スキル「作り話」で世界最強······なのか?

デステ

スキル「作り話」

 うぅ······眩しい······。


 ふと、目が覚める。視界いっぱいにどこまでも澄んだ青色と、白く眩い輝きを放つ太陽が見えた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。


 いやに寝覚めが悪く、だるさが残る体をのっそりとした動作で持ち上げる。記憶にはないから定かではないが、まるで夢の中で殺されたみたいな感じだ。


 なんで寝ていたんだか······そうだ、今日は仕事をやる必要がないから村の草むらで日向ぼっこをしてたんだった。


 日差しの位置を見る限り現在は昼頃だろう。まだまだ暇を持て余す時刻だ。

 これからやることもないしどうしようかと、寝ぼけ眼で二、三分ほどボーッとしていると


「ヒカリー! またお話聞かせてよー!」


 という元気いっぱいな声が後ろから耳に入ってきた。村の子供達だ。


 やれやれ、またガキンチョどもが俺の作り話を聞きに来たようだ。


 ちょうど感覚が冴えてきたところだ。俺のスキル「作り話」で作った嘘だとも知らず熱心に話に聞きにきやがって、アホな奴らだぜ。


 こいつらしか友達いねえんだけどな!

 大助かりだけどな! ありがとう愛してる!


 しゃあねえなぁー、と小さく呟き立ち上がる。ちょうどやってきたガキンチョどもに俺の四十過ぎのビール腹を叩かれて、ポンっと気持ちの良い音が鳴った。


「俺の腹は楽器じゃねえんだぞ。労われよ」


「ヒカリー。今日は何のはなしを聞かせてくれるのー?」

「またおはなし聞きたいよー!」

「おねがーい!」


「おーけーおーけー。人気者は辛いぜ。俺のスケジュールはパンパンだってのに。俺の腹みたいにな!」


 しらー······。


 石かお前らは。なんか反応せい。


「よっしゃ。今日は俺が二十歳くらいの頃の話を聞かせてやるよ。あの時が俺の全盛期だった。世界最強の一人と言われててな······」


 俺は子供たちの笑顔が好きだった。どこに行っても馬鹿にされるだけの俺のスキル「作り話」だけど、こうやって子供達に夢を与えて、笑顔を量産できるのなら嬉しいもんだ。


 この世の中はスキルによって大体の人々の人生が決まる。

 戦いにまつわるスキルを持つ人は戦士や騎士に、魔法にまつわるスキルを持つ人々は研究所や魔法師団に、といった感じに。


 死んだその日を何度も繰り返すっていう馬鹿みたいなスキルだってあるらしいぜ?

 笑っちゃうよなー。まあ、俺は現状で満足してるからそんなことはどうだっていいんだけどな。

 

 全員で草むらに座り俺の武勇伝(笑)を子供達に話すこと一時間。楽しく話している俺らの鼓膜は、魔獣が出現したことを知らせる鐘の音で激しく揺れた。


「魔獣が出たぞ!! 戦士は前線へ向かえ! それ以外のみんなは避難所へ向かえ!」


「ヒカリ······。大丈夫だよね?」

「みんながまもってくれるよね?」


「ああ、もちろんだ。それにいざとなったら世界最強の俺がいるんだしな! 安心しろ! それより早く避難所へ行くぞ」


 俺は子供達を元気づけるように笑顔で言い放った。それを見て子供達の顔に笑顔が戻る。

 

 そうだ。その顔が見たかったんだよ。


「どうしてヒカリは戦わないの?」

「うっせ。体力落ちたんだからしょうがねえだろ」


 俺たちは避難所へ急ぎ向かい、他愛もない話を子供たちと繰り広げながら魔獣が討伐されるのを待った。

 だが、待てども待てども討伐終了の鐘の音は聞こえてこない。流石におかしいと思い始めたその時。


「グルルルルル······」


 今まで聞いたこともないような重低音の唸り声が避難所であるシェルターの壁越しに伝わってきた。まさかと思い、避難所の扉を少し開けて外を覗き込んでみると。


 全長が五メートルほどもある巨大な虎の化け物がいた。


 おぞましい悪寒が身体中を駆け巡り、ダラダラと滝のような冷や汗が流れ出てくる。眼下のはるか遠くに、あたりに散乱している人の死体と、大量に流れ出る血が見えた。


 あれ、俺は今何を見てるんだ? 化け物がいて、遠くでは血が······何がどうなって······


「ヒカリ······? どうしたの?」


 ハッと一気に目が覚めた。子供達の中でも一番幼い、六歳くらいの女の子だった。


「いや、何でもない······」


「そう? ならいいや。そうだ! 暇だからまたお話聞かせてよ! もうちょっとで大丈夫になるでしょ?」


「それは······」


 無邪気に笑う子供の笑顔が心に刺さる。あの化け物はじきにここに辿り着き、俺を、みんなを、子供達を殺すだろう。


 ここで俺がいかなきゃいけないんだ。勝てる勝てないじゃない、俺がいかなきゃ誰が子供達を守れるって言うんだ。


「ちょっと苦戦してるようだから俺が行ってぱーっと終わらせてくるわ。大人しく待ってろよ」


「うん! わかった! 戻ってきたら結婚しようね!」


「ものすっごいフラグ立ててくんのやめてくれよ。まあ、お前が大人になったら考えてやらんでもないぞ」


「さっきの嘘だよ! ヒカリはもう四十さいだよ? なにいってるのよー」


 このガキ! ただじゃおかねえからな!


 ふーっと一息ついてシェルターの外に出る。やはりそこには、血に塗れて悠然と近づいてくる、見てるだけで生気が失せてくるような化け物がいた。


 どうしようもないくらい怖いし、歯とか脚とかもろもろ全部ガタガタいってるけど、だけど立ち向かわなくちゃいけない。

 

 そこら辺にあったクワを構え、決死の覚悟を決める。


「うおおおおおぉ!······アフンッ」


 あっけなく吹っ飛ばされた。超巨大な猫パンチ一発で宙を舞い、背中から地面へ叩きつけられた。

 信じられないほどの痛みが全身を刺す。あまりの衝撃に息も忘れてもがき苦しんだ。しかし、やっとのことで呼吸を重ね、子鹿のようにプルプル震える膝を支えて立ち上がる。


「ここで······ここで俺が頑張らなきゃ······何もなんねえんだよ! 俺のクソみてえなスキルでテメェを······けちょんけちょんにしねえと子供達が、笑ってすごせねぇんだ! てめぇをひねりつぶす為に死んでやるぞクソがあ!!」


「俺は······世界最強なんだああああああ!!」


『条件を満たしました。スキル「作り話」を上位スキル「創り話」へと進化させます』


「うおおおおおお!! くらえ! スキル発動! 創り話!!!」


 瞬間、俺の目の前に現れる謎のウィンドウ。興奮しきった俺の脳は一瞬にしてその内容を読み解いた。


『いえw本気にしないでくださいw作り話ですw』


「ふっっっっざけんなあああ!!!」


 魔獣の高速なパンチにより俺は吹っ飛び、生命を使い果たしてこときれた。


 結果、あいつらを守りきれなかったな······

















『スキル「まきもどし」発動。時間を巻き戻します』


 




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