はる

桐島あお

はる

セックスについて話せばゆっくりと水底になる春のリビング


酸素なら足りているのにひらいては閉じる互いの口をみていた


冗談のようにわたしに触れないで黙るだけなら紅茶を淹れて


対岸を眺めるような目の奥に言葉以外もみつけてしまう


溢れれば届かないからシンプルに削いだ台詞はひどく尖った


目を閉じて走り出すには遅すぎて正解だけをさがすのだろう


(あやまれば本当になる結論を避けるみたいにあなたが笑う)


誰用の優しさですか痛くないのに撫でられてあとから痛い


約束はひとつの炎 狭くなる足場で不意に寄り添っている


あきらめるために足掻いて婦人科に似合わなかったあなたのスーツ


踏みつけたのがいつなのか分からない花びら靴のそばにみつける


慣れるとはなにかを殺すこと脚をひらけばちゃんと力が抜ける


可能性ばかり教える先生のめでたしはでも他人の話


どうしたいどうしたいって叶うなら美味しいところだけが食べたい


しあわせな頃に描いたゆめだからなくしたふりで奥に隠した


背に添えてくれる右手の反対が午後に間に合う電車を探す


進まない道の地図だけ眺めれば辿り着けないことはわかった


(セックスをしない生殖わたしたち水の生きものならばとおもう)


いつもより長いLINEとお土産のケーキあなたに似合うスタンプ


生まれないきみの名前を考えて春の真昼をひとりで歩く


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はる 桐島あお @natsunoyuugata

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