて来たのは、猫が上下運動などして遊ぶ遊具、既に組み上がったキャットタワーだったのだ。

 俺は慌ててスマホで確認する。

 大事に貯めてあった二万円分のギフト券が全て使われていた。

 俺のギフト券を使って勝手にキャットタワーを購入した奴が居るのだ。

 そんな事する奴は、この世で一匹しか居ない。


「モバ! 何勝手に購入してんだあ!」

「フニァーン」


 これ以上ないぐらいの甘え声を出しやがったが、誰が買うか!

 すぐに返品申請をしようとしたが、モバが猫パンチで邪魔してきて返品ボタンがタップできない。

 お前、今回の事件では、なんも役に立ってないだろ!

 何で俺が二万円のご褒美を買ってあげないといけないんだ!


「ニァーン、ニァーン、ニァーン――」

「モバちゃん、かわいそー。キャットタワーで遊びたいって言ってるぅー」

「いや、けど、スマホの中のネコだよ。キャットタワーで遊べないでしょ?」


 俺がそう言うと、ミロロちゃんは俺のスマホをキャットタワーの一番上の棚に置いた。

 そして自分のタブレットをキャットタワーの二段目の棚に置く。

 するとモバは嬉しそうにスマホとタブレットを往復しだした。


「ほら。こうすればモバちゃんでもキャットタワーで遊べるぅ」


 二万円のスマホ置き場が完成してしまった。

 んな、アホな。

 また要らぬ出費が……。


 果たして俺が金持ちに成って幸せに成る世界線は有るのだろうか。アカシックレコードで確かめたい今日この頃である。



[この事件ファイルは解決した為、過去ログに保存されました]

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電網霊媒師とスマホの中の怪ネコ 押見五六三 @563

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