最終話 萌える宇宙
「あなたは……とんでもない事をしてくれましたね!」
目にいっぱい涙を溜めて、蒼醒めた顔でエカテリーナ・ヴィッチェーロ公爵令嬢が糾弾する。ほんのり湯が赤みを増した湯船の中で、お互いに全裸で……。
なんで突然、カーチェ様の身体が元に戻ったのか?
そんな疑問はさておいて、俺は素直に口にした。
「やっちゃったものは仕方がない。……良かったよ、カーチェ様」
「あなた、自分のしたことの自覚がありますか?
「カーチェ! わたくしの聖力を奪った報いですわ!」
病んだ目のクリス様が、乾いた高笑いを浴室に響かせる。
今度は猫と子犬ではない。全裸のクリスとカーチェの乱闘だ。目のやり場に困る。
騒ぎを聞きつけて、シャルロット様とカテジナ様もやって来た。
「あぁ……カーチェが処女喪失でリタイアなのぉ? クリスちゃんやり過ぎぃ!」
「不覚。その手があった」
苦笑いのシャルロット様はともかく、何でカテジナ様も服を脱ぐ?
そのまま湯船の俺に跨って、ニンマリと微笑んだ。
「エッチする。合法的にリタイア。私悪くない、完璧」
そう言えば、この人だけは銀河聖妃になる気がないのだった。銀河皇が好みでないという、単純明快な理由で。
「ヤりたい盛りの年頃。直ぐにできる筈」
「やめて……魅力的かつ直接的な誘惑……」
サバサバ系なのに妙に色っぽいカテジナ様に、張りのある巨乳を擦り付けられ、また女の子と男の子をスリスリされれば、元気にならぬはずがない。
……そのまま盛りの付いた子犬のように、ご馳走になりました。
更に、それで終わらない。
「今日は猫じゃないから、最後までできますね~」
有無を言わせぬ笑顔で、カーチェ様が完全KOされたたクリス様を引きずって来るし……。
据え膳食わぬは男の恥ともいうし、カーチェ様の笑顔が妙に怖いし。
しっかりと、クリス様の初物も頂いてしまったわけで。
更に、混乱させるのが大好きなシャルロット様が
「
なんて、思いついてしまったために、甘ロリワンピを脱ぎだして……。
聖准聖妃の処女、四枚抜きの偉業を達成してしまった夜でした。
☆★☆
あの、衝撃の夜から一ヶ月が経った。
四匹の面白動物ならぬ、四人の聖准聖妃様たちは、なぜかまだ俺の家でダラダラと過ごしていた。
「カーチェ様ァァァァっ!」
「ぁああああんっ!」
……何か、一度したら、みなさんハマってしまったようで。
エターナル童貞ライフが、すっかり美姫やりまくりリア充ライフに。
恥じらいつつも名器なカーチェ様に、情熱的なクリス様、玩具大好きシャルロッテ様に、トリッキーな技工派カテジナ様と、四者四様。奥が深い……。
俺が夏休みに入ったのを良いことに、太陽が黄色く見える毎日。
だが、断じて後悔はない!
こういう日々を男冥利に尽きると言うんだろうね。
「あの……皆様、銀河聖妃の座を懸けた争いの方は……」
「「「「どうでもいい」」」」
ですよねぇ……。
動物体での戦いを見慣れていたせいか、戦うというよりじゃれ合ってるようにしか見えなかったし。
それにカテジナ様ほどはっきりは言わないが、誰しも今の銀河皇は男性的に好みではないという言葉を呑み込んでいる気がする。
それよりも、一族郎党の悲願とか、そのために育てられてきたようなものだから……とか、義理立てで戦ってたんじゃないかと思うんだよね。
この四人、多少のやり過ぎはあっても、基本的に仲が良いし。
だが、そんな怠惰な日々も永遠に続くはずもなく。
シャルロット様が、それを見つけた。
「あらぁ……中継ドローンが飛んでるぅ」
銀河聖妃の座を懸けた戦いを宇宙に中継する銀河ネットの撮影用ドローン。
それが飛んできた時、カーチェ様はクッキーを齧りながら腹ばいになって、タブレットのラブコメ映画に夢中になっていて。
クリス様はラムネの瓶に舌を挿れて、ビー玉を取ろうとしていて。
シャルロッテ様は少女漫画に夢中。
カテジナ様はPGジオングの仮組みに集中していたりする。
「あのぉ……皆様、何をしてなさるんで?」
ドローンから聞こえる実況アナウンサーの声にも、胡乱げに答えるだけ。
「夏の午後のひとときを、エアコンに当たりつつ、自由に過ごしてますが?」
「あのぉ……銀河聖妃の座を懸けた戦いは……」
「四人ともぉ、処女ではなくなったのでお終いですぅ」
「それで済む問題ですか?」
「レギュレーション上、処女は必須条件。全員、対象外なら続行不能。ルールの盲点」
「……確かに。で、ですが……」
「もう無かったこととして下さいませ。わたくしたちは、ここでのんびり暮らします」
「……前例及び、このような場合の処置を確認してまいります」
再びブ~ンと飛んでゆくドローン。
元気でね~と、みんなで手を振って見送る。
だが、もちろんそれで終わりなはずはなかった。
三日後、突然日が陰ったと思ったら、我が家の上空に巨大なUFOが!
日照権を求めて訴えてやるつもりが、先にUFOから降りてきた奴がいる。
「げぇ……銀河皇」
カテジナ様の心底嫌そうな声。
何となくそれもわかるわ……降りてきた男を一言で言うなら、青髪の
「かなり特殊な状況となっていると聞いて、銀河皇たる余が、争いの継続か、中止かの判断を委ねられた。……エカテリーナ、これはどういう状況か?」
「はい。女の悦びを知ってしまったので、全員リタイアとなりました」
「では、争いを継続する気はないと?」
「争ってまで、奪い合う魅力ない。銀河皇、相手不足」
「次代にぃ、夢をかけてくださいましぃ。カーチェちゃんの所は四十代の行かず後家ぇ。ウチとカテジナちゃんの所は該当者無しでぇ、クリスちゃんの所の四歳児とのタイマン勝負ねぇ」
うわぁ、言いたい放題。
銀河皇も顔が引き攣ってるよ……。
真っ赤な顔が、何度も深呼吸を繰り返して平静を装う。
「くっ……み、見損なったぞ。銀河を代表する名家の娘が、そのふしだらさは何だ! お前らのような女に銀河聖妃の座はもったいない! 四十の行かず後家か、四歳の幼女のほうがよほどマシだ!」
震える声の捨て台詞に、四人の元聖准聖妃たちは、拍手喝采である。
だが、一人だけその物言いに切れた奴がいる。
……俺だ!
「待てよ! 銀河皇だかなんだか知らねえが、そこのおっさん!」
「無礼な! おっさんではない。余はピチピチの十七歳だ」
「おいおい……じゃなく?」
四人を振り返ると、渋い顔で頷いている。
ええっ! このフライドチキン売ってそうな顔と体型で十七歳……マジかよ。
「言いかけてやめるな。余に何か不平があるのか?」
おお、そうだったそうだった。
あまりのショックで、頭から飛んじまったぜ……。もう一度怒り直して。
「待てよ、おっさん! 聞き捨てならねえこと言うじゃねえか!」
「だから、おっさんではないと……」
「そこをぶり返すと、話が進まねえから流せ!」
「むぅ……聞き捨てならぬこととは、何だ? 平民」
「たかが膜一枚の問題で、この四人を行かず後家の四十歳にも劣るというのか?」
「……四歳児は文句ないのか?」
「未来があるし、将来は美少女の可能性もあるからな」
「だが、ルールはルールだ。この銀河皇の后になるには処女は必須である」
胸を張って、偉ぶる銀河皇。
俺は見透かした態度で、偉そうなトッチャン坊やを鼻で笑った。
「ああ、ルールの問題で選べないんだ。哀れな男よ……」
「哀れとは何だ! 余は銀河を統べる銀河皇なるぞ」
「哀れだろう? たかが膜一枚の問題で、選りすぐりの四人を抱くことすら叶わず、四十の行かず後家で満足せにゃならぬのだから。なぁ、カーチェ様」
ちらっと水を向けると、頬を赤く染め、もじもじするカーチェ様。可愛いっ。
その可憐さにソワソワするのは銀河皇だ。
「……待て、エカテリーナはそんなに良いのか? 美形で淑やかだが、お人形じみている印象なのだが」
「ムフフッ……堪らんぞ、カーチェ様は。羞恥心が強いからなかなか乱れないが、一度つ崩すと、まさかの乱れような上、正真正銘の名器の持ち主で……」
「ズルいぞ貴様!」
掴みかかってくるのを軽く避けて、金的に蹴りを一撃!
あーすっとした。
さっきから、こいつの態度にモヤモヤしてたんだ。
どうせ、先祖代々の地位で、こいつが何をしたわけでもねえだろう。何をふんぞり返ってやがるんだか……。
でも、カーチェ様はじめ、目を丸くして俺を見てる。何で?
あれ? 銀河皇とやらの金的蹴り飛ばした時に、飛び出した光の玉が俺に向かって飛んできて……。この湧き上がる力は何だ?
「下剋上! 下剋上成立! 銀河皇が倒され、新銀河皇が誕生しました!」
撮影ドローンの中の人が、興奮してまくしたてる。
何が何だか解らず、俺が唖然としてる内に、まずカーチェ様が凛々しく叫んだ。
「ヴィッチェーロ公爵家は、新銀河皇を指示します!」
「ネルヌール辺境伯家もぉ、新銀河皇を指示しちゃうのぉ!」
「トリスタニア伯爵家も、新銀河皇を指示させていただきますわ!」
「ヤムエル伯爵家も、当然。新銀河皇、指示!」
四人の聖准聖妃たちが並び立つように、新銀河皇……俺なの? の指示を叫んだ。
確か、銀河の四大名家と言ってなかったっけ?
「ふふっ……クーデター成立ね」
カーチェ様が抱きついてくる。……柔らかい。ワンコじゃない。クリス様の豊満な胸が右腕に押し付けられ、左にはカテジナ様の胸。腰にはシャルロット様の下腹部がスリスリと……。ここはきっと天国。
俺の耳に、カーチェ様が囁く。
……そうか、そういう手もあるんだ。
俺は撮影ドローンに向かって宣言した。
「新銀河皇として、ここに今回の銀河聖妃の座を巡る戦いの終結を宣言する! 特殊な事例により、この場合の処理は前例が無いため、この度のケースが、今後の前例となる。
聖准聖妃四名が全て純潔を失ったものの、奪った者が新銀河皇の座についたことから、四名全員を銀河聖妃として受け入れ、特例としての重婚を認めるものとする!」
☆★☆
その後……。
何の変化もない。
ただ俺の家は銀河皇公邸となって、地球もその支配下に置かれることとなったくらいだ。
「政治は……選挙で選ばれた政治家が行ってますもの」
「任せちゃってぇ、良いと思うのぉ」
「銀河皇の主な仕事。次代への子作り」
「ベッドの用意はできてるわ」
…………パラダ~イス!
(終わり)
超銀河聖妃伝説ヴィッチェーロ ミストーン @lufia
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