ビー玉
今度はゆっくりゆっくりとした足取りで進む。一歩一歩をとても大事に、時間を掛けているような。後ろ手を組んだり、クルクル回ったり。陽気なリボンの歌に合わせて私も自然に歌っている。リボンと出会ってからどのくらい経ったのだろうか。感覚的には数時間は経っている気がする。なんだか元の世界なんてどうでも良い気がしていた。帰ったってろくなことなんて無いし。居心地が悪い。帰ることなんて考えたく無いなぁ。
「ねぇリボン?どこまで行こうか」
「そうね!どこまで行こうかしら?」
「そうだ!あの山の向こうなんてどう?リボンは行ったことある?どんな風になってるかなぁ。なんかリボンとならどこへだって行ける気がするな!」
私は指を山の方へ指しながらリボンの数歩先へ出た。
「めぐみならもうきっと大丈夫よ」
「えっ?なに?なんて言ったの?」
「ううん!なんでもないわ!そうだわめぐみ!あなたのポケットのハンカチをくれないかしら?」
「ハンカチ?」
ハンカチなんてここに来てから使ったかな?きっとポケットからはみ出して見えてたのかな?
「こんなので良いならどうぞ」
「ふふふっこの花柄がとーーーても素敵ね!ありがとうめぐみ」
リボンはニコニコしたまま立ち止まっている。そこから歩き出さない。
「そんなに良いものでも無いって!いいからほらっ行こうっ!」
リボンの手を引く為に右手を掴もうとした。その時視界が急激にぼやけ出した。あれ?おかしいな。目眩だこれ。倒れないように踏ん張らなきゃ。リボンが心配するもんね。白んでいく視界にリボンのとびきり美人の綺麗な顔が見えなくなっていく。
「ありがとう、めぐみ。とーーーても楽しかったわ!」
「……めぐちゃん!めぐちゃん!大丈夫?」
「あ…あれ?」
視界がもとに戻るとりこちゃんが心配そうに私を覗き込んでいた。
「あれ?えっと…なんだっけ?私さっきまで…あれ?なに?なにが起こって?」
「大丈夫かな?熱中症かな?とりあえずなにか飲める?」
そうか私は自動販売機まで来てたんだっけ。
「エナジードリンク…」
「ダメダメ!私の麦茶で我慢して!もうめぐちゃんったら」
りこちゃんが心配半分、笑い半分で麦茶を差し出してくれた。ゴクリゴクリと麦茶を飲んだ。ふとある光景がよぎった。
「あっ!ねぇりこちゃん!昔ビー玉貰ったの覚えてる?」
「うん覚えてるよー。黄色のネットにたくさんビー玉が入ってるやつ貰ったね。2人で半分こしたよね」
「あれってなんでだっけ?」
「あれは確かね、めぐちゃんと一緒にこの駄菓子屋さんでラムネを飲んでたの。2人でラムネの瓶の中のビー玉をどうにかして出そうって頑張ってたんだけど全然出てこないからめぐちゃん落ち込んじゃって…」
「そうだっけ?」
「そうそれでね、そうしたらお店の中から綺麗なお姉さんが出てきて、それは取れないように出来てるんだよー、って」
「うんうん」覚えてる。思い出してきた。
「代わりにこれをどーーーぞって言って貰ったの」
「そっか。うん。確かにそうだったね」
「でもめぐちゃんったら、お金が無いから要りませんっ!って言ったんだよー」
「ううん?そうだっけ?」
「お姉さんは、お金なんて要らないわ!って言ってくれたんだけど、めぐちゃん納得出来なくて、それならこれあげるってハンカチをあげようとしたの!」
「昔の私アホじゃん。笑っちゃうね、恥ずかしい」
「めぐちゃんは昔っから大人びてたからタダでなんて貰えないって思ったんだね。お姉さんは、それなら今は要らないけどまた会ったときに頂戴ね!って」
「そうか。そうだったのか。うんうん」
なにかが繋がるような、繋がらないような不思議な感覚。でも確かなのは心がとてもポカポカしている。
「めぐちゃん立てる?ゆっくりでいいから一緒に帰ろう」
「うん大丈夫。分かった」
りこちゃんに手を引かれ立ち上がる。りこちゃんはニコニコしている。
「そういえばりこちゃんなんでここに居るの?」
「今日は終業式だけだから半日だったんだよ」
私はここに2時間近く居たのか。発見者がりこちゃんで良かったが流石田舎だ。場所が違えば救急車を呼ぶ騒ぎになっていただろう。てんやわんやして面倒なことになっていたはずだ。
りこちゃんと手を繋いで歩き出す。
「あのお姉さんっててっきり駄菓子屋のおばあちゃんの親戚とかだと思ってたけど、あれから一度も見かけなかったね」
りこちゃんの言葉にうんうんとうなずく。
「ねぇめぐちゃん、夏休みなんだけど、昔みたいにまためぐちゃんのお家に遊びに行って良いかな?私めぐちゃんに話したいこと沢山あるの。めぐちゃんの話も聞きたいなっ!お兄ちゃんのエナジードリンクこっそり持ってくよ?どうかな?」
天真爛漫に笑うどこかの誰かさんが私に、ほらもうめぐみは大ーーー丈夫!頑張れ!っと言っている気がした。
「うんっ!りこちゃん良いよ!それはとーーーても素敵ね!」
りこちゃんはふふふと笑って嬉しそうだ。
なんてことの無いいつも通りの家までの道が、なんだかとっても綺麗に見えた。
気がした。
ビー玉 花恋亡 @hanakona
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