夜、街の景色
春嵐
第1話
彼のことが好きだった。過去形。
彼はもういない。どこかに消えた。
なんか、こういう日が来るって。心のどこかで分かっていた気もする。この街に、彼の生きていた痕跡は残っていない。わたしだけが、彼を覚えている。
そういうのが彼の、生き方、みたいなものだと思う。ある日突然消える。それまで、何かよく分からないことをしている。たぶん、きっと、世界とか救ってるんだろうなって。そんな、こと、考えたり。してる。
彼がいなくても、わたしの日常は続く。たぶん、それが分かっているから、彼もわたしの隣にいてくれたんだと。気付いている。気付いてた。だから、ちょっと、違っててほしかったなって。思わないでもない。
夜景。街は、今日もネオンで輝いている。そのくせ、夜空には箱いっぱいの星。反射しない特殊なネオンがどうこう。よく知らないけど。この景色が、とても好きだった。これを見るために、この部屋に住んでいるといってもいい。ネオンと、星。地上と、空。綺麗に揺れている。
泣いている。
この景色がきれいだからなのか。彼がいないからなのか。両方か。泣いてる。
こういうタイプじゃない。映画とか見てもそんなに泣かないタイプ。転んでも、いたい、とか言わない。無言。
泣いてたら。
彼が来て。
なぐさめてくれるかなとか。
思うだけ。知っている。彼は来ない。
ので。
夜景がきれいだから泣いているということにした。この街を。この景色を。見ている間は。泣いていい。そういうルール。
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