目が覚めてから、しこたま叩かれた。正直しぬかと思った。身体中がぼろぼろで、そのひとつひとつが、彼女の打撃で軋んだ。


 あれから、3年ぐらい寝ていたらしい。


 彼女は、3年ぐらい一緒にいたらしい。


 しぐさで、なんとなく。分かってしまう。彼女も、こちら側に立ってしまった。任務の側へ。街を守る側へ。


 彼女。何か言いたいけど、言えない。そんな感じの顔をしている。感情の風船が、爆発して弾け飛んでいた。破れてる。彼女の、こんなの、初めて見た。街を見ているときよりも、いま自分が目覚めたときのほうが、風船が大きかった。というか弾けた。なんか、なんとなくだけど。うれしい。何かに勝った感じがする。


「元彼に勝った的な感じか」


 つい、思ったことが口に出てしまった。また、しこたま叩かれる。


 彼女。感情が弾けると、声が出ない。初めて知ったな。何か言おうと、必死に落ち着こうとしている。


 何か言った。


 聞こえないので。


 耳を近づける。全身が軋むので、顔ごと寄せる。


「すき」


 どうやら、そう言っているらしい。息を吐くその動きで、とりあえず喉をならして発声してるみたいな。なんか、おもしろくて。笑ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る